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  • 2022/11/07 掲載

自動車産業で進む、MX(メタバーストランスフォーメーション)の課題と未来

連載:根岸智幸のメタバースウォッチ

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2022年10月、ソニー・ホンダモビリティの設立記者発表会が行われたが、この発表会で何度も自動車業界っぽくない言葉が発せられた。それが「メタバース」だ。具体的なイメージは示されなかったが、前回本連載で触れたように、メタバース関連技術による自動車産業の変革はすでに始まっている。筆者は、企業がデジタル技術を用いて業務フローの改善や新しいビジネスモデルを創出するDX(デジタルトランスフォーメョン)が大きな潮流となっているが、その先にはメタバース技術でビジネスを変える、いわば「MX(メタバーストランスフォーメーション)」と呼ぶべきものが来ると考える。
執筆:根岸 智幸
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ソニー・ホンダモビリティ社は自動車をクラウドも含むモビリティサービスの端末と定義する。そのモノ作りにはIT企業的な構造が導入されるという

CG技術の本家本元がゲームエンジンを使う訳

 今回は3D CGのソフトウェア専門会社「シリコンスタジオ」社に取材し、より具体的なメタバース技術の応用例を紹介するとともに、現状の課題も明らかにしつつ、「MX」の将来像を描き出していく。

 シリコンスタジオは、1999年11月創立。現在も使われる標準技術OpenGLなど3D CGの基礎を作った米シリコングラフィックス社の日本法人からスピンアウトした、3Dソフトウェア技術を提供する会社だ。

 自動車メーカーに対しても、10年くらい前からデザインプレビューなどの分野で3D CG技術を提供してきたが、現在は自動運転や生産分野においてもシリコンスタジオ社の技術が活かされている。

 その同社においても、Unreal EngineやUnityというゲームエンジンを活用する機会が増えているという。

 ゲームエンジンとは、ゲームを作るための統合環境だ。キャラクターや乗り物を3D空間に配置して、その動作を定義する。物理シミュレーションや光の反射など高度な計算機能がモジュール化されて組み込まれているので、誰でもリアルな3Dゲームを作成できる。


 そのシミュレーション機能を利用して、非ゲーム分野での利用も広がっている。メタバースやオンラインゲームの仮想空間の多くもゲームエンジンで構築されていてメタバースの基盤技術だと言えるが、同時に自動車産業など製造業においてもゲームエンジンが使われている。

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Unreal Engine用に無料で提供されている「Cityサンプル」。映画『マトリックス』の世界をフォトリアリスティックに再現したPS5およびXbox Series X|S向けゲーム『The Matrix Awakens:An Unreal Engine 5 Experience』(配信終了)の建物や道路のセット、車両、群衆を実際に自分で試すことができる

上記ゲームのプレイ動画。映画『マトリックス』のネオやトリニティがデジタルヒューマンとしてよみがえり、プレイヤーと一緒に活躍する

 シリコンスタジオ社は独自に物理ベースの3Dレンダリングエンジン『Mizuchi』などを提供してきたが、自動運転のディープラーニングのための大量かつさまざまなシチュエーションを表現したデータの提供にはレンダリングだけでなく物理シミュレーションや各種機能が必要であった。そのため、それらの機能を兼ね備えたゲームエンジンの利用を5年ほど前から始めた。

 現在はレンダリングエンジンでしか実現できないなど特殊なケースを除き、ドライビングシミュレーターをはじめとするリアルタイム3D CGに関するプロジェクトは基本的にゲームエンジンを活用している。

3つの自動車分野でゲームエンジンを活用

 シリコンスタジオ社が自動車産業分野でゲームエンジン、特にUnreal Engineを活用しているのは、以下の3つの分野だ。

  1. 自動運転シミュレーションのための外部環境構築
  2. 運転中の人間の挙動をシミュレーションするデジタルヒューマン
  3. 部品生産時の不良判定用CGサンプル

 この3つは、いずれもディープラーニングの利用と強く結びついている。

 1つ目の自動運転シミュレーションでは、リアルな走行環境を提供するだけでなく、時間帯や季節、天候による変化、さまざまな信号や標識のバリエーション、ガードレールや点字ブロック、さらに白線や道路標識の経年劣化の表現もできる。

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時間帯や季節を変更することで、自動運転のさまざまなシチュエーションを学習させることができる

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白線や標識の経年劣化具合も、細かくパラメーターで指定できる

シリコンスタジオ社の公式動画では、白線を自由に引いたり標識を差し替えたり、強風などで標識が倒れた様子の再現まで確認できる

 納品されたメーカーはこれを使って、自動運転プログラムの学習用データを生成する。

 パッケージソフトではなく、Unreal Engineのシーンエディターをカスタマイズして納品している。

 カスタマイズは、「ブループリント」というUnreal Engineのビジュアルプログラミング機能を使っている。モジュールを並べて線でつなげていく仕組みなので、納品されたメーカー側でカスタマイズできる。

【次ページ】デジタルヒューマンで運転者監視機能をチェック

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