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  • 2023/02/22 掲載

脱炭素で水素が果たす「知られざる役割」、CO2削減の「影の立役者」と言えるワケ

連載:カーボンニュートラル最前線

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カーボンニュートラルの実現には、再生可能エネルギーなどの活用により、電力分野でのCO2を削減することが非常に重要だ。しかしその一方で、輸送分野をはじめとして電化するのが難しい産業・用途も依然として存在する。そうしたケースで重要となるのが、水素・アンモニアといった次世代燃料の活用である。水素・アンモニアは化石燃料に比べ、まだコストが高いとされているものの、将来的には脱炭素化において欠かせない燃料となる可能性を秘めている。今回は、水素の利活用をめぐる最新の状況について解説する。

執筆:日本総研 リサーチ・コンサルティング部門 プリンシパル 段野 孝一郎

執筆:日本総研 リサーチ・コンサルティング部門 プリンシパル 段野 孝一郎

京都大学大学院工学研究科博士前期課程修了(工学修士)。 株式会社日本総合研究所において、環境・エネルギー、資源・水ビジネスをテーマに、事業戦略、マーケティング、新事業開発、M&Aに関するコンサルティングを行っている。近年は、脱炭素、Post-FIT、電力市場改革関連のテーマに注力している。

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水素活用をめぐる最新の動向を解説する
(Photo/Shutterstock.com)

化石燃料削減のカギとなる「水素・アンモニア」活用

 世界的な気候変動の影響を踏まえ、先進諸国を中心に、「2050年カーボンニュートラル」に向けた目標(ネット温室効果ガス(GHG)排出量ゼロ)が相次いで示されており、今後はより一層の気候変動対策が必要となる。

 CO2排出削減策では、CO2排出量のうちエネルギー起源が大半を占める(日本は80%がエネルギー起源)ことを踏まえ、原子力、再生可能エネルギー(再エネ)、CCS(CO2回収・貯留)付き火力発電所などによって、電力分野のCO2削減を可能な限り進め、同時に電化を進めることが必要だ。

 しかし、電化が難しいプロセス(熱を使う分野や液体燃料を使用する分野)では、この方法だとCO2排出削減が難しい。

 そのため、連載第2回で述べたように、CCS/CCUSによってCO2回収を行うことが期待されているほか、液体燃料を使用せざるを得ない輸送分野などでは、水素・アンモニアの活用によってCO2排出量を削減するといった取り組みも重要性を増すと考えられている。

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図表1:カーボンニュートラル社会における水素・アンモニアの位置づけ

 水素は、従来から工業プロセスや宇宙分野で使用されている2次エネルギーの1つだ。これまで水素といえば、生成に石油などの化石燃料を利用する「グレー水素」と呼ばれる副生水素や化石燃料改質水素が大半だった。しかし、再エネの普及やコスト低減によって、「グリーン水素」と呼ばれる、再エネ由来電力で水を電気分解し、製造過程でCO2を排出しないCO2フリー水素の活用が現実味を帯びてきたのである。また、化石燃料/CO2由来の水素でも、製造過程で生じたCO2をCCSなどで回収・固定化すれば、製造方法は異なるが、「ブルー水素」と呼ばれるCO2フリー水素となる。

 CO2フリー水素は大気中などから回収したCO2と化合することでメタンとなり、天然ガスの代替や化学産業における原料として活用することが可能だ。さらに、FT(Fischer-Tropsch)合成によって、メタノールやガソリンの代替とすることもでき、さまざまな産業分野や輸送分野によって従来の化石燃料を代替することが可能になる。現状、CO2フリー水素の活用は実証レベルにとどまるが、2030年には世界で3000万トン規模になると推計されている。

 そんなCO2フリー水素の用途の1つとして期待されているのがアンモニアだ。アンモニアは化学原料や肥料用途として活用されているが、CO2フリーアンモニアとすることにより農業分野などでCO2排出削減が可能になる。また、アンモニアを燃料とする内燃機関への適用も想定され、電化が難しい輸送分野での活用が見込まれる。

 さらに、水素のままだと燃焼速度が速く、石炭などの化石燃料と混焼することが難しいが、アンモニアとすることで石炭と燃焼速度が同程度となり、石炭の消費を削減することができる。これは、火力発電分野で石炭の消費量が多い日本で特に期待されている技術だ。

 CO2フリーアンモニアの活用も現在は実証レベルにとどまるが、2030年には世界で1億トン規模になると期待されている。日本においても、グリーン成長戦略において、水素・アンモニアの活用量の目標を最大300万トン(2030年)、また第6次エネルギー基本計画では2030年の電源構成のうち、1%程度を水素・アンモニアとすることを目指すことが定められ、国内での市場も拡大する見通しだ。

水素の大規模国際輸送ニーズが増加する?

 ここからは、水素利活用におけるバリューチェーンについても見ていこう。水素利活用ではバリューチェーンは、製造、輸送、消費から構成される。製造については、再エネから効率的に水素を製造するための水電解装置の市場が拡大すると見込まれる。欧州では先行して脱炭素に向けた動きが拡大しているが、従来の石炭/天然ガス火力発電の市場規模が縮小する中、独Siemens社などの欧州電機大手は水電解装置に代表される水素関連製品を、次なる成長分野と位置付け、積極的に技術開発および製品開発を行っている。

 輸送については、水素が極低温下でないと液化しないという特性から、大規模輸送にコストを要していた。そこで、これまでは水素の需要家は、熱を大量に使う産業分野や水素を燃料とする宇宙分野に限られてきたことから、地産地消型の輸送形態を取ることが合理的であった。

 今後は、CO2フリー水素の需要が増加し、CO2フリー水素の製造適地が偏在するため、水素の大規模国際輸送ニーズが顕在化し、水素専用の大型タンカーが必要となる。さらに、近距離輸送についても、将来的には都市ガス導管への混合などにより、コスト低減が図られると考えられる。

 消費については、発電分野や、電化が困難な産業プロセス(製鉄、石油精製、熱加工分野)、化石燃料水素を原料として使用する化学品分野において、拡大することが見込まれる。製品形態としては、水素コジェネ(水素燃料電池)、水素混焼/専焼発電、水素工業炉(水素バーナーなど)、水素還元製鉄、CO2フリー水素由来プラスチックなどに対するニーズが顕在化するだろう。

 アンモニアに関してはこれまでは「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれる製法によって、化石燃料改質水素と大気中の窒素を高温・高圧下で反応させることで製造されてきたが、エネルギーを大量に消費し、製造過程でCO2を多量に排出する点が大きな問題だった。

 そのため、今後はCO2フリー水素を原料として用いつつ、製造過程でのCO2の発生を抑えて安価にアンモニアを合成するプロセスが重要となる。また、消費については、石炭火力へアンモニアを混焼するアンモニア混焼発電、アンモニア工業炉(アンモニアバーナーなど)、アンモニアを燃料とするアンモニア船といった製品へのニーズが高まるだろう。

【次ページ】「成長志向型カーボンプライシング」の導入とは

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