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昨今、「RPA(Robotic Process Automation)」というキーワードもかなり浸透してきたが、実際に企業のRPAの業務への適用範囲を見てみると、RPAが本来担うべき役割よりも狭い領域で活用されている実情がある。こうした点を踏まえ、ここでは国内中堅・中小企業への聞き取り調査のデータを交えながら、RPAの利点を十分に享受するために留意すべきポイントを解説したい。
企業のRPA導入状況
RPA(Robotic Process Automation)とは、従来ヒトがPC上で行っていた操作を記録/定義することによって自動化するソフトウェアを指す。「ロボティック(Robotic)」という単語が含まれているが、いわゆる機械的なロボットではなく、あくまでソフトウェアである点に注意が必要だ。
以下のグラフは年商500億円未満の中堅・中小企業に対してRPAの導入状況を尋ねた結果を2019年と2020年で比較したものだ。
2019年から2020年にかけて「導入予定」が減少し、「導入済み」が増えている。つまり、導入を検討していた企業が実際の導入へと着実に進んでいる状況がうかがえる。
一方で、「現時点では判断できない」および「RPAという言葉を知らない」の値はほぼ横ばいだ。上記の結果から、一部の企業ではRPA導入が進んでいるものの、他方ではRPAの利点などに関する認知が十分に広まっていないことが分かる。
企業のRPAを活用目的
その大きな要因の1つを示唆したものが以下のグラフである。
これは年商500億円未満の中堅・中小企業に対して、RPAを適用したいと考える場面や用途を尋ねた結果を2019年と2020年で比較したものだ(その中でも特に注目すべき項目を抜粋してプロットしている)。
選択肢に記載した場面や用途の具体例は以下の通りである。
●紙面データからの転記
例)紙面の申込書内容を顧客管理システムに入力する作業を自動化する
●Webサイトからの転記
例)競合他社の価格情報を検索して一覧に整理する作業を自動化する
●データの集約と修正
例)店舗や拠点の売上データを統一された書式にまとめる作業を自動化する
●データや書式の変換
例)システムAのデータをシステムBに読み込むための変換作業を自動化する
RPAが登場した当初は「大手の金融業や保険業において、紙面の申込用紙を転記する作業を自動化して、年間数千時間分の人員削減に成功した」などの事例が注目を集めた。上記のグラフでは「紙面データからの転記」や「Webサイトからの転記」といった転記の自動化がこれに該当する。
だが、大企業と違って中堅・中小企業では転記業務の作業量がそれほど多いわけではない。そのため、中堅・中小企業が転記の自動化だけのためにRPAを導入するのは投資対効果の面で難しいという課題があった。
それを受けて、IT企業からユーザー企業に対してはグラフの下半分に記載されているような「データの集約と修正」や「データや書式の変換」といった統合/連携の自動化も提案されるようになっていった。実際、2018年から2019年にかけて、こうした用途の回答割合が増えつつある兆候が見られた。
しかし、上記のグラフが示すように2019年から2020年にかけては、「統合/連携の自動化」が減少し、「転記の自動化」が増加する結果となった。RPAの適用範囲が複数のシステムを跨いだ統合/連携から特定の転記業務へとふたたび狭まることになったわけだ。
この背景にあるのは、新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、多くの企業が急遽取り組むことになったテレワークである。
ヒトによる手作業が必要な転記処理を自動化することで、オフィスへの出社を極力減らすことができる。さらに、RPAの導入コストも徐々に下がってきている。そのため適用範囲が狭くなったとしても、すでにRPA導入を検討していた企業が導入に踏み切ることになったわけだ。
ところが、これにより「統合/連携の自動化」という幅広い役割を担うはずのRPAに対する認知が「転記の自動化」を担うツールに逆戻りしてしまうことになった。
そのため、転記が必要ないと考える企業の導入意向は「現時点では判断できない」で停滞し、適用範囲が狭くなったことでRPAを知る切り口も減って「RPAという言葉を知らない」という回答割合にも大きな変化が見られなかったと考えられる。
RPAが果たすべき役割は「転記の自動化」だけでなく、複数システムを跨いだ業務の効率化に寄与する「統合/連携の自動化」であることを理解しておこう。
【次ページ】RPAの要注意課題、トップ3とは…?
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