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  • 2022/06/21 掲載

インフレで進む「サブスク淘汰」、利用者の不満が爆発した“致命的すぎる”課題とは

連載:米国の動向から読み解くビジネス羅針盤

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定額でサービスを利用できるサブスクリプション(サブスク)は、コロナ禍における在宅者の増加などで市場規模は堅調に拡大している。日本でもあらゆる産業でサブスクが開始されるなど一種の流行と化しており、その傾向は米国においても同様と言える。ところが、2022年に入ってインフレの進行が止まらず、消費者は家計の見直しに伴うサブスク利用の整理やキャンセルなどが頻発している。なぜサブスクは「真っ先に切られる」存在なのか。インフレに弱いサブスク、強いサブスクとは何かを探る。

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

執筆:在米ジャーナリスト 岩田 太郎

米NBCニュースの東京総局、読売新聞の英字新聞部、日経国際ニュースセンターなどで金融・経済報道の基礎を学ぶ。現在、米国の経済を広く深く分析した記事を『週刊エコノミスト』などの紙媒体に発表する一方、『Japan In-Depth』や『ZUU Online』など多チャンネルで配信されるウェブメディアにも寄稿する。海外大物の長時間インタビューも手掛けており、金融・マクロ経済・エネルギー・企業分析などの記事執筆と翻訳が得意分野。国際政治をはじめ、子育て・教育・司法・犯罪など社会の分析も幅広く提供する。「時代の流れを一歩先取りする分析」を心掛ける。

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なぜサブスクは「真っ先に切られる」存在なのか。その課題とは
(Photo/Getty Images)

サブスク市場65%増で起きた「ネットフリックス・ショック」

 世界のサブスク市場規模は、2021年の729億ドル(約9兆2,655億円)から2022年には1,200億ドル(約15兆2,518億円)へと、およそ65%も増加することが予想されている(英調査企業ビジネスリサーチ)。

 その中でも米サブスク市場は、2021年に280億ドル(約3兆5,588億円)に達し、2022年には330億ドル(約4兆1,943億円)、そして2023年には380億ドル(約4兆8,297億円)に成長するとの予測がある(独調査企業Statista)。

 このような右肩上がりの成長を遂げてきた米サブスク業界だが、2022年4月に入って激震が走った。動画ストリーミング最大手であるネットフリックスが、「会員数が第1四半期である2022年1~3月期に20万人の純減(北米は60万人の減少)となり、第2四半期の4~6月期にはさらに200万人の減少が見込まれる」と発表したからだ。

 同社は魅力的な独自コンテンツにより飛ぶ鳥を落とす勢いで、近年はアジア太平洋地域の伸びが著しく(この地域に限れば1~3月期は会員数が109万人の純増)、将来性は無限に近いと見られていた。そのネットフリックスが10年ぶりの会員減ということで、株価は一時30%近く暴落した。

 ネットフリックスはサブスク業界において、日本でもおなじみの「イカゲーム」「梨泰院クラス」などオリジナル番組が大きな話題になるほどにユーザー数が増え、相対的な製作コストが下がり、収益が増大するという「正のスパイラル」にある企業だった。

 しかし、北米動画サブスク市場は飽和状態に近づいている兆候が出ている。英調査企業Kantarによれば、2021年10~12月期において、米国の総世帯数の85%が何らかの動画サブスク会員となっており、前年同期比の伸びはわずか2ポイントにすぎなかった。今年に入ってからのネットフリックス会員減少の要因には、コンテンツの質の低下に加え、Disney+やHulu、Apple TV+などの競合による市場シェア拡大などが挙げられている。

年収1,300万円超でもサブスクは“真っ先に切られる”存在

 一方、米データ分析のGlobalDataによると、ネットフリックスの会員減少のより大きな要因は物価高騰だという。物価高騰について、米労働省が発表した5月の消費者物価指数(CPI)では、食品やエネルギー価格の急騰を受けて前年同月比8.6%上昇、消費者の家計に大きな打撃を与えている。

 GlobalDataは「消費者がインフレで家計を見直す中、ストリーミングは節約の対象になりやすい」との見解を示した。事実、ネットフリックスは1月にサブスクの月額料金をプランに応じて1~2ドル(約130~260円)値上げしたのに加えて、家族以外とのパスワード共有の取り締まりに乗り出すなど、「お得感」が薄まっていた。

 さらに米経済専門局のCNBCが3月下旬に成人4000人に対して実施した世論調査では、回答者の36%がネットフリックスをはじめとするサブスクのキャンセルを考慮中であることが明らかになった。

 またCNBCは6月14日付の番組で、ネットフリックス内部の情報筋の発言として、「偉大なディスラプター(破壊的企業:テクノロジーを活用して既存のビジネスモデルを破壊する企業)であったネットフリックスは、今や競合となった既存メディアがこれまでに成功してきたビジネスモデルをまねることに決めた」と報じた。これまで評判であった自社のやり方が飽きられたとの認識である。  事実、2022年3月におよそ1万2000人の米国人を対象に行われた、決済データ企業PYMNTSの調査によれば、下図のように、1人当たりが利用するサブスクサービスの数が2021年10月の5.0から4.1に減少し、1人当たりが利用するサブスクのジャンルの数も2.6から2.0へと減っている。

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動画ストリーミングにかかわらず、サブスクをキャンセルする傾向が表れている
(出典: PYMNTS)

 サブスクへの出費も同期間に46%減と急減しているのは特筆される。

 重要なのは、PYMNTSの調査対象となった2000人の42%が年収10万ドル(約1,300万円)以上の高所得層に分類される人たちであることだ。サブスク利用者の平均的な属性として、高学歴・高所得の人たちであることが挙げられるのだが、その多くが旅行や車などの高額な出費を必要とするものだけでなく、比較的少額であるサブスクへの出費も節約の対象としていることが示唆されている。

 この年収10万ドル以上の高所得層は、米国内総生産(GDP)の約7割を占める消費総額のうち、4分の3を生み出している「けん引車」だ。これを考慮すれば、サブスク低迷の調査結果は、業界にとり「黄色信号がともった」状態であると言えよう。

 なぜこうした高所得層からも、サブスクは「真っ先に切られる」存在になってしまったのだろうか。そこには、右肩上がりのサブスクブームの中で見えにくかった、消費者による業界への不満がインフレにより顕在化した構図が見えてくる。

【次ページ】利用者の不満爆発? サブスク業界が抱える“致命的な”課題とは

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