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  • 2023/10/13 掲載

売上5倍超の商品も…資生堂や明治らに学ぶ「インバウンド戦略」大成功への秘策とは

【連載】現役サプライチェイナーが読み解く経済ニュース

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コロナ禍の一時期と比較すると、街や観光地、飲食店はだいぶ活気が戻ってきました。特に外国人が多くなったと感じているのは筆者だけではないでしょう。日本政府観光局が発表している2023年8月速報値の訪日外客統計を見ると、2019年比で85.6%とかなり回復しています。ここで期待できるのがインバウンド需要です。自社の事業を成長させるためには、こうした需要を的確にとらえて、いかに商品を多く買ってもらえるかが重要となります。そこで本稿では、再び注目され始めているインバウンド需要を、需要予測、そして需要創造の観点で解説していきます。

執筆:山口雄大(やまぐちゆうだい)

執筆:山口雄大(やまぐちゆうだい)

NEC AI・アナリティクス統括部の需要予測エヴァンジェリストとして、「#山口雄大の需要予測サロン(デマサロ!)」や需要予測相談ルームでS&OPをテーマとした情報を発信。青山学院大学非常勤講師、JILS「SCMとマーケティングを結ぶ!需要予測の基本」講師などを兼務。Journal of Business Forecasting(IBF)などで研究論文を発表。『需要予測の戦略的活用』(日本評論社)や『すごい需要予測』(PHPビジネス新書)などの著書多数。

photo
インバウンド需要の回復が鮮明になってきている
(日本政府観光局のデータを基に筆者作成)

百貨店:インバウンド需要の売上が「19年比24%増」

生成AIで1分にまとめた動画
 まずはいくつかの業界から、インバウンド需要の動向を見ていきましょう。インバウンド需要の見通しによって株価が上下しやすい百貨店業界では、訪日外国人数の増加による業績回復が鮮明です。

 日本百貨店協会による調査結果では、2023年8月における全体の売上が3,897億円、前年同月に対して11.8%の増加で、2019年同月と比較すると4.2%の減少でした。このうちインバウンド需要による売上は317億円(全体の売上に対する8.1%)で、2019年8月の実績から24.1%も上回りました。

 百貨店には、基本的に国内在住者が購入すると考えられる、消費期限の短い食品や総菜といったカテゴリを有していることを鑑みると、全体の売上に対する8.1%は小さくないと言えるでしょう。各国からの入国制限が終了し、客数が増加したとともに、直近では140円台後半という円安もあって(2019年8月は105~106円程度)、インバウンド需要が急回復していると分析できます。

 人口減少が続き、消費者の趣味・嗜好も多様化している日本市場において、2桁%の成長が難しい業界は多くあると想定されます。すべての業界が恩恵にあずかるわけではないものの、インバウンド需要には大きなチャンスがあります。訪日バブルでにぎわったコロナ直前までにインバウンドが回復しつつある今こそ、改めて戦略を練る重要な時期なのです。

資生堂に見る「インバウンド戦略」の重要性

 ではここで、インバウンド戦略がいかに重要かがわかる事例を見てみましょう。たとえば、初めて売上が1兆円を超えた2017年の資生堂です。

  2017年における国内の売上4,310億円のうち、実は585億円が訪日外国人による売上だったと公表されています。つまり、この時点で国内売上のなんと13.5%がインバウンド需要だったのですね。

 さらに、「トラベルリテール」というセグメントで別途管理されている世界各国における空港免税店での売上は、2017年に全世界で650億円、2018年には876億円と、同社の事業セグメントの中で当時最大の伸長率を誇っていました。

画像
資生堂の売上構成
(資生堂の決算短信より筆者作成)

 このうち日本の空港に関する売上は公開されていませんが、日本というエリアで区切った場合、先述の585億円にこの空港分を加えると売上の15~20%はインバウンド需要が占めていたと推測できます。

 インバウンド需要の効果はこれだけではありません。当時、中国事業もトラベルリテールに次いで大幅に伸長していたのですが、これには日本でのインバウンド需要が貢献していたと考えられます。というのも、コロナ前の当時、インバウンド消費の7~8割(金額ベース)は中国人という情報もあり、日本で購入した化粧品を中国のSNS(ウェイボーなど)にアップするというのが流行していました。これにより、日本の化粧品の認知度が上がり、中国国内で販売されている商品の需要にもプラスの影響があったと考えられます。

 化粧品だけでなく、お菓子や家電など、コロナ前にインバウンド需要が話題になったカテゴリは複数ありました。訪日外国人に人気が出ると、かなり大きなビジネスインパクトとなります。インバウンド需要を的確に捉え、メーカーや小売は自社のサプライチェーンを俊敏に動かしていくことがビジネスの成否を分けると言えるでしょう。ではどのようにして、戦略を練れば良いのでしょうか。 【次ページ】売上5倍超も…「インバウンド戦略」の仕掛け方

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