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- 2022/05/11 掲載
「うまい棒の値上げ」は危機の前兆? 物流コストインフレがもたらす大混乱とは
【連載】現役サプライチェイナーが読み解く経済ニュース
過酷なドライバー、それでも「賃上げ」が進まない理由
新型コロナによって物流網は分断され、世界のあらゆる地域で混乱が発生しています。こうした中、物流の最前線で働く人たちはエッセンシャルワーカーとして物流を止めないよう現場を支えてくれていますが、その環境は過酷なものです。そうした中、米国小売大手のウォルマートは、自社のトラック運転手に対し初年度から最高で11万ドル(約1,400万円)の給与を支払うと発表しました。また、同じくアマゾンでは初の労働組合が誕生し、労働者の最低時給を現在の18ドル(約2,200円)強から30ドル(約3,700円)に引き上げることに加え、休憩時間の延長や休暇制度の改善などを要求しているとの報道があります。
ウォルマートやアマゾンに見られる給与や労働条件の見直しに向けた動きは、日本においてあまり進んでおらず、より深刻な状況と言えます。
特に、デフレによる経済低迷が続き、労働賃金が低く抑えられている状況が続く日本において、物流インフラを支える労働者の賃金アップは進みにくい状況にあります。また、ドライバーなどの賃金アップは配送業者の体力を奪うことにもなるため、なかなか交渉が進みにくい状況にあります。これが、物流に携わるドライバーなどの減少にもつながっている側面もあるのです。
物流コストは過去最高水準、物流インフレが加速するワケ
本来はGDP(国内総生産)が低迷する日本で、物流の市場規模もそれに比例して縮小しても良いはずです。しかし、近年のeコマースによる電子取引の登場が、これまでの店頭取引から自宅配送へと「モノ」の流れを変えたほか、「小口配送」の増加により物流の需要は増え続けています。物流需要が急拡大する中、それに宅配業界が対応できなくなるかもしれない危機として、「宅配クライシス」という言葉が話題となりました。以降、配送会社の宅配便の荷受量の抑制と値上げが進みました。
これにより宅配料金の値上げが進んでおり、物流費は上昇基調にあると経済産業省の「企業向けサービス価格指数」でも報告されています。この報告書では道路貨物輸送と宅配便の価格上昇は1990年のバブル期を超えて過去最高と指摘されています。
足元でも、物流需要増などにより物流費はジワジワとインフレ状況にあります。最低賃金の見直しや、燃料費の上昇なども物流費を押し上げています。今後、この物流コストインフレはさらに悪化するのではと考えています。その要因として、eコマース市場の拡大による小口配送の増加や、労働人口の減少、中でもトラックドライバー不足などが挙げられます。
特にドライバー不足の問題は深刻で、国土交通省の報告では、トラックドライバー数は、2006年の92万人をピークに年々減少を続けており、2027~28年には24~28万人が足りなくなり、必要な運転手の人数に対して24~25%の不足が生じると試算しています。これは、商品全体の4分の1を運ぶことができなくなる、もしくは高い物流費を払わないと運べなくなることを意味しています。
また、無視できないのが「2024年問題」です。国が制定した働き方改革関連法によって、2024年4月以降、自動車運転業務の年間時間外労働が上限960時間に制限されます。それにより、ドライバーの1日の運転時間が短くなり、一人当たりの走行可能距離も短くなるため、年収への影響からドライバー不足がさらに加速し、物流費が上昇する可能性があります。
【次ページ】事業存続の危機に陥るEC事業者も…物流インフレの深刻な影響
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