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米中対立による経済のデカップリング(分離)が進む一方で、マクロン仏大統領が、経済界首脳を引き連れて中国を訪問するなど、欧州が中国に急接近している。欧州勢が目論んでいるのは、「デカップリング」ではなく「デリスキング」とされているが、これはどのような概念なのだろうか。
米国の貿易における中国シェアが急低下
各国の産業界にとって米中デカップリングが進み始めていることはほぼ既成事実となっている。オバマ政権以前の米国は、利害が対立しつつも基本的には中国を貿易相手国とみなしており、米国は中国から大量の工業製品を輸入していた。ところがトランプ政権は中国を敵視する戦略に転換。中国からの輸入に高い関税をかけたことから、両国は事実上の貿易戦争に突入している。
その後、政権は民主党に移行したが、バイデン政権は対中強硬策をむしろ強化している。米国政府は2022年10月、中国に対するハイテク製品の強力な輸出規制を発動するとともに、米国内での半導体製造を促すCHIPS(Creating Helpful Incentives to Produce Semiconductors and Science Act)法を成立させたことで、米中分断がさらに加速している状況だ。
一連の動きは確実に世界経済に影響を及ぼし始めている。米国の輸入における中国のシェアは、2018年には20%を超えていたが、その後、急低下し、2022年には16%にまで落ち込んだ。グローバルなサプライチェーンの象徴とも言える米アップルの部品調達状況を見ると、2015年時点では、全体の半分近くを中国の事業所が占めていたが、2021年の段階では中国からの調達は約30%と大幅に減少している。
IMF(国際通貨基金)が今年4月にまとめた世界経済見通しによると、米国から中国に対する直接投資額は2015年との比較で4割以上も減少した。半導体輸出規制が発動されたこともあり、多くの米国人ビジネスパーソンが中国から戻っていると言われる。一方の中国も、米マイクロン製半導体を事実上、使用禁止にするなど米国製品の締め出しを強化している。表立っては表明していないが、中国の企業が米国企業との契約更新を拒むといったケースも頻発しているという。
ホワイトハウスのサリバン大統領補佐官は、「米中のデカップリングを求めてはいない」として沈静化を図っているが、産業界はこの発言を額面通りには受け止めていない。米中分断という最悪のケースを想定し、サプライチェーンの再構築を急ピッチで進めている状況だ。
米国を出し抜いたマクロン大統領
このまま事態が推移すれば、貿易のみならず、投資や人的交流も減ってくるため、米中経済が本格的に分断する可能性は高くなる。ロシアのウクライナ侵攻をきっかけに、中露が急接近しているのは周知の事実であり、中ロ貿易における人民元建て取引が急増しているほか、南米各国も貿易取引の一部を人民元建てにシフトするなど、ドル経済圏から離脱する動きも目立つようになってきた。
普通に考えれば西側諸国のリーダーである米国が中国と対立している以上、西側各国は米国に歩調を合わせて中国包囲網を形成する流れとなり、世界経済のデカップリングがさらに進むことになる。だが欧州は米国の動きに追随しない姿勢を見せ始めている。
フランスのマクロン大統領は2023年4月、大手企業トップや文化人など70人以上を引き連れて中国を訪問し、習近平国家主席と会談した。習氏は、2日連続で夕食会を開催したり、父親(習仲勲元副首相)ゆかりの公邸で茶会を催すなど異例の好待遇でマクロン氏を迎えるとともに、仏エアバス社の航空機160機購入や、天津における生産ライン増設に合意するなどフランスに大盤振る舞いしている。
マクロン氏は訪中に際し、台湾問題について「米中対立に巻き込まれてはならない」という驚くべき発言を行っているほか、NATO(北大西洋条約機構)の連絡事務所の東京開設にも反対している。フランスの動きは、明らかに米国を出し抜き、欧州と中国の経済関係を再構築しようとの意図があり、このままでは米国の対中包囲網が有名無実化してしまう。
この会談に米国の経済界は焦っており、5月にはテスラCEO(最高経営責任者)のイーロン・マスク氏が、6月にはマイクロソフト創業者のビル・ゲイツ氏が相次いで訪中し、ゲイツ氏に至っては習氏と会談を実現した。産業界のみならず、今度は米国のブリンケン国務長官が中国を訪問し、習氏との会談を行っている。米国務長官が訪中するのは何と5年ぶりのことである。
米国務省は、米中対立の深刻化で偶発的な事態が起きないよう、対話を行うことが訪中の目的と説明しているが、欧州の動きに焦りを感じ、中国にすり寄ったのは明からである。
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