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  • 2023/08/05 掲載

リーガルテックで生成AI活用拡大、なぜトムソン・ロイターは法務AI企業を買収したのか

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マーケティングやソフトウェア開発などでの活用事例が増えつつある生成AIだが、今後は法務分野でも活用事例が増えてきそうだ。AIなどITを活用して法務業務を効率化する技術やサービスを「リーガルテック」という。このリーガルテック市場で強気の投資を行っているのが実質的に法律サービス企業となっているトムソン・ロイターだ。6月末には、約900億円で法務AIスタートアップ「Casetext」を買収する計画が明らかになった。また2025年までにAI企業を中心とするM&Aに100億ドルを投じる計画という。

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

執筆:細谷 元、構成:ビジネス+IT編集部

バークリー音大提携校で2年間ジャズ/音楽理論を学ぶ。その後、通訳・翻訳者を経て24歳で大学入学。学部では国際関係、修士では英大学院で経済・政治・哲学を専攻。国内コンサルティング会社、シンガポールの日系通信社を経てLivit参画。興味分野は、メディアテクノロジーの進化と社会変化。2014〜15年頃テックメディアの立ち上げにあたり、ドローンの可能性を模索。ドローンレース・ドバイ世界大会に選手として出場。現在、音楽制作ソフト、3Dソフト、ゲームエンジンを活用した「リアルタイム・プロダクション」の実験的取り組みでVRコンテンツを制作、英語圏の視聴者向けに配信。YouTubeではVR動画単体で再生150万回以上を達成。最近購入したSony a7s3を活用した映像制作も実施中。
http://livit.media/

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トムソン・ロイターは2025年までにAI企業に100億ドルを投じる計画
(Photo/Marlon Trottmann / Shutterstock.com)

トムソン・ロイターが法務AIスタートアップを6億5,000万ドルで買収

 マッキンゼーの最新レポートによると、生成AIの登場によって現在の業務の半分が2045年までに自動化され、それに伴い世界経済に最大4兆4,000億ドルもの価値が創出される可能性がある。

 生成AIのインパクトを業務別に見ると、最大となるのは、マーケティング/営業で、その額は7,600億~1兆2,000億ドルに上ると見込まれている。このほか、ソフトウェアエンジニアリング(5,800億~1兆2,000億ドル)、カスタマーオペレーション(3,400億~4,700億ドル)、プロダクト/R&D(2,300億~4,200億ドル)などでの影響が大きいと予想されている。

 一方、生成AIの影響に関しては、法律関連業務も無視できない領域だ。すでにAIを活用したリーガルテックツールは広く普及しつつあり、投資も活発化しているからだ。
                                             
法律分野におけるAI活用例
契約の作成・レビューリーガルリサーチメモ作成証言準備
契約分析ナレッジ管理バックオフィス機能
法律調査要約書とメモ作成質問応答サービス

 メディア事業「ロイター通信」で知られるトムソン・ロイターが法務AIスタートアップ「Casetext」を買収するというニュースは、まさにそのトレンドの一端を表すものといえるだろう。

 Techcrunchが2023年6月27日に報じたところでは、トムソン・ロイターはAI法務テックスタートアップCasetext(社員数104人)を買収するための確定契約を締結した。

 買収額は6億5,000万ドル(約900億円)で、規制当局の承認とクロージング条件を満たした段階で買収が成立する。買収成立時期は、2023年下半期とみられている。

 Casetextは、2013年にカリフォルニアで設立され、もともとは法律関連情報を配信し、法律専門家らが知識共有できるコミュニティ運営を行っていたスタートアップだ。弁護士らによる判例・法的資料の読み込み・分析を行い、注釈付きの情報を共有しており、法律分野のウィキペディア的な存在として多くのユーザーを集めていた。

 その後Casetextは、事業方針を大きく転換し、企業法務チームや弁護士事務所をターゲットに、ワークフローを自動化するAIツールの開発・提供に乗り出した。OpenAIの主力大規模言語モデルであるGPT4モデルへの早期アクセスが許可された数少ない企業の1つでもある。

 Casetextの主力プロダクトの1つとなるのがCoCounselだ。AIを活用して、ドキュメントのレビュー、リーガルリサーチメモの作成、証言準備、契約分析などを自動化できるツール。Casetextは、1万以上の法律事務所と企業法務部門を顧客に持っている。

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法務分野でのAI活用が本格化している
(Photo/Shutterstock.com)

トムソン・ロイターが法務AIスタートアップを買収する理由

 一般的にトムソン・ロイターといえば、メディア事業である「ロイター通信」で広く知られる企業。このため、なぜメディア企業が法務AIスタートアップを買収するのかという疑問が湧くかもしれない。

 トムソン・ロイターの現在の事業・収益構造を見れば、その疑問は解消される。トムソン・ロイターは大きく「リーガルプロフェッショナル」「コーポレート」「税務・会計」「ロイター通信」「グローバル出版」の5つの事業を展開している。

 同社が発表している直近の「Fact Book(2021年版)」によると、2020年の収益は60億ドルだった。このうち「ロイター通信」事業における収益は、6億ドルで全体に占める割合は11%と5つの事業のうち、4番目の規模だった。

 同社最大の事業は「リーガルプロフェッショナル」だ。収益は25億ドルで、全体に占める割合は42%。これに「コーポレート」が14億ドル、「税務・会計」が8億ドルで続く。「グローバル出版」は6億ドルで5番目の規模となる。

 事業の成長率を見ると、ロイター通信やグローバル出版が鈍化・マイナス成長となる中で、リーガルプロフェッショナルとコーポレートは4~5%増加しており、トムソン・ロイターは実質的に法律サービス企業であることが見えてくる。

 トムソン・ロイターが提供する主力リーガルサービスとしては、裁判所の意見、法律、規制、法律専門家向けのニュース、法律文献、法律解釈など、広範な情報を提供するリサーチサービス「Westlaw」、具体的な業務ガイド、チェックリスト、テンプレート、標準文書など実務に直結した情報を提供する「Practical Law」、会計、財務管理、顧客関係管理 、リスク管理など法律事務所運営に必要な機能を一元化して提供する「Elite」などがある。

 Casetextの買収は長期戦略の一環であり、トムソン・ロイターは今後も法務分野を中心に生成AIへの投資を拡大する計画だ。最近の発表によると、同社は、AIに年間1億ドルを投じるほか、今年下半期から生成AIを主要プロダクトに組み込む計画という。また現在から2025年にかけて、100億ドルの予算を組み、AI領域を中心にM&Aを進める計画だ。 【次ページ】法務AIへの強気姿勢の理由

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