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  • 2022/04/18 掲載

Mixed Realityから見えた、クラウドAIの進化がメタバースの鍵となる理由

連載:根岸智幸のメタバースウォッチ

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2016年にMR(Mixed Reality)ヘッドセット『HoloLens』シリーズを販売し、2021年にはMicrosoft MeshやMesh for Teamsを発表するなど、メタバース領域の重要なプレイヤーとなっているマイクロソフト。しかし、コンシューマ領域でユーザーが触れる機会がないため、その実態はわかりにくい。同社を取材すると見えてきたのが法人向けでの堅調な導入、ならびにクラウドとの関係の深さだ。その中でもカギを握るのが「クラウドAI」の進化である。ちょうどGPUの覇者、NVIDIAも3月22日に大きな発表をした。今回は担当者への直接取材などを通して、それぞれの点を線に結び付けてみていきたい。

執筆:根岸 智幸

執筆:根岸 智幸

1963年生まれ。Webコンサルタント、プロデューサー、編集者、ライター、エンジニア。90年代のIT雑誌を皮切りにWebクチコミサイト、SNS、電子書籍出版システム、ニュースメディアのグロースなどで、時代を先取りしてきた。

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メタバースはクラウドと切っても切れない関係にある(詳しくはこのあと解説していきます)

HoloLens 2はどこにあるのか?

 2021年に米ウォールストリートジャーナルが、「マイクロソフト、メタバース人材が大量流出」と報じたとき、NewsPicksでは「ホロレンズは凄い挑戦ではあるけど、PMF(注)がなかなか見えてこない。(中略)ハイエンド型はマーケットは無いのかも。Microsoftは方向転換してXbox VRにフォーカスをすべきだと思う」(原文ママ)という識者コメントがあった(Thirdverse 代表取締役CEO / ファウンダー 国光 宏尚氏)。

 こんな発言が出てしまうのも、『HoloLens』の独自性が報道されながらも発売されて5年以上経つのにコンシューマ市場で触れる機会がないからだ。

 マイクロソフトの『HoloLens 2』が標榜する「MR(Mixed Reality=複合現実)」は、「AR(Augmented Reality=拡張現実)」と同じく現実の世界の上にCG映像を重ね合わせて表示するが、単にオーバーレイで情報を表示するだけでなく、現実の空間にCGで描かれた物体を手で自由に操作可能な点が違う。

 2019年に公開されたデモ動画では、CGによる電子ピアノを10本の指を別々に使ってコードを鳴らしてみせた。それをデータグローブやリングのような機器を必要とせずに実現している。2022年現在でも非常に高度なハンドトラッキング技術だと言える。

注:PMF=プロダクトマーケットフィット。製品がターゲット市場のニーズに適合している状態。


 この処理を実現するには、SoCの『Snapdragon 850』のパワーだけでは足りず、マイクロソフトが独自開発した「HPC 2.0」というチップも使用している。ここでいうHPCとは「Holographic Processing Unit」の略で、MRの実現に必要な処理全体を担うという。

 最初のHoloLensに搭載されていたHPCは、テックメディア「The Register」によると、24基のDSP(デジタルシグナルプロセッサー)コアを搭載し、1兆回/秒の計算処理が可能だった。

 HoloLens 2に搭載されたHPC 2.0は「ディープニューラルネットワーク(DNN)」による深層学習に対応したAIコプロセッサを内蔵している。

 DNNは通常3層(入力、処理、出力)であるニューラルネットワークを4層以上に多層化したもので、クルマの自動運転などにも利用されている。

 HoloLens 2は、PCやスマホに接続する周辺機器ではなく、Windows 10を搭載した独立したコンピューターで、MRとハンドトラッキングによる洗練されたUIでEdgeブラウザーのようなUWPアプリケーションも利用できる。後述するがHoloLens用に開発された高度なMRソリューションもある。

 このように、なかなか魅力的だが、基本セットで42万2,180円もする。個人で購入することも可能だが、マイクロソフトによれば法人と個人開発者のための製品であり、残念ながらコンシューマ向けの展開を現在は考えていないようだ。

フロントワーカー現場で威力を発揮するHoloLens 2

 今回、HoloLens 2についてマイクロソフトに取材した。同社によると正確な数字は明かせないが、Fortune 500企業の50%超が導入検討やパイロット導入または現場での運用を開始している。日本でも「パッと名前が思いつくような大企業なら、たいていは検討か試験導入している」という。

 導入事例として公表されている企業・団体もいくつもある。まず、日産自動車では、EV専用パワートレインの生産ラインにおいて、モーターの品質を目視検査する技能の習熟トレーニングに使われている。

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日産自動車の生産ラインでモーターの品質を目視検査する技能の習熟トレーニングにHoloLens 2が使われている様子
(出典:マイクロソフト

 デロンギ社製コーヒーマシンのユーザーサポートを請け負っているベルシステム24では、本物のコーヒーマシンそっくりのCGをMRで操作することで、メンテナンス方法を学んだそうだ。


 長崎大学病院では、MRによるリウマチの遠隔診断を可能にした。長崎県は日本一離島の数が多く、患者は関節が痛くて腫れているのに2時間かけて船で本土に通わなくてはいけなかったり、船は風で欠航になったりもする。そういうリスクをMRとKinectによる患部の360度スキャンを組みあわせて減らすことができるのだという。


 ホンダやBMWなど世界中の自動車メーカーの部品を作っている武蔵精密工業では、メキシコ工場の生産ライン立ち上げのための海外渡航が新型コロナのため禁止となり、HoloLens 2を使って日本のエンジニアがメキシコのエンジニアを遠隔で支援して障害を乗り越えた。


 ほかにも多くの事例があるが、HoloLens 2の導入により、学習時間が短縮し、移動による時間と空間の制限がなくなり、多大なコスト削減効果が確認されている。日産の例ではトレーニング期間が10日から5日と半減し、武蔵精密工業の例では、11人分の海外渡航費用と時間が節約できた。

 これだけのコスト効果があれば40万円以上するHoloLens 2でも導入する企業にすれば安い買い物だと言える。

【次ページ】クラウド企業のマイクロソフトがMRを作る理由

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