- 会員限定
- 2021/07/21 掲載
「テレワークで生産性低下」は日本だけ? 通勤との“ハイブリッド”で重要な施策とは
なぜか「テレワーク導入で生産性が低下」する日本
コロナ過でのテレワークの普及は、日本をどう変えたのか? まずは、その導入率や導入効果に関する調査の結果から考察していこう。総務省は2021年6月1日、「令和2年通信利用動向調査」の結果を公表した。同調査では、2020(令和2)年8月末時点における世帯・企業での情報通信サービスの利用状況が取りまとめられている。
その結果によると「在宅勤務を中心とするテレワークを導入する企業の割合は、前年比で倍以上の47.5%に達した」(2019年は20.2%)という。産業別では「情報通信業」が9割以上導入し、導入目的としては「非常時(感染症の流行など)の事業継続」が7割近くと最も高かった。
この数字から何が読み取れるのか。レノボ・ジャパンでワークスタイル・エバンジェリストを務める元嶋 亮太氏は「緊急事態対策としてテレワークが浸透したものの、その場しのぎだった企業は少なくない。政府の感染症対策が少しでも緩和すれば、オフィスに出勤する従業員は増える傾向にある」との見解を示す。
その理由について、同氏は「テレワークが生産性を低下させている」ことを挙げる。レノボが2020年に世界各国で実施した調査によると「テレワークでは、オフィス勤務時よりも生産性が下がる」という回答結果が得られたからだ。他の主要国がすべて10%台なのに対して、日本だけが「40%」と異様に高い。
さらにレノボ・ジャパンが2021年4月に実施した調査では、回答者の46%が「同僚との対面コミュニケーションがなくなったことで、ストレスや不安を感じる」という。場所や時間を問わないテレワークは、一見すると多くのメリットがあると考えられる。しかし、日本企業の場合、かえってマイナスになると捉える向きもあるのが実態だ。その一方、テレワーク導入によって、着実に生産性が向上した企業も存在する。
従業員満足度が大幅に向上したNTTコミュニケーションズ
テレワーク導入で生産性向上を実現した企業の1つが、NTTコミュニケーションズだ。同社では「リモートワーク」と呼んでおり、コロナ禍の2020年2月にいち早く全社リモートワークへの移行を決断した。その後、従業員の利用率は80%を維持しているという。また、「Microsoft Teams」によるオンライン会議の月間開催数は、コロナ以前の1万5000回からコロナ禍に20万回に急増した。NTTコミュニケーションズのヒューマンリソース(HR)部長を務める山本 恭子 氏は「リモートワークの推進によって、従業員の勤務時間が増えた」と自社に起こった変化を語る。
同氏によると、朝9時前から業務を開始する従業員が増えたという。実際、同社の社内調査では「従業員の残業時間は平均1日15分、月累計で5時間になった」という結果が出ているが、「片道1時間の通勤時間がなくなったことで、実質的には従業員が使える自由時間が増えている」(山本氏)と考察する。
その結果、同社の従業員の多くが「働く時間と場所の柔軟性」を前向きに受け取り、従業員満足度(ES)も向上。2020年12月調査では「生産性高く働ける」など全項目においてポジティブ回答が過去最高の数値になったとした。
リモートワークの導入効果については「いきなりESが上がったので驚いた」と山本氏が話すほどだ。属性別に見ると、女性従業員の満足度が上がって男性とほぼ同等になった。また、年代別では30代が上がったことで、世代間の差が縮まっている。
企業にとっては、ワークスタイルの変化による従業員が抱えるストレスへの対策も重要である。同社では、業務負担は増加傾向にあるものの、同僚や上司の支援が図られたことで、「個人のいきいき」「職場のいきいき度(職場の一体感)」というストレスチェック項目が改善傾向にあるという。
全従業員が“リモートワーク・ネイティブ”な働き方へのシフトを
今後の展望について、山本氏は「20年近く前からリモートワークのトライアルを開始し、2020年2月には派遣社員を含めた全面的な移行をようやく実現できた。これからもワークスタイル変革を進めることで、全従業員が“リモートワーク・ネイティブ”な働き手として生き生きと働ける場の提供を目指す」と力を込める。現在、同社がワークスタイル変革の施策として進めているのが「オフィスの価値の再定義」だ。従業員に対して「オフィスにどんな時に出勤したいのか」と質問したところ、「マインドチェンジ」「発想を得る」「コラボレーションによってアイデアを練る」などの回答が多かったことがきっかけだという。
そこで、NTTコミュニケーションズでは「チェンジ」「クリエーション」「コラボレーション」という3つの「C」を具現化するオフィスの設計に着手した。たとえば、首都圏にあった3カ所のオフィスビルを2カ所に集約し、従業員の出社率を3割と設定し、一人当たりの専有面積を従来の約2倍まで拡大。さらにNTTグループのアセットを最大限利用し、局舎を活用したサテライトオフィスも設置した。
それらの施策によって、紙の使用量を「年間A4用紙1600万枚」に相当する57%まで削減できた。一方で「オフィスがあれば、電力は必ず消費される」(山本氏)ことから、首都圏主要ビルの電力消費量は平均16%の削減にとどまっているという。
「従業員の帰属意識」に影響する、働きやすい環境・制度
持続可能なテレワークの実現には、環境面の環境だけではなく、組織制度と企業文化の改革も必要になる。ここからは、テレワークが定着した働き方を目指す上でこれまでの経験から得られた教訓について述べる。その一例として紹介するのが、働きがいのある会社研究所(GPTWジャパン)が2021年7月に発表した「コロナ禍における企業の『人的資本経営』に関する調査」だ。一般社員・経営層の1039人を対象に実施され、従業員が会社に対して感じている期待や不安、経営層が人的資本経営に対して抱えている課題などを取りまとめている。
同調査によると、会社への帰属意識はコロナ禍で「(帰属意識が)高まった」「やや高まった」という合計回答が20%超になった。また、その理由としては「テレワーク中でも会社が働きやすい環境や制度を整えている」点が最も多く挙げられている。
一方、「(帰属意識が)下がった」「やや下がった」を合わせると全体の12%を占めている。その主な理由は「コミュニケーションの頻度減少」と「連帯感の喪失」の2つだ。
これらの結果について、GPTWジャパンは「テレワーク中でも働きやすい環境や制度をいかに整備するか、従業員間のコミュニケーション機会や組織の連帯感をいかに担保するかという点が、帰属意識に大きく影響することが分かった」との見解を示している。
この調査からは、企業の経営環境が不透明・不確実性を増す中、自社の企業価値の向上を図るために、テレワーク環境の整備を含めた「人的資本に対する支援策の推進」がより強く求められること示している。
【次ページ】デジタル技術が変える、私たちの働き方 8つの未来予測
関連コンテンツ
PR
PR
PR