- 2022/03/06 掲載
アングル:好景気にわく米自動車ディーラー、実店舗が減らない理由
昨年の自動車ディーラーの買収額は前年の25億ドルの3倍以上に増え、過去最高の80億ドルを記録した。調査会社ケリガン・アドバイザーズのデータで明らかになった。
買い手側は、アズベリー・オートモティブ・グループやリシア・モーターズなど大手ディラーチェーンが大半で、身売りする側の多くは小規模な家族経営型のディーラーだと、ケリガン・アドバイザーズの創業者、エリン・ケリガン氏は話す。
ケリガン社の調査によると、昨年の買収件数は338件で、それまでの過去最高だった前年の288件を超えた。
コンサルタント会社、アーバーン・サイエンスの調査では、買収の増加にもかかわらず、自動車購入者が訪れることができる店舗の数は過去10年間、横ばいで推移している。
昨年7月1日時点の全米の店舗数は1万8157店と、半年前から46店舗増えた。
つまり、店舗を所有する企業数という意味では整理が進んだが、自動車ディーラーインフラは淘汰(とうた)されていないということだ。
消費者からすると、自動車ディーラー所有企業の合従連衡は、短期的には目に見えにくいかもしれない。だが、業界幹部によると、長期的には大手ディーラーグループの方が最新技術を導入しやすいため、消費者はオンライン購入が可能になり、ローン手続きが迅速化されるほか、複数の店舗にある幅広い車種の中から選べたり、修理が便利になる可能性がある。
昨年は、米自動車ディーラー業界が過去最高に近い利益を上げた年となった。オンラインの中古車販売企業、カーバナなど、IT技術を使って業界に殴り込みをかける企業が出てきたにもかかわらず、業界はコロナ禍を力強く乗り切った。
百貨店がアマゾン・ドット・コムの登場によって打ちのめされた様子とは対照的に、新車ディーラーは、自動車メーカーによる消費者への直接販売を禁じる州のフランチャイズ法にがっちりと守られている。
もっとも、オンライン購入を部分的であれ利用する顧客が増え、ソフトウエアのアップデートによる修理が広がったことで、ディーラーはリコールや修理保証を通じた収入が減ることになりそうだ。
<異なる思惑>
自動車ディーラーの買収では、買い手と売り手がそれぞれ異なる思惑で動いている。
身売りする側は家族経営企業が多く、EVの販売とサービスに際して設備と技術に多額の投資を迫られている。メーカーが巨額のEV開発費を回収するためにディーラーの利ざやを削るのではないか、との心配もある。
買い手側、特にオートネーションやソニック・オートモティブなどの上場チェーンは、コロナ禍がもたらした低金利と潤沢な資金を利用して規模拡大を図ろうとしている。規模のメリットを生かし、中小ディーラーが直面しているような課題を乗り越えようというわけだ。
アズベリー・オートモティブのデービッド・ハルト最高経営責任者(CEO)は、オンライン販売の技術に投資し、顧客が車両購入から修理まで一貫して追跡できるようなシステムを開発するために規模拡大が必要だと話す。販売・サービス施設の刷新も検討しているという。
「世界がEVに移行していくと分かっているなら、今のような大きな店舗は不要になる。おそらく(より多くの場所に)今より小規模なショールームや小規模なサービスセンターを置くことになりそうだ。(店舗)オーナーの数は減るが、1社がより多くの店舗を所有することになるだろう」とハルト氏は語った。
業界幹部らは、オンラインで購入する消費者でも、実際に自動車を見ることを望んだり、修理場所を必要としたりする状況は変わらないと指摘する。
オートネーションの執行バイスプレジデント、マーク・キャノン氏は「市場で存在感を保ちたいなら、店舗閉鎖など計画しない。当社の計画は、店舗を発展させて最大活用することだ」と語った。
同社は2月23日、買収資金などの調達を目的にした起債によって7億ドルを手にした。マイク・マンリーCEOは「M&Aを積極的に実施したい」と述べた。
(Joseph White記者)
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