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  • 2021/11/19 掲載

プロダクトで社会を動かしたいなら「政治と規制」をハックせよ 東大 馬田隆明氏熱弁

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革新的なプロダクトを世に生み出したエアビーアンドビーも、ウーバーも、テスラも、政治に関わり、ときには規制を変えて、その成長への足掛かりとした。「プロダクトの開発者は、より良い製品を作るために、ときに社会と向き合う必要がある」と東京大学 FoundXディレクターであり『未来を実装する』著者の馬田 隆明氏は熱弁する。「プロダクトマネージャーカンファレンス 2021」に登壇し、規制や政治を「ハック」してプロダクトと社会をより良い方向へ導く方法論を紹介した。
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“社会”というシステムの解析・改造・構築を行うために、開発者も規制と政治のハックが必要だと馬田氏は話す


より良いプロダクトを作るために、社会と向き合う必要がある

 仕事にプロダクト開発を選んだ人にとって、政治や規制というと、あまり関わりたくないものの1つかもしれない。しかし、開発したプロダクトを本当に社会に根づかせようと思うなら、政治や規制に正面から向き合った方がいい、と馬田氏は勧める。それは、「ユーザー体験をよくする」ため、「テクノロジーを社会実装する」ため、「社会に対する責任を果たす」ためにどうしても必要だからだ。

 1つ目の「ユーザー体験をよくする」とは、真に利便性を高めるために壁を乗り越えることだ。たとえば、請求書処理のSaaSを企画したとする。それにより、送られてきた請求書のデータをSaaSに入力すれば、自社の基幹システムに自動的にデータ連携するところまでは容易にたどりつけそうだ。

 しかし、振り込みは手作業で残る。このプロセスまで自動化するには、銀行にAPIを用意してもらう必要がある。本当にユーザーの利便性を考えるなら、それを無理だとあきらめず、実現のために動くべき、というのだ。

 2つ目の「テクノロジーを社会実装する」とは、本当に新しいテクノロジーを根づかせるには、それを受け入れる社会そのものが変化する必要があるということだ。馬田氏は「技術を生かすには制度や組織、仕事のやり方の刷新などの補完的なイノベーションが必要」と語り、例として電気の社会実装を挙げた。

 まだ動力が蒸気機関であった時代、エネルギー伝達に使われたベルトには、摩擦によってエネルギーロスが起きるという問題があった。そのため、常に蒸気機関を工場の真ん中に置き、大きな力が必要な機械はそばに持ってこなければならなかった。しかし電気に変わったことでエネルギーロスのない“送電”が可能になり、発電所での一斉発電、工場レイアウトの自由化といったさまざまな変革が生じたのである。

 3つ目の「社会に対する責任を果たす」とは、影響力を持つほど大きくなれば、それ相応の社会的責任が求められることを指す。責任が果たせなければ厳しく批判される。同氏が挙げた例は、日本で起きたソーシャルゲームの“ガチャ”問題だった。このケースでは、特定のアイテムを入手するためにユーザーが多額の課金をして社会問題になった。2012年5月に消費者庁が景品表示法違反である可能性を示唆、ソーシャルゲーム会社の株価は暴落した。

「だからこそ、プロダクトマネージャーはよりよいプロダクトを作るために、社会と向き合う必要があるのです」(馬田氏)

テクノロジーの社会実装のために、既存の法律をアップデートする

 それでは、どのように向き合えば良いのか。今回、馬田氏はこれまでになかったテクノロジーを社会実装するため、既存の法をアップデートするという観点で話を進めた。それも、国会の審議を経て交付されて強制力を持つ法律を対象に、その改正に向けてどう動くかという話だ。

 法律は、国の原理原則であり最高法規である憲法に次ぐ位置づけにある。官僚主導で制定される内閣立法と、議員主導で制定される議員立法があり、それぞれ前者は着実な改善に向いており、後者は大きな変化を実現するのに向いているという特徴を持つ。

 法律を変えようというとき、押さえておくべき基本スタンスは3つある、と同氏は語る。それは「立法趣旨の理解」「理屈の構築」「実績や証拠作り」だ。

 法律が制定される背景には、何かしらの課題解決やある意図の達成という目的が必ずある。まずはその歴史を調べ、趣旨にある「思い」と「願い」に立ち返る。また、自社の「思い」だけで法律は動かせない。変えたいと思うのであれば、それなりの理屈や理論武装が必要で、その理屈や理論の裏付けとなる実績や証拠も示さねばならない。

 既存の法律が目前に立ちはだかっているのに実績を積めというのは矛盾ではないかと思うかもしれない。しかし、そこは工夫する。相乗りタクシーを実現したいのであれば、道路運送法に抵触しない形で実施する、料金をもらわないクルマとして実施する、すでに用意されている制度を活用するといった具合だ。

 「実は、法律を改正しなくてもできることは多い」と、馬田氏は語る。たとえば、「ノーアクションレター制度」は、事業活動を行う前に、その具体的な行為の適法性を確認する手段だ。照会する法令を特定した上で、照会書に必要事項を記入して、照会窓口に提出することで回答を得られる。ただし、これは規制の担当省庁が窓口になるために判断が厳しくなる傾向があるため、いきなり申請するのではなく、事前に相談するのがおすすめだという。

 「グレーゾーン解消制度」は、新しく開始する事業において、規制の解釈や適用の有無を確認するための制度だ。こちらは事業の担当省庁が窓口となる。「ノーアクションレター制度」よりも照会できる法令が広く、すでに200件近い実績があるそうだ。相手が事業の担当省庁となるため協力が得やすいという特徴はあるが、“抵触する”という判断が下る場合もあるため、やはり事前に相談するのが良策となる。

 さらに、安全性等の確保を条件として、企業単位で規制の特例措置を認めてもらう「事業者特例制度」、現行の規制上新たな技術の実用化等が難しいとき、特定の範囲でそのビジネスを可能とするような取り組みである「規制のサンドボックス」もある。

 後者の場合、英国で認められているのは金融分野だけだが、日本ではほかの領域にも適用されているという。また、法律より強制力の厳しくない省令や告示での規制には、大臣決裁で変更可能なものもある。それによって乗り越えるということもある種の法のハック、こうした社会のしくみを知ってうまく活用しよう、と馬田氏は呼びかけた。

【次ページ】規制の考え方を変えるガバナンスイノベーションとアジャイルガバナンス

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