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- 2023/01/06 掲載
課題山積み、2023年の日本のものづくりはどうなる?世界に勝つ「日本流」製造業DXとは
フロンティアワン 代表取締役 鍋野敬一郎
同志社大学 工学部 化学工学科(生化学研究室)卒業。1989年総合化学メーカー米デュポン社(現ダウ・デュポン社、農業用製品事業部所属)入社。1998年独ソフトウェアSAP社を経て、2005年にフロンティアワン設立。業務系(プロセス系:化学プラントや医薬品開発など、ディスクリート系:組立加工工場や保全など)の業務コンサルティング、システムの調査・企画・開発・導入の支援に携わる。2015年より一般社団法人インダストリアル・バリューチェーン・イニシアティブ(IVI)サポート会員となり、総合企画委員会委員、IVI公式エバンジェリストなどを務める。
切っても切れないものづくりと経営が分離してしまった
セレンディップ・ホールディングスは、「中小企業経営の近代化と100年企業の創出」を経営理念に掲げ、事業承継とプロ経営者の派遣を柱とする独自の支援サービスを展開している企業だ。現在、事業会社としては、自動車内外装部品製造を手がける三井屋工業のほかに、FA製造装置製造の天竜精機(長野県駒ヶ根市)、自動車精密部品を製造する佐藤工業(愛知県あま市)をグループ傘下に置き、事業承継を目的とした株式取得による完全子会社化によって、各製造企業の経営改善を支援している。
代表取締役社長をつとめる竹内氏は、インターネット市場の黎明期に経営計画策定や市場・競合分析、CI/ブランディングなどの業務に従事。その後、三菱UFJリサーチ&コンサルティングで経営・マーケティング戦略のコンサルタントとして活躍した後、日本オラクルのマーケティング本部長としてマーケティング活動を推進してきた経歴を持つ。
竹内氏は自身の経歴を踏まえ、「日本国内の中堅・中小規模の製造業が置かれている状況には課題意識を持っていました。世界に冠するものづくり国家と言われていた日本は、欧米やアジア諸国の攻勢によって劣後しつつあります」と厳しい見方をする。
その上で、他国と比較した日本の優位性は「技術力」にあるが、それを活用するために重要な課題があると語る。
「本来、ものづくりと経営は切っても切れない密接な関係にあったのですが、それが分離した結果が現在の日本の置かれている状況だと考えています。“プロダクトアウト”時代が長く続き、“マーケットイン”に転換できなかったことが今につながっているのです」(竹内氏)
製造業者の経営改善では、ものづくりと経営を融合することが重要とし、「その実現には、すでに備えているものづくりの技術力に加え、M&A(企業の合併・買収)を経て事業継承することで経営の健全化を図っています」と自社の事業活動について言及した。
「日本の中堅・中小規模の製造業が置かれている現状の課題は、コンサルティングファームや外資系ITベンダーといった外部企業だけではまず解決できません。投資した企業を完全子会社化して、100%リスクを背負わなければ、その企業の経営改善、組織変革は実現できないのです」(竹内氏)
完全子会社化して、投資したリスクの100%を負う
セレンディップ・ホールディングスの本業は経営支援だが、支援対象企業を完全子会社化し、経営にも主体的に取り組んでいく点で、VC(ベンチャーキャピタル)やPEファンドともやや立ち位置が異なる。その事業展開は非常にユニークであり、竹内氏自身も自社の事業説明に苦慮することがあるという。ただ、事業モデルの参考となった企業が存在する。それが、米国のDanaher(ダナハー)だ。
ダナハーは1980年代から、継続改善を主眼とした経営手法「ダナハー・ビジネス・システム」を活用し、経営状態の悪い製造業者を経営統合して立て直してきた。現在は、ライフサイエンス・医療診断機器などの環境関連事業に注力し、多数の企業を統括している。
「次の成長ステージに進んでもらうためには、長期的に投資したり、事業の成長を見守る時間が必要となります。統合企業はグループに入ってもらうことで長くお付き合いしていきます」(竹内氏)
日本のものづくりを変革する大きな志
セレンディップ・ホールディングスの傘下には、M&Aアドバイザリー事業や共同投資事業に特化したセレンディップ・フィナンシャルサービスや、機械や電気・電子、IT、情報システムなど幅広い分野で開発プロジェクトを手がけるセレンディップ・テクノロジーズがある。グループ傘下にある企業は、そうしたグループ内での連携や協力によって、経営健全化の道を進むことになる。
実際、三井屋工業では、自社の課題解決のために製造現場DX支援ツール「HiConnex(ハイコネックス、タブレットの作業データ収集ツール)」をセレンディップ・テクノロジーズおよびアペックスとともに開発。自社の改善プロセスで結果を出した後、グループ傘下の2社にも横展開して成果を上げている。2022年10月には、外販サービスとしての展開も開始した。
HiConnexの開発に携わった梅下 翔太郎氏(セレンディップ・ホールディングス コンサルティング事業部 執行役員 公認会計士/三井屋工業 取締役 専務執行役員)は、「これまでの製造業のシステムはスクラッチ開発で個別最適化が図られたものが主流でした。ただ、その場合、明確な要件定義をする必要があるが中堅製造業では定義が難しい点がネックとなり、ITベンダーがシステムを開発することが難しかったのです」と説明する。
その上で、グループ内にある製造現場の声、これまで培ってきたコンサルティングや開発プロジェクトを結集した。
そうした事業展開について、竹内氏は「当グループでは、すべてのグループ企業からノウハウを集約させ、それを外部のサービスとして提供できる機能を備えています。特に、DXに関する必要なツールの開発・デリバリーは我々のストラテジーの中に入っています」と説明する。
「企業や業務プロセス、製造工程などさまざまな単位におけるロールモデルを1つひとつ丁寧に進めていきたいと考えています。HiConnexは、そうしたロールモデルの標準化を促進させるツールと位置付けています。単にグループ企業内だけではなく、日本の中堅・中小企業のものづくり、そのものを変革するという大きな志があります。それを実現させるための事業体づくりを進めていきます」(竹内氏)
【次ページ】ダイナミックな環境変化に追随するためには
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