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- 2024/12/07 掲載
経営学でわかる、効率化の「本当の意味」
加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。
経営学の基本は「テイラー」
仕事を効率よく進めるためにはムダを省くのが手っ取り早い。周囲をよく観察すると分かると思うが、仕事ができる人には基本的にムダな動きが少ない。経営学の世界でも、効率化というのは最大のテーマであり、仕事の効率化に関する研究から経営学はスタートしたという経緯がある。効率化やムダの排除に着目した経営学の基本といえば、やはりフレデリック・テイラーだろう。産業革命以降、社会は急速に工業化したが、企業経営は科学的とはいえず、思い込みや勘などによって運営されていた。テイラーはこうした世界に初めてマネジメントという概念を持ち込み、経営を科学するという考え方を定着させた。
テイラーが提唱した科学的管理法という概念は、あらゆる経営学の基礎となっており、現代経営学はテイラーからスタートしたといっても過言ではない。
テイラーはストップウォッチを使って工場の作業員の動作時間を計測したり、道具を変えてみるなどさまざまな実験を行い、その結果を元に「標準的」な作業というものを規定した。各作業員に標準化されたやり方で仕事をやらせたところ、それぞれ好き勝手な道具を使って自分流のやり方で作業するよりも生産量が増加し、コストは逆に低下することが分かった。つまり仕事を「標準化」することで、最も効率のよい形で仕事を進めることができるようになった。つまり効率化のカギを握るのは「標準化」ということになる。
テイラーの成果はその後、あちこちの工場で導入されていくことになるが、最も成功したのは日本の製造業といっても過言ではない。
日本の製造業はテイラー的なマネジメントを得意としており、工場の中では、作業員の動きが徹底して標準化されている。同じ製品を組み立てる場合でも、できるだけ動きが少なくなるよう配置や作業手順には工夫が凝らされている。業務を標準化するという考え方は日本企業の強みと認識されているものの、こうした話はなぜか工場の中ばかりである。
一般的なオフィスでの業務においてはムダが山積みになっており、これが日本全体の生産性を引き下げる大きな要因となっている。
ちなみにITの分野ではERP(統合業務パッケージ)というシステムが存在しているが、ERPはまさにテイラー的な業務標準化の概念をシステムに実装した製品である。ERPで規定されている業務フローに合わせて現場の業務を変革すれば自動的に効率化が実現できるというものだが、どういうわけか日本では逆の力学が働いてしまった。パッケージで規定された業務フローを無視し、自社の従来型業務フローに合わせてシステムをカスタマイズしてしまうという事例が多発したのだ。
結果として効率の悪い業務フローが温存され、ビジネスの標準化が進まず、システム導入費用だけがかさむという笑うに笑えない状態になってしまったのである。ERPが本格的に使われるようになってから20年以上が経過しているものの、いまだにERPをうまく使いこなせない企業が存在しているのが産業界の現状といえる。 【次ページ】重要となる「時間」の概念
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