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  • 2021/08/11

違法な「転売ヤー」、なぜ減らないのか? 転売行為が生まれる経済のメカニズム

ホビー誌の編集者が、SNS上で転売行為や買い占め行為を容認する発言をしていたとして、出版社が退職処分を行うという出来事があった。2016年には音楽関係団体がチケットの高額転売に反対する意見広告を出したり、2020年にはコロナ危機によるマスク不足で政府が転売規制を実施するなど、高額転売が問題視されるケースは多い。経済学的に見た場合、転売というのはどのような行為なのだろうか。

経済評論家 加谷珪一

経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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なぜ転売は起きるのか?転売のカラクリとは…
(写真:AFP/アフロ)

市場が健全に機能していれば、不当な転売は成立しにくい

 ホビージャパンは2021年7月25日、同社が発行するホビー誌「ホビージャパン」の編集者が、転売や買い占めを容認するかのような発言をSNS上で行っていたとして、発言した社員を退職処分にしたと発表した。

 日本の労働法制上、よほどのことがない限り懲戒解雇にはできない。「退職処分」という曖昧な表現であることから、具体的にどのような措置を意味しているのかは不明だが、社員が責任を取らされたことは間違いないだろう。

 プラモデルなどホビー商品の転売は多く、一部の商品はネットで結構な値段が付いており、一部のファンからは批判の声が上がっている。商品を仕入れて、不当に高いマージンを乗せて転売する行為は弊害が多いが、市場が健全に機能している状態であれば、こうした不当な転売は発生しにくい。

 転売によって価格が不当に引き上げられているということは、供給に対して需要が圧倒的に不足しているという状況を意味する。もし市場が健全に機能しており、参加者が全員、合理的に行動するのなら、製品を提供しているメーカーは製品を増産することで利益を最大化しようと試みるはずだ。

 メーカーの動きを察知した消費者は、いつでも買えると考えるので、転売業者からの購入をいったん控えることになる。結果として転売価格は下落し、転売事業者は不当な利益を得られなくなる。

 だが、非常事態など市場が正常に機能していない時にはこうしたメカニズムは成立しない。コロナ禍におけるマスク不足はその典型で、多くの国民が短期間で大量のマスクを必要としたことから、供給が一気に不足し、品薄になってしまった。中にはマスクを買い占め、不当な価格で転売しようとする事業者が出てくるので、政府が規制を加えることには一定の合理性がある。

 では、今回のホビー商品やコンサートチケットのように、特に非常事態になっているわけでもないのに、なぜ極端な品不足と高額転売が発生するのだろうか。それは、製品を供給するメーカーや興行主による価格設定と供給量、そして消費者の購買力が影響している。

 メーカーや興行主は営利事業なので、基本的に利益を最大化するよう行動する。製品やサービスを出し過ぎると価値が下がってしまうので値崩れを起こす可能性がある。一方、供給量を絞り過ぎてしまうと、今度は消費者に製品やサービスが行き渡らず、転売などを誘発するリスクがある。

 特にコンサートの場合、むやみに公演回数は増やせないので、供給を絞り気味にして、プレミア感を出す戦略がよく用いられる。だが、需要と供給のバランスがうまく取れないと、転売が横行して多くの消費者からクレームが出る結果になる。

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商品を不当に高いマージンを乗せて転売する行為は弊害が多いが、市場が健全に機能している状態であればこうした不当な転売は発生しにくい…
(Photo/Getty Images)

日本では経済学の理屈が成立しないことがある

 では、諸外国ではこうした転売問題は発生していないのだろうか。もちろん、市場の仕組みはどこでも似たようなものなので、一部の製品やサービスについては不当な転売が行われているのだが、日本のような社会問題にはなっていない。その理由は、日本以外の先進諸外国では経済が順調に成長しており、消費者の購買力が高いからである。

 消費者の購買力が高ければ、事業者は値崩れや超過在庫を心配することなく、製品やサービスを増産できる。ある程度、多めに商品を出しても消費者が買ってくれるので、間に転売事業者が介入する余地は小さい。

 だが日本の場合、経済の基礎体力が弱っており、消費者の購買力も低下している。事業者にしてみれば、大量の在庫を抱えるリスクと隣り合わせになるため、製品やサービスの供給は抑制せざるを得ない。こうした状況で、ある商品に対して人気が集中すると、一気に品不足となり、転売事業者が暗躍する結果となる。

 チケットの高額転売問題では、音楽団体が「私たちは音楽の未来を奪うチケットの高額転売に反対します」という巨大な意見広告を新聞に掲載したが、一部の経済学者から異論が出るなど、ちょっとした騒動になった。


 基本的に経済学者は、市場は合理的で適正な価格形成が行われるという前提で議論を進めるので、理論に忠実に考えるなら、事業者がもっと製品を供給すれば問題は解決するという話になる。

 欧米各国の場合、その理屈は十分に当てはまるのだが、日本のような国は現実に存在しており、こうした国の市場は適性に機能しないことが十分にあり得る。一部の経済専門家は、値上がりした場合には事業者が直接、オークションで販売し、超過利益分は寄付などに充当すればよいと主張しているが、現実には多くの手間がかかるので簡単ではないだろう。

【次ページ】転売事業者をどう減らす?政府は規制の対象にすべきか?

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