• 2008/03/06 掲載

【経営革新3回】ノウハウを企業の第5のリソースとしてマネジメントする方法 その2

ノウハウ・マネジメントによる経営革新 <第3回>

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企業の将来を担う幹部候補者や、収益の源となっているコア人材の育成に、多くの企業が取り組んでいる。しかし、これら人材の育成に対し、経営者はいくつかの問題を感じている。今回は、これらの問題を解決するためのノウハウ・マネジメントについて解説していく。


幹部候補者・コア人材の育成を加速する


【経営革新】アクト・コンサルティング 野間彰氏
アクト・コンサルティング
取締役 経営コンサルタント
野間 彰氏
 企業の将来を担う幹部候補者や、収益の源となっているコア人材の育成に、多くの企業が取り組んでいる。しかし、これら人材の育成に対し、経営者はいくつかの問題を感じている。これらの問題の解決に、ノウハウ・マネジメントが貢献できる余地がある。一つ目の問題は、お仕着せの、一般的な育成方法に対する問題認識である。「自社の文化や風土面の強さを、いかにして育成プログラムに組み込むか」、「現在の幹部やコア人材は、お仕着せのカリキュラムとは異なる能力をもっている。これをどのようにえぐりだし、移植するか」といった問題である。

 ノウハウを人材育成に活用していない企業では、目指すべき人材ビジョンや必要スキル、育成方法は、一般的によく知られる切り口で作り上げることになる。たとえば、「顧客の高い信頼を勝ちとる」などの人材ビジョン、「分析力、創造力、リーダーシップ」といったスキルなどである。しかし、実際の経営幹部やコア人材は、そのような一般論だけを学んで今の能力を獲得したのではない。もっと、企業や業務固有の能力をもっているのだ。

 ある製造業では、技術開発部門を率いるマネージャーをコア人材と位置づけ、育成を強化していた。この会社の技術領域は広く、マネージャーには、各分野の技術者の能力を引き上げ、これらを目的に向けて統合する能力が求められた。そこで、「プロジェクト・マネジメント」や「MOT(技術経営)」などの管理技術を中心とした育成プログラムが構築された。たとえば、技術者の能力を引き上げるために、経営戦略を部門のビジョンに展開して明示する方法や、部下の負荷と能力から適正な業務量を与える方法、部下の能力の把握と教育方法などが準備された。この会社では、ある別の機会に、有能なマネージャーのノウハウをえぐりだす活動が行われた。そこで、有能なマネージャーたちが、育成プログラムとはまったく異なるマネジメントを行っていることが明らかになった。たとえば技術者の能力を最大に引き出す場合、ある有能なマネージャーは、以下のノウハウを実践していた。(なお、ここでノウハウとは、「組織で共有されていない大きな効果を上げる方法」としておく。)

・職場や会議を常に明るい雰囲気に、笑いが絶えない場にする
・リスクを覚悟で推進する場合、自分(マネージャー)がリスクの責任を取ることを明言する
・他部門の譲歩でボトルネックが解決できる場合、自分が先頭に立って、他部門に折衝する
・部門のビジョンには、技術者の夢を必ず入れる
など……。

 この会社の技術者は、えりすぐりの人材で構成されており、そもそも能力は高かった。そのため、各専門分野では、マネージャーは部下の能力を超えることなどできない。また技術者は、計画や管理を嫌い、自由な雰囲気を好んでいた。これを前提に、上記ノウハウが、なぜ技術者の力を引き出すか、そのロジックを整理すると、表1 のようになる。(ロジックの整理には、連載第2回で紹介した「成果を上げるロジック」を使う。)

表1
(表1)有能マネージャーのノウハウ(成果を上げるロジック)


 この会社では、すべての有能マネージャーからノウハウをえぐりだし、これをマネージャー育成方法に盛り込んだ。マネージャーの人材ビジョンも、管理統率型ではなく、部下が一肌脱ごうと思う人材へと変えられた。「部下が一肌脱ごうと思う人材」などという人材ビジョンは、一般的な切り口で考えていては発想できないものである。

 幹部候補者やコア人材の育成では、有能者のノウハウをえぐりだし、「成果を上げるロジック」を明確化し、これを育成プログラムに盛り込むことが重要である。

 2つ目の問題は、「学ぶ力」を高めることである。幹部候補者やコア人材の育成では、教育やOJT などの「教える方法」は議論するが、学ぶ側の「学ぶ方法」は、各人に任されている。そこで、学ぶ力を強化できれば、育成効率はもっと上がるはずである。

 ノウハウ・マネジメントの手法を用いると、この問題を解決できる。ノウハウ・マネジメントでは、ノウハウのえぐりだしと体系化を、有能者の実績(ファクト)を「成果を上げるロジック」に展開することで実現する。有能者に「あなたのノウハウは何ですか」と聞いても、正確な答えは返ってこない。そこで、ファクトをロジックに展開することで、ノウハウを言い当てるのである。

 この方法は、「気づき」をもとに新たなノウハウを学ぶために用いることができる。自分や他人の成功実績を見て、あるいは受講した教育から、「気付き」を感じたらこれを「成果を上げるロジック」に展開するのである。実際、有能者のなかには、類似する方法で自分のノウハウを拡充している人達がいる。@この方法は、訓練して修得することができる。具体的には、毎日その日の気付きを「成果を上げるロジック」に展開し、定期的に持ち寄り、これをこの能力を獲得した人間が評価・指導する方法である(表2)。

表2
(表2)「学ぶ力」の育成方法


 そこで、育成対象者に、最初にこの「気付きをもとに、ファクトをロジックに展開する力」をつけることで、「学ぶ力」を一気に高め、育成効率を向上することができる。「ファクトをロジックに展開する力」を身につけた者は、育成の過程で「気付いたこと」があると、これをロジックに展開し、自分なりのノウハウを拡充していくのである。

<著者プロフィール>
野間彰氏(Noma Akira)
1958 年生まれ。大手コンサルティング会社を経て現職。
製造業、情報サービス産業などを中心に、経営戦略、事業戦略、業務革新に関わるコンサルティングを行っている。主な著書に、「システム提案で勝つための19のポイント」(翔泳社)、「調達革新」(日刊工業新聞社)、「落とし所に落とすプロの力」(リックテレコム)、「団塊世代のノウハウを会社に残す31のステップ」(日刊工業新聞社)などがある。

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