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  • 2022/04/27

武器は「共感を呼ぶ力」、カワダロボティクスが人型協働ロボットを新投入した狙い

日本国内ではヒューマノイド(人型ロボット)の研究開発は冬の時代を迎えているようだ。しかし、軽量高剛性のロボットを作るための技術の応用範囲は広く、培われた技術は産業用にも使われている。カワダロボティクスの人型協働ロボットはその一例で、販売開始から既に10年以上が経過している。人型の協働ロボットを導入するメリットや現場の反応、あるいは普及にあたっての課題はどこにあるのだろうか。変わっていく労働現場ではどんな労働スタイルが求められているのか。製品ラインアップに新型を投入したばかりのカワダロボティクスに話を聞いた。

サイエンスライター 森山 和道

サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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カワダロボティクスの人型協働ロボット「NEXTAGE(ネクステージ)」

ホンダ「ASIMO」の一般公開デモが終了

 ホンダのロボット「ASIMO」の一般公開デモが2022年3月で終了した。ASIMOとはホンダが2000年に公開したヒューマノイドロボットである。ハードウェア・ソフトウェア共に更新しながら、運動機能だけではなく、人と共存するためのさまざまな機能を継続的に実装してきた代表的なヒューマノイドロボットだ。

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ホンダ「ASIMO」の一般公開デモ最終回の様子

 だが、2016年ごろから情報発信があまり行われなくなり、ついに一般公開デモも終了となった。現在もホンダ社内ではロボット研究は続いているとされている。だが「ASIMO」という一つのパッケージで発表されなくなってしまったこと、そして表舞台からいったん退場してしまったことは、エポックメイキングなロボットだっただけに、日本でのヒューマノイド研究が一つの節目を迎えた感を抱かざるを得ない。筆者も最後の一般公開日には、青山のウェルカムプラザホンダにデモを見るために足を運んだ。

 なお、今でも単にボタンを押すだけで1日数回のデモンストレーションを人前、しかも一般公開で行えるレベルにまで仕上げられたヒューマノイドロボットは、他に例がない。しかも、ASIMOはそれを20年間も続けたのだ。いかに見せていることがすごくても、チャンピオンデータをビデオで公開するだけのものとは完成度がだいぶ違うことは強調しておきたい。

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「2022国際ロボット展」の Hondaブースでの遠隔操作ロボットのデモ

ヒューマノイド開発から生まれた協働ロボット「NEXTAGE」

 しばしばヒューマノイドの研究は研究者たちの趣味のように語られることがある。「人のかたち」にこだわっている理由がわからない、実用化には至らないといった批判だ。半分はもっともな批判である。だが、ヒューマノイドの研究が実用に結びついていないわけではない。

 ヒューマノイドロボットのハードウェアには軽量で高剛性であることが求められる。ノイズ対策も重要だし、バッテリーを搭載する必要もある。もちろん制御技術も必要だ。対人サービスを行うための基礎研究の成果は、人型以外のサービスロボットにももちろん応用が可能だ。また、多くの人を引きつけることで人材育成にも貢献しているだろう。


 カワダロボティクスは、2009年から人型協働ロボット「NEXTAGE(ネクステージ)」を展開している。三品産業や電機関連の組み立てなどに用いられているこのロボットは、産業技術総合研究所が中心となり、川田グループも研究開発に関わっていた研究プラットフォーム用のヒューマノイド技術から出てきたものだ。ヒューマノイド研究がなかったら、このロボットもない。コンパクトさ、外見の親和性の高さは人型ならではのメリットだ。導入現場ではしばしば拍手で迎えられたり、社員証を胸につけてもらったりしているという。

 ロボットは大抵、「半完成品」で、ハンドやビジョンシステムは別にそろえる必要がある。周辺機器は言うまでもない。一方、「NEXTAGE」は6軸の双腕に首2軸、腰1軸と合計15の可動軸、ビジョンシステムを持つ「オールインワン型」である。周辺機器の整備は必要だが、ロボットのコントローラーも専用の台座部分に収められており、人と同等のスペースで作業ができる。各軸は最大出力80W以下の低出力モーターで構成されており、適切なリスクアセスメントを行えば、人と作業空間を共有して協働できるロボットだ。ロボットの停止状態を監視できる機能安全オプションも用意されている。

 台座部は昇降装置とキャスターで移動させることも可能だ。位置の認識はクロスマークのマーカーをステレオビジョンで画像認識させて行う。これによってレイアウト変更に対応する。より細かい認識はハンド部分のカメラを用いる。また必要に応じて、モバイル台車やスライダー上に上半身部分を載せて作業させることもできる。モバイルマニピュレータ型の「NEXTAGE Mobile」は工程間をつなぐ水すまし作業などに用いられているという。

 「NEXTAGE」は電子・電気部品業界や自動車業界から化粧品業界や食品業界など幅広い分野で、組み立てや検査工程、パーツ供給など色々な作業を行っている。国内100社以上の生産現場に導入されているという。累計出荷台数は非公開だが「数百台」とされている。

 2012年からは専用の独自ソフトウェア「NxProduction」を搭載。ロボットの操作指示、ティーチングや生産を、GUIを使ってワークフロー形式で行うことができる。モバイルマニピュレータ型の「NEXTAGE Mobile」のプログラミングも「NxProduction」で行える。会社としても、2013年に川田工業のロボット部門から、カワダロボティクス株式会社として分社化。はた目にはややスロースタートながら、本格的な展開を進めている。なお研究者向けには、ROS対応版「NEXTAGE OPEN」も提供されている。


「NXA」シリーズと「Nx-Solution」

 カワダロボティクスは2018年6月には新型「NXA」シリーズを発表した。「NEXTAGE」の動作軸を見直し、より動作速度を上げ、ペイロードを2.5kg、両腕で5.0kg(従来機種は片腕1.5kg)とするなど大幅なモデルチェンジを行った。従来機同様、双腕を使った組み立てやマルチタスクに対応し、人が使っていた道具を使って人の作業を代替できることから、三品業界の変種変量生産や試験・分析作業、パッケージング作業などに用いられている。


 同社では、2021年10月からはアプリケーションパッケージ「Nx-Solution」 も展開し始めている(。これは、三品産業で要望の多い共通作業向けに、立ち上げに必要な周辺機器、ティーチングデータをパッケージ化したアプリケーションで、それだけで特定の作業の自動化を実現、あるいは導入までのリードタイムを、おおよそ半分程度に短縮化することができるというものだ。

 これまでに小さい商品の梱包(こんぽう)箱の組み立て・箱詰めアプリケーション「Cobako(コバコ)」と、ポンプヘッドのようなバラ置きされたワークをピッキングして、自動機に整列供給を行う作業に最適化したアプリケーション「Pump(ポンプ)」がリリースされている。多少の微調整は必要だが、これにより、システムインテグレーターの手間がだいぶ減るという。現場ユーザーがロボット導入後のシーンをイメージしやすいという効果もあるだろう。



より高速、よりコンパクトな協働ロボット「Fillie」を市場投入した理由

 カワダロボティクスは2022年3月には人型協働ロボットの新機種「Fillie(フィリー)」をリリース。同月に行われた「2022国際ロボット展」では実機を使ったファイリング作業や、遠隔操作のデモを行った。

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カワダロボティクス「Fillie」。幅58cm、高さは台車込みで約162cm

 「Fillie」は、従来機よりもさらにコンパクトにして、動作速度を上げたモデルである。可搬重量は片腕2kg、両腕で4kg。同社は「どんな業界でも、誰とでも関係性を築ける柔軟性の高いロボット」で、「従来の市場はもちろん、人に関わる新たな市場への活用をご提案」とうたう。従来機である「NXA」シリーズの置き換えではなく、併売している。


 ただ、展示会での実機デモを見ただけでは、従来機との住み分けがよくわからなかった。「Fillie」はどのようなコンセプトなのか、カワダロボティクスの事業企画室長 兼営業部営業課長の藤井洋之氏と同技術部技術二課SI担当課長の菊池稔氏に話を聞いた。

 もともと「NEXTAGE」は、従来の産業用ロボットとは異なる、さまざまな領域での活用をPRしていた。だがロボットを使うにはユーザー側にも技術が必要だ。そのため、自社で生産技術部門を持つ、従来のFAの流れをくむユーザーが多かった。またNEXTAGEのコンセプトモデルが発表された2009年当時は、まだ協働ロボットのISO規格が決まっていなかった。

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カワダロボティクス 事業企画室長兼営業部営業課長 藤井洋之氏

 そこで、初期ユーザーから各種ニーズを聞き、ISOの定める要件に対応する新型として新型の「NXA」シリーズが開発された。肩・肘のピッチ軸が電磁ブレーキに対応し、アームの剛性が上がり、可搬重量も片腕定格で2.5kg、最大3.0kgとなった一方、ロボットはガッチリし価格帯も上がってしまった。それは、カワダロボティクスとしては「不本意だった」という。価格帯が上がってしまうと、その時点で「なかなか使えない」と判断するユーザーが増えてしまうからだ。そこで、「よりリーズナブルな価格帯で、『新しく使ってみたい』と思ってもらえるロボットとして『Fillie』を開発した」と藤井氏は語る。

「NXAは初期ユーザーの延長線上のユーザーを想定して開発されました。ですがFillieは新しいユーザーに使ってもらいたいと考えています。NXAで対応できたのはパワーとスピードでした。一方、ペイロードはそれほどなくてもいい、だけど速度は上げたいという要望が2017年、2018年ごろからありました」(藤井氏)

 具体的にいうと、三品業界での箱詰め作業等のことである。「NEXTAGE」は花王や資生堂でも用いられている。化粧品や薬は、重量はそれほどない。だが、大量の箱詰め作業が存在している。さらに箱詰めされた商品をダンボールケースに入れる作業も膨大だ。それらを自動化させたいという要望は各所に存在する。


 高速で動作するロボットというと、リンクが並列に配置されたパラレルリンク機構のロボットがよく使われている。だが、そこまでの速度は必要なくても、既存の「NEXTAGE」よりも、もう少し高速に作業コンベヤーからモノを運んでほしいという要望が強かったのだという。

 また、カワダロボティクスと川田グループは、ロボットを工場以外の場所、サービス現場にも普及させていきたいと以前から考えており、その現場になじみやすいように、よりきゃしゃなモデルとした。なおNEXTAGEは「オールインワン」をコンセプトにうたっているが、「Fillie」は下部のコントローラーと上半身部分を分離しやすいよう、モジュール化を意識した設計になっている。客先の装置やスライダーなどにも載せやすく、価格帯も抑えやすいためだ。つまり、ペイロードは少なくなったが、より高速かつコンパクトにして、モジュール化したNEXTAGEが「Fillie」だと藤井氏は話す。

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国際ロボット展でも従来機「NXA」と新機種「Fillie」の組み合わせをアピール

 「Fillie」のハードウェアで気になる点が肩軸である。カワダ社内では「NX01」と呼んでいるという初期型「NEXTAGE」の肩軸は15度下を向いた斜めだった。それをNXAでは一般的な3軸直交型とした。当時、これには顧客からの要望もあったと聞いた。だが「Fillie」では再び斜めになっている。なぜそうしたのか。

 SI担当課長の菊池稔氏によれば、肩軸を3軸直交型にしたことにより、結果的に手首から先を長くせざるを得ないケースが増えてしまい、作業性で課題があることがわかったからだという。そこで「Fillie」ではまた斜めに戻して、よりコンパクトにした。もっとも顧客によって要望はそれぞれ異なるため、選択肢を増やすべく併売するかたちにした。

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「NXA」を用いたボトルのフタ締め作業のデモ

 剛性や可搬重量で勝るのは「NXA」だが、サイクルタイム自体は「Fillie」の方が速い。カワダロボティクスとしては、小物を扱う三品産業でより適しているのは「Fillie」だが、「Fillie」が組み立てた商品入り小箱などをダンボールに詰める工程では、より重量物を扱えて箱の奥まで手先が届く「NXA」が向く、というかたちでアピールしていきたいという。


 なお価格は「NXA」が800万円から、「Fillie」が600万円からとなっている。ただし、これはあくまでロボット単体の価格だ。システムインテグレートしたときのトータルコストは、また異なる価格になる。本連載でも何度か述べているとおり、ロボットは本体価格よりもシステムインテグレーションのコストのほうが高い。

【次ページ】リードタイムを半減させるアプリケーションパッケージ

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