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- 2021/11/29 掲載
マクドナルドのプロダクトマネジメント論、なぜ「No」と言えない開発責任者はダメか?
関係者の要望を「断ること」が超重要なワケ
プロダクト開発に取り組む場面において、ステークホルダーからさまざまな要望が飛んでくるが、これらをすべて受け入れると、本来プロダクトが目指していた方向性にブレが生じ、想定顧客を満足させるプロダクトからかけ離れてしまうことがある。たとえば、機能を盛り込みすぎた十徳ナイフを想像してほしい。この十徳ナイフは、はたして使いやすく価値があると言えるだろうか。
マクドナルド公式アプリのプロダクトマネジメントを担当する、日本マクドナルド デジタル&レストランプロダクト統括部マネージャーの飯沼亜紀氏は、「できることの多さは、必ずしもプロダクトの価値と直結しません。プロダクトの進化の過程で、1つひとつの機能追加には意味があっても、全体を通して価値を高められたかに気づく必要があります。プロダクトに一貫性を持たせるために、プロダクトマネージャー(PM)には、関係者の要望を断る能力が求められるのです」と説明する。
また、飯沼氏はプロダクト開発の現場でうまくいかなくなってしまう要因として「すべての要求に対して『(プロダクト)バッグログに入れておきます』と言ってしまうこと」を挙げた。
飯沼氏自身も「以前は良く私もそのように受け答えをしてしまっていました」と前置きし、その上で「最初は確定的な表現を使っていなくても、それがステークホルダーの間で伝言ゲームのように広まることで、実現可能なことだと認識されてしまうことがあります。PM側ではまだやるとは決めていないし、いつやるかも明確にしていない場合でも、ステークホルダー側が『これはもうすぐ実現できる』と認識のずれが発生してしまいます」と飯沼氏は語る。
「No」を伝えるために重要な3つの要素
それでは、どのように関係者の要望を断れば良いのだろうか。飯沼氏は、「相手にとって不都合なことを伝える時ほど、納得感のあるコミュニケーションが重要になってきます」と語る。その上で、プロダクト開発の意思決定において、関係者の納得感を得るためのポイントになるのが、「プロダクトのブレない軸」「信頼」「伝え方」の3要素であると説明する。
飯沼氏によると、特に「こちらの立場を理解してもらう」ことで「信頼」を獲得することと、「(相手に伝える)Noを分解し整理した上で、Noを伝える」という「伝え方」が、相手の納得感を得るためのポイントになるという。
とはいえ、リクエストの要求元が社内の偉い人であったり、非常に影響力のあるクライアントであったりする場合、PMという立場では「Yes」と言っておいて、後で社内の開発チームに悪者にされた方が楽だと考えがちと飯沼氏は指摘する。「ただ、自分自身がやりやすいかどうか、というのはプロダクトの価値には一切関係ないことです。プロダクトのために心を強く持ち、意思表示ができることが重要です」(飯沼氏)。
「No」と伝えることが難しい理由
プロダクトの健全な成長のためには、PMは時には「No」と言わなければならない一方で、ステークホルダーのとの良好な関係を築くためことも重要となる。そのため、相手に悪い印象を与えないような「No」の伝え方をする必要がある。なぜなら、一般的に「意見の否定は人格の否定ではない」と言われるものの、ネガティブな印象につながることが多いためだ。
飯沼氏は、断られた側の反応として、Noと言われたことに対してまず衝撃を受け、その後、相手とのやり取りに対してネガティブな思考になり、最終的には相手に対するネガティブなイメージを抱いてしまうことが多いと説明する。Noと言う場合には、そうしたことを念頭に置く必要があるという。
それでは、相手にネガティブな印象を与えず、Noを伝えるにはどのような点に気を付ければ良いのだろうか。ポイントは「いかにNoと言わずにNoを伝えるか、どれだけNoを言う場面を減らすことができるか」だという。
【次ページ】ネガティブな印象を与えず「No」を伝える3つのステップ
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