- 会員限定
- 2022/12/08 掲載
富士フイルムBIのクラウド戦略とは? 事業部門のCCoEが「最強のハブ」になるワケ
事業部による事業部のためのクラウド基盤とは
富士フイルムBI(旧社名 富士ゼロックス)は1962年の創業以来、複合機を中核にさまざまなドキュメント関連製品やサービスを提供している。近年はAIやIoTを取り入れながら、顧客の働き方改革やDX支援につながる、さまざまなクラウドサービスを展開している。これらの顧客向けサービスの基盤となるハイブリッドクラウド(ビジネスクラウド)の運営をリードするのが、事業部側でCCoE(クラウド統括)を務める田中 圭氏と木下 勇人氏だ。富士フイルムBIのビジネスクラウドの基本方針は、事業部門のビジネス計画の実現、すなわちサービスビジネスの拡大と収益性向上だという。
「ビジネスクラウドを通じて、より良く、より早く、より安全に、より安く利用者にインフラを提供し、結果としてより顧客価値の高い商品やサービスを顧客に提供することを目指しています」(田中氏)
クラウド統括は、これらの目標を実現するために、事業部門に適したルール作りやモニタリング・改善、クラウドサービスの進化に追従するためのフィードバックと教育の場作り、ビジネス変革に強い組織作りとプロセス導入、コスト削減といった支援に取り組んでいる。事業部側にクラウド統括が存在することで、円滑な業務が可能になると、田中氏は語る。
「多くの企業が情報システム部門にCCoEを置くのに対し、我々は事業部側にクラウド統括を置いている点で、毛色が異なっています。根底にあるのは、事業部が利用するビジネスクラウドだから自分達で企画しようという発想です。自らをクラウド利用者の代表として位置付け、トップダウンではなくボトムアップのアプローチを取っています。事業部と目標や課題を共有していることや、部門の壁がないため、内部のプロセスについての見通しも非常に良いのです」(田中氏)
このような「事業部ファースト」の方針の下、クラウド統括はPoCの支援からクラウド相談対応、要望の取りまとめと改善、クラウドを使いこなすためのノウハウの提供まで、事業組織を横断した総合的なクラウド支援担っている。あらゆるプロダクトから寄せられる要望や知見を集約・共有しつつ、ビジネスクラウドの改善やスキルの底上げにつなげているという。
「顧客により良いサービスを提供するため」のクラウド統括
富士フイルムBIのIT戦略上の特徴は、通常、エンタープライズでは特にIT部門にITインフラをどのように構築するかの権限を与えるのに対し、事業部門側がクラウドを統括するための権限と機能を有している点だ。クラウド統括のリーダーシップを事業部門側で担う、というCCoEの設置形態はどのように始まったのだろうか。その歴史は2014年以前に遡る。パブリッククラウドの普及が本格化する中、当時の富士フイルムBIでも、パブリッククラウド利用の機運が高まっていた。事業部門では、さまざまなクラウド活用の企画が生まれ、アーリーアダプターのエンジニアは自腹でパブリッククラウドを試していた。
一方、田中氏は当時情報システム部門に在籍し、プライベートクラウドを担当していた。田中氏は当時、こんなジレンマを感じていたという。
「当時のプライベートクラウドは、情シス側が事業側に一方的に提供するクラウドという位置付けでした。しかし事業部の担当者に話を聞くと『さまざまなアイデアがあるのに、情シス側に必要性を認めさせられず、なかなか要望が通らない』と嘆いていて、板挟みになっていました」(田中氏)
田中氏個人の思いは事業部側に傾きつつあった。もちろんパブリッククラウドによるコスト削減というメリットも魅力的だったが、それだけではなく事業部がクラウドで実現したいことを叶えたいという考えがあった。
しかし、開発者が野放図にクラウドを利用すれば、セキュリティリスクやガバナンスの低下が問題となる。そこでパブリッククラウドの利用にあたっては、自由度を確保しながら、安全性を担保する仕組み作りが不可欠だった。
その時田中氏が出会ったのが、事業部側でクラウドを推進していた数人の精鋭だった。両者が手を組んで始まった取り組みの結果、2014年に事業部側にクラウド統括が設置され、富士フイルムBIの事業部門におけるクラウド推進が本格的にスタートした。
木下氏は「ビジネスクラウドができたことで、開発者の選択肢が広がりました。私はちょうど移行の前後でサービス開発をしていましたが、パブリッククラウドが使えるようになったことで、自由度が格段に高まり、かなり開発が楽になりました」と当時を振り返る。
【次ページ】クラウド人材育成に不可欠なコミュニティの役割
関連コンテンツ
関連コンテンツ
PR
PR
PR