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  • 2020/12/15 掲載

DX賢者企業が「絶対にやらない」こと、「Low-hanging fruits」に注意せよ

連載:大野隆司の「DX」への諫言

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DX(デジタルトランスフォーメーション)のX、トランスフォーメーションを最もうまく進めている企業と言えば、どの企業を思い浮かべるだろうか? 日本にも世界にも、見事な戦略をもとにXを達成している企業がある。一方で、残念ながら「スジの悪い努力」によって成功をつかめない企業も少なくない。実はDX賢者といえる企業には共通のポイントが存在する。今回は、DX虎の巻があれば「第0章」にあたるこの法則について、掘り下げていこう。

ジャパン・マネジメント・コンサルタンシー・グループ 合同会社 代表社員 大野 隆司

ジャパン・マネジメント・コンサルタンシー・グループ 合同会社 代表社員 大野 隆司

アクセンチュア、ヘッドストロング・ジャパン、ローランド・ベルガー、KPMG FASなどで33年余にわたり経営コンサルティングに従事。成長戦略の策定、新規事業の創出支援、それらの実現のためのオペレーション戦略の立案・設計など数多くのプロジェクトを手掛けている。近年はデジタルトランスフォーメーション(DX)、イノベーション創出、M&Aに関わる支援を中心にしている。

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DXがうまくいかない企業は「スジの悪い努力」を続けている
(Photo/Getty Images)

Xは変革のX

 DX(デジタルトランスフォーメーション)のX、トランスフォーメーションを最もうまく進めている企業の1つとして、富士フイルムがある。デジタルカメラへの環境変化にうまく対応し、事業ポートフォリオを入れ替え続けている点は、企業戦略として学ぶ点は多い。

 オーストラリアのナショナルフラッグであるカンタス航空では、旅客輸送を超える収益が新規事業によってもたらされるようになって久しい。FFP(いわゆるマイレージプログラム)の顧客を「資源」として活用し、保険など多様な領域へと事業を拡大しているのだ。

 小売業・消費財では「アマゾンエフェクト」と呼ぶオンライン購買によるネガティブな影響が指摘されているが、店舗販売型小売業の巨人ウォルマートは、オンライン販売と店舗販売の融合により、アマゾンエフェクトへの対抗を急速に進めてきている。

 一方で、Xからほど遠いまま数十年を過ごしてしまい、苦境に陥っている企業も多い。洋の東西に関係なく、多くの百貨店、新聞、地方銀行、アパレルなどの業界に多く見られる。

 これらの企業も環境変化を感じ、それなりに努力や苦労はしてきたはずだが、「スジの悪い努力」をいくら続けても、残念ながら得られるものは少ない。顧客に刺さらない的外れなゴール設定、業務効率化などの内向きに偏り過ぎる改革をいくら進めてもダメということだ。

 筆者はいま、多くの企業が手掛けているDXに同様の懸念が見えると感じている。この「スジの悪い努力」から逃れるには視座を上げることが必要であり、そのためにイノベーションが必要というところまで前回は述べた。


破壊的なイノベーションのためのDX

 イノベーションの定義については前回パビットとドラッカーのものを紹介したが、DX取組の視座をあげるという点で、故クリステンセン教授の「破壊的イノベーション」を共有しておこう。

 破壊的イノベーションとは、技術革新や新しいビジネスモデルによって、新しい市場に参入あるいはまったく新しい市場(無消費だった市場などともいう)を創出するものだ。なじみ深い事例ではフィルムカメラ市場を大幅に縮小させたデジタルカメラ、(そしてデジタルカメラ市場を縮小させた)スマートフォンなどが挙げられるだろう。

 破壊的イノベーションには、もう1つ「ローエンド型」とでもいうものがある。これは低価格・低機能・低品質(あくまでも既存のものに比べて)な商品・サービスにより、既存の市場を奪い取るというものだ。格安航空会社や回転寿司なども最初は破壊的イノベーションであったといえる。

 両者のアプローチは異なるものの、新しい価値の提示(ちなみに圧倒的な低価格もあたらしい価値である)が共通するポイントだ。DXの視座をイノベーションであげるためには、DXが「(顧客や消費者に)どのような新しい価値の提示」をしていくのかを考えるということだ。

賢者はデジタル技術から発想しない

 デジタル技術を生かした社会や生活の「ニューノーマル(新常態)化」が、多くの企業をDXへと駆り立てている理由であることは間違いない。最初に述べた3社のXでも、このニューノーマル化が大きな理由(場合によっては最大の理由)であることは間違いない。

 DXではデジタル技術のうまい活用が必要であることは間違いなく、DXを支援するコンサルティング会社やITサービス会社、DXを解説する書籍・カタログなどでは「御社が考慮すべきデジタル技術」が紹介されることが多いだろう。

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DXで紹介されるデジタル技術群(例)

 確かに、DXを具現化するために、エンジニアがこれらのデジタル技術を理解した上で、設計・開発を推進していくことは不可欠である。ただし、新しく提示していく価値をこれらのデジタル技術から考え始めてしまうと、検討の視座が上がり切らないままになるというリスクがある。往々にして「デジタル技術をどこに使うか」という議論に流れがちで、価値の視野が広がらないという結果になってしまう。

 組織の上から「AIを使って何かやってみろ」といった曖昧な指示で疲弊している会社が多いことに前回触れ、デジタルの活用は「X」のための「手段」であることを確認した。デジタル技術はDXに不可欠な要素であることは間違いないが、デジタル技術を用いることが目的ではない。

 デジタル技術がニューノーマル化した世界における新しい価値の提示、そしてそれによる成長戦略や参入障壁形成を考えることと、デジタル技術の利用から考えるということは、まったく別のことであることをよく認識・理解することが必要だ。多くの企業のDXの取り組みがひまひとつ足踏み状態である最大の原因は、この認識および理解不足にあるといえる。

 DXはデジタル技術からではなく、イノベーションつまりは新しい価値の提示から考えることが必要なのだ。

【次ページ】QCDSなどで「提示する価値」を見つける

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