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- 2021/04/19 掲載
デザイン思考は「切り札」か「たわごと」か? その“違和感”の正体
連載:大野隆司の「DX」への諫言
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ITやデジタル関係者にも大人気、背景にDXのスキル不足か
もしかすると、デザインシンキングを乱暴な言葉で表現した、2018年のナターシャ・ジェン氏による講演を見聞きした方もいるかもしれない。デザイン事務所が手掛けた多くの素晴らしい、尊敬すべき仕事(イノベーションや変革を生み出したものもある)があることは認識しつつも、デザイン思考というメソッド・手法を用いることが、本当にそれらを可能にするのだろうか。
情報サービス産業協会(JISA)による、所属企業の技術者への2020年度調査で、「今後システム・インテグレーションで利用すべき要素技術」としてデザイン思考が1位になった。
2位以下には、クラウドデータ連係、テキストマイニング、データマイニング、IoTセンサーなど、いわゆる旬な技術がランクインしていることからも、デザイン思考への関心はかなり高いことが分かる。
協会所属企業の多くはシステムベンダーだが、彼らはマーケティング上の最重要テーマとして、(能力的な可否はさておき)クライアント企業のDXの支援を打ち出していることから、デザイン思考をDX推進に生かしたいと考えているとみていいだろう。
DXでは、「X」による新規事業の創出や新規顧客の開拓といった、なかなか手ごわいテーマと向き合う必要がある。これは基幹系システムの再構築や業務効率化など、要件が比較的はっきりとしている案件に比べ(現在もこれらが稼ぎ頭ではあるのだが)、彼ら・彼女らの経験値が少なく、スキルが不足している領域だ。
「何から手を付ければいいのか」「何から考えればいいのか」「どう進めればいいのか」が分からないという不足を補う方法論として、デザイン思考への期待が感じられる。
DXという言葉が本格的に広まり出した2020年ごろから「従来の業務効率化から、価値創出のためのシステムを提供」といったフレーズが、多くのベンダーのトップから発信されている。
「その心意気や良し」ではある。
良しではあるのだが、IT革命が言いはやされた20年前、さらにそれ以前も同じようなことを言っていたことを思い出す。デザイン思考には「今度こそ」という切り札としての期待を強く感じる。
デザイン思考を見る前に「そもそもデザインとは?」
デザイン思考は「デザイナーの感性と手法をまとめたもの」であり、デザイナーの仕事のやり方を活用して、斬新な解決法を生み出すための方法論といったところだろう。デザイン思考の源流は1960年代と考えられる。デザイン思考という言葉そのものが世に出たのは1980年代後半に出版されたPeter Rowe著のその名も『Design Thinking』だろう。
「デザイン会社が、(今世紀にはいって)事業領域を広げるためのマーケティング手段だよ」といったシニカルな意見も聞かれるが、デザインという仕事の体系化や教育用のマテリアル化は、(多くの読者の)予想以上に長い歴史を持っているのも事実なのだ。
今日の流行はIDEO社(2016年より博報堂の持ち分法対象会社である)によるところが大きい。彼らが2010年代に出版した『クリエイティブマインドセット』『デザイン思考が世界を変える』などが、デザイン思考という言葉を広めていくこととなった。
デザイン思考の特徴を見る前に、「デザインとは?」を確認しておきたいが、著名なデザイン評論家、アリス・ローソーン氏によるものを用いたい。
- 世の中におこるあらゆる変化-社会、政治、経済、科学、技術、文化、環境、その他-が、人々にとってマイナスではなくプラスに働くように翻訳する 『変革の主体』としての役割(アリス・ローソーン著『姿勢としてのデザイン』より)
モノの形・模様、色など、いわゆる「意匠」と言われるものだけではなく、新しいカスタマーエクスペリエンスへの改造やイノベーションの創発なども、デザイナーが取り扱うテーマであるという考えだ。これらはサービスデザイン、ビジネスデザインなどと称されているものだ。
【次ページ】「デザイナーが用いるデザイン思考はDXの切り札になるか
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