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  • 2022/10/04 掲載

「大きな夢を描くこと」がロボットの未来を押し広げる可能性

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生産年齢人口が急激に減少する中、省人化・生産性向上への取り組みは全分野で必須だ。AIやロボット技術は間違いなく有用な解決法の1つである。だが「今目の前にある課題の解決」だけがロボティクスの方向ではない。我々はどんな社会に生きたいのか?そのために必要な技術は何か?いまだ広い範囲をカバーするふわっとした概念である「ロボット」の今後の方向性を考えることは、今後の技術発展と我々、技術と幸せの関係を考えることそのものでもある。今回はロボット学会40周年記念のシンポジウムから少し先の未来を考えたい。

執筆:サイエンスライター 森山 和道

執筆:サイエンスライター 森山 和道

フリーランスのサイエンスライター。1970年生。愛媛県宇和島市出身。1993年に広島大学理学部地質学科卒業。同年、NHKにディレクターとして入局。教育番組、芸能系生放送番組、ポップな科学番組等の制作に従事する。1997年8月末日退職。フリーライターになる。現在、科学技術分野全般を対象に取材執筆を行う。特に脳科学、ロボティクス、インターフェースデザイン分野。研究者インタビューを得意とする。

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第40回日本ロボット学会の展示会場

第40回日本ロボット学会が開催

 第40回日本ロボット学会が、2022年9月に東京大学で行われた。今回は設立40周年を記念した式典のほか、シンポジウム「2050年に向けて日本ロボット学会の進むべき道」が開催された。

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第40回日本ロボット学会学術講演会が9月5日~9日の日程で東京大学本郷キャンパスで開催された

 登壇者は早稲田大学の菅野重樹氏、東京工業大学の鈴森康一氏、東北大学の平田泰久氏、東大の永谷圭司氏といったアカデミアの方々と、実業界からも3名。パナソニックホールディングスロボティクス推進室の安藤健氏、清水建設技術研究所の印藤正裕氏、そしてファナック株式会社ロボット事業本部の森岡昌宏氏。そして日本ロボット学会会長でIHI技監の村上弘記氏、座長として東京大学の佐久間一郎氏というメンバーだった。

 本連載読者の方々はよくご理解いただいていると思うが、一言で「ロボット」といっても範囲は広い。適用分野も技術も本当に広い。今回のシンポジウムでは、立場もアプローチも完全にバラバラの方向の人たちが集められていて、とてもまとまらないようにも思えた。

 ただ筆者個人には、細部はともかく、大きな方向性は何となく一致しているようにも感じられた。必ずしも「2050年に向けてロボット学会が進むべき道」であるとは思わないのだが、今後のロボティクスが向かうべき方向を示唆するものではあったと思うので、シンポジウムの内容と雑感を簡単にまとめておきたい。

「ロボット工学」から「ロボット学」を目指すために

 まず、ヒューマノイド開発などで知られる早稲田大学の菅野重樹氏は内閣府「ムーンショット」への取り組みを通して、現在進めている「スマートロボット」のコンセプトを紹介した。菅野氏らが進めているこのプロジェクトでは、夢の汎用(はんよう)ロボット、つまり1台で何でもできるロボットの開発を目指している。


 ハードウェアも野心的で、現在の硬い素材だけではなく自己修復ができるウェットなハイブリッドロボットの開発を視野に入れている。中には血管や循環系があるようなロボットだ。頭脳のほうはもちろんAI開発が重要になる。こちらは身体性に基づいた人工知能を開発する。そして学習することで未知の環境でも仕事ができるものにする。

 菅野氏は「ロボット工学」を「ロボット学」とするために、ロボット学会は他の分野の研究にも積極的にアプローチして広げていくべきだと提言した。

生物のような適応性を持つロボットへの夢

 ソフトロボティクスの研究者である東工大の鈴森康一氏は、ソフトロボットの取り組みについて、材料化学との結びつきなど異分野融合の重要性を強調した。鈴森氏は「いい加減」のロボットが大事だと主張しており、同名の著書も出している。「いい加減」とは適当ではない。厳密に動くべきところは動くが、もっと適切に動くべきところもあるのではないかという考え方だ。

 今までのロボット技術はガチガチの材料と制御技術で動いており、超精密な動作が可能だ。しかし、赤ちゃんを抱きしめるようなことはできない。そのためには「ちょうどいい加減」のロボットが必要だというのが鈴森氏の主張だ。

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鈴森氏の提唱する深層生体模倣ロボティクス

 ロボットはもともと、生物に憧れて生まれた側面を持っている。だが機械でもあるので、安定した材料で構築されている。それに対して生物は不安定ではあるが適応性がある材料で作られている。それを取り戻すために表面だけ生き物に似せるのではなく、中身も似せようという考え方を「深層生体模倣ロボティクス」と名付けている。

 材料学や生物学との融合によって生物のような適応性を持つロボットが作れるようになれば、適用できる範囲も大きく変わってくる。鈴森氏は実用的な面も推進していくと同時に、ロボットは「人類の大きな夢、テクノロジーの新しい可能性を示すパイオニアであってほしい」と語った。

多様性や活力をサポートするためのロボティクス

 人とロボットの協調を研究する東北大学の平田泰久氏は、金子みすゞの「みんなちがって、みんないい」を引用して「スマーター・インクルーシブ・ソサエティー」という考え方を紹介した。一人一人の多様性が活力ある社会を構築する。そのために群れとしてのロボットが適切な支援を提供する、そんな社会像だ。

 今後、日本は超高齢化社会を迎え、多くのロボットの活用が期待されている。平田氏は、ただ単にロボットが手助けするのではなく、むしろ「ロボットはできるだけ支援をしない」ことが重要だと語った。何もかも機械任せにするのではなく、自分でできることは可能な限り自分でやってもらう。そうしないと、人から「自己効力感」が失われてしまうからだ。ロボットは人に合わせつつ、適切なタイミングで少しだけ手助けをする。そのような適応自在な技術の開発が重要だという。

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適応自在なロボットAI群が人間の活力を支える

 ロボットで支えるというと単品のロボットが支えるようなイメージになってしまうかもしれないが、社会全体にあまねく普及したロボティクスでサポートするといったほうが近いかもしれない。これを平田氏らは「ロボティック・ニンバス」と呼んでいる。「ニンバス」とは「光の雲」という意味だ。「西遊記」に出てくる孫悟空の「キン斗雲(きんとうん)」のような存在のことである。

 このニンバスがフィジカルに人をしっかり、だが人に適応して優しく支える。物理的にはソフトロボティクスを活用するようなものになるかもしれない。多くのロボット群を扱うことになるので、そのための制御AIや、社会実装の在り方なども重要だ。また人のメンタル、自己効力感が肝なので、工学だけでなく異分野の知見や、人材も重要となる。平田氏は異分野融合、多くの人たちとの意見交換の重要性を強調した。

ロボットシステムの定量評価の基準作りも重要

 災害対応ロボットや無人建設機械の研究開発を行う東大の永谷圭司氏は屋外で活動するフィールドロボティクスの観点から、無限定環境で活用可能なロボットシステムが重要だと強調した。福島原発での事故対応のときには、まず現場の要求事項を把握することが難しく、そのために苦労したと述べ、まず適用先が重要だと語った。

 災害現場なども同様で、「一般的な災害」というものはなく、最初から一般化は求められていない。問題はほとんどがフィールドテスト、すなわち現場で明らかになる。

 永谷氏は不整地での移動などを例として、現場実証でのロボットシステムの定量評価の基準を作ることが重要だと語った。

【次ページ】なくてはならない「私たちのロボット」作りに挑むパナソニック 

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