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- 2023/10/23 掲載
元日本代表も愛用、ミズノのスパイク「モレリア」の「一貫性しかない」ブランディングとは
連載:ロングセラー解体新書
一流選手が着用する「モレリア」とは
今回ご紹介したいのはミズノのサッカー用スパイク 「MORELIA(モレリア)」 です。初代モレリアが発売されたのは1985年。発売から40年近く経っていますが、Jリーガーをはじめとして国内外問わず多くのサッカー選手に愛されてきたシューズです。
両シリーズとも多くのフットボールプレーヤーから支持され、第101回全国高校サッカー選手権に出場した選手の着用シューズシェアランキングで「MORELIA NEO Ⅲ」は1位、「MORELIA Ⅱ」は2位を獲得しました※1。愛用者の1人である元日本代表の中村憲剛氏が、初めてモレリアを履いた際に「これだ」と他のスパイクとの違いを感じたと絶賛するように、その性能の高さはプロからも折り紙付きです。
まずはそんなモレリアの開発ストーリーから見ていきましょう。
モレリアの開発が始まったのは1983年のことです。開発に協力したのは、ミズノと契約していたプロサッカー選手の水島武蔵氏。水島氏はブラジルの名門 「サンパウロ FC」 の下部組織を経て1984年にプロ契約を結んだ「海外組」のパイオニアと言える方でした。
モレリアの生みの親であるミズノの安井敏恭氏は、水島氏に何十足ものシューズを送り感想を聞いたそうです。受け取った水島氏は当時所属していたブラジルの名門クラブチーム、サンパウロのチームメイトにも試してもらい、同僚のチームメートたちからは 「軽さ、柔軟性、素足感覚が欲しい」 との意見をもらったことをミズノに伝えたといいます。
ここで意見に出た「素足感覚」とは、足の指で蹴る感覚のことを指します。ブラジルでは子ども時代に貧しさから裸足でプレーしていた選手もいて、足の裏でボールをこねて小指で蹴る傾向があります。そのため指を動かせてボールの感触が分かる製品が求められたわけです。ミズノの安井氏は 「日本では当時、足の裏を使う選手は珍しかったため驚いた」 と振り返っています。
この意見を受けてミズノは、素足感覚の実現へ向けて工夫を重ねました。厚くしないと強度の出ない牛革を素材に使うのではなく、軽くて柔らかく、丈夫なカンガルー革を採用。つま先には高反発の薄いスポンジを入れ、フィット感を高める工夫を施しました。
こうした工夫を凝らしたスパイクは1980年代前半当時はブラジルで珍しく、現地のプロ選手でもゴムの靴底の粗悪品が履かれていたようです。ミズノがモレリアの試作品を水島氏に送ると、その優れた履き心地が評判となり、サンパウロ FC の多くの選手が欲しがったそうです。
なぜモレリアのアップデートは「大正解」なのか
開発過程で生まれた、この「軽量/柔軟/素足感覚」のコンセプトは、今もモレリアの軸として受け継がれています。現在、モレリアの公式サイトには 「変わらないために、進化する」 との標語が掲げられていますが、モレリアはまさに、この言葉を体現しながら歩んできたスパイクと言えます。
ミズノの安井氏が、「何年たってもサッカーはボールを止めて、走って、蹴って、ゴールを決める競技。求めるモノは変わっていないはず」 と強調している通り、着用者から求められる「軽量/柔軟/素足感覚」のコンセプトを変えることなく、機能面ではアップデートを重ねてきました。
2020年に発売したフラッグシップモデル 「モレリア2ジャパン」 は、靴底を重いポリウレタンから、水に浮くような軽い素材に変更。シューズの中底は不織布製のボードから、樹脂に置き換えて耐久性を高めています。「1グラムでも軽い素材を探した」 と安井氏が言うように、メーカーのたゆまぬ努力が、選手を足元から支えています。
モレリアはコンセプトは変わらず、選手が求める変わらないもののために、より高いレベルで素足感覚を実現し進化をしているサッカーシューズなのです。
ではそんなモレリアから、マーケティング視点でどんなことが学べるのでしょうか。 【次ページ】モレリアから学べる「ブランド」の法則
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