• 2025/06/22 掲載

ウーバーは客を騙している? 満足度操作の心理テクニック(2/3)

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待ち時間が「短い」より「延びる」ほうが支持されるワケ

 ウーバーラボは、忙しい人のほうが暇な人よりも幸福度が高いという調査結果を引用した。これには、忙しい状態がみずからの意思ではない(他人に労働を強制された)場合も含まれる。むしろ、単なる正当化(嘘の理由)でも行動を起こしてしまうほど、私たちの娯楽や活動に対する欲求は強い。この調査が示すのは、私たちの「目標」の多くは忙しく過ごすための言い訳にすぎないということだ。

 ウーバーに当てはめて考えると、待ち時間に見たり参加したりするものを提供すれば、顧客の満足度が大幅にアップし、キャンセルが減るということになる。

 そこで、ドライバーの到着予定時刻を知らせるだけでなく、顧客が待っているあいだに地図上で動く車を見られるといった魅力的なコンテンツをいくつか導入し、「暇な状態による不満」を回避しようとした。

 驚いたことに、前述の調査では、車を待つあいだにすることがあれば、大多数の人が、短い待ち時間で何もできないよりも待ち時間が延びるほうを選ぶという結果が出た。レストランで料理を待つあいだに無料のサービスが提供されるのも、ネットフリックスやユーチューブなどの動画配信サービスで動画にマウスポインターを合わせるとプレビューが表示されるのも、Google Chromeで接続が切断された際に恐竜ゲームが表示されるのも(恐竜のマークを押してみて!)、すべて同じ理由だ。

 顧客を忙しい状態にしておくと、満足度、維持率、コンバージョン率が25%以上向上することが複数の研究で証明されている。

数十億ドル規模の改善となった「安心」の価値

 2008年当時、タクシーを捕まえるのはきわめて心もとない行為だった。いつタクシーが来るのか(あるいは本当に来るのか)、どんな運転手なのか、なぜそれほど時間がかかるのかを知る手立てが利用客にはなかった。また、料金メーターが設置されていないタクシーに乗ると、運転手があたかも独断で料金を決めているように感じた。メーターのあるタクシーでも、運転手が料金を上げるためにわざと遠回りしているのではないかと疑ったものだ。

 こうした透明性の欠如は、カスタマーエクスペリエンス(顧客体験)にとってマイナスとなる。不信感が生まれ、そこからブランドに対する疑念、反発へとつながる。

 そこで、ウーバーラボは「オペレーションの透明性」という心理原則を利用して、待ち時間に進行状況を示すために、それまで舞台裏で行われていた各ステップを説明することにした。さらに、到着時刻の推定計算機能を追加し、詳細な料金の計算方法を明らかにし、あらゆる見積もりの根拠を示し、変更があった場合には、その理由とともにすばやく情報を更新した。

 その結果、配車リクエスト後のキャンセル率が11%減少。年間70億回以上の乗車実績があるウーバーにとっては数十億ドル規模の改善となった。

ドミノ・ピザは何億ドルものコストカットと売上増加を実現

 2008年、ドミノ・ピザはオペレーションおよびカスタマーエクスペリエンスにおいて興味深い難題を経験した。

 予想以上に長く待たされている客が、店に電話をかけ、ピザがどうなっているのか問い合わせた。そのたびにピザ作りの全工程が中断される。電話を受けたスタッフが、ピザを作っているスタッフになぜ遅れているのかを尋ねるからだ。そして客は、曖昧で不確かな答えを聞かされる。オペレーションが不透明なせいで、電話をかけた客自身が、知らず知らずのうちにピザの配達を遅らせていたのだ。

 この問題に対して、ピザの保温バッグに投資したり、スタッフや配達員の数を増やしたり、配達時間に対する返金保証を始めたり、遅れた場合はグリッシーニを無料でつけたりと、各ピザチェーンはさまざまな対策を講じた。だが、苦情の電話は鳴りやまない。

 彼らが見落としていたのは、問題の根底にある心理的不満だった。客は配達を早くしてほしいのではなく、不確実な要素を減らしたかったのだ。

 ドミノ・ピザはいち早くこれに気づき、2008年、既存の社内注文管理システムを利用して、今ではお馴染みの「ピザトラッカー」を開発した。これによって、注文が5段階のプロセスのどこまで進んでいるのかを把握できるようになった。

 このちょっとした洞察力と、それによってもたらされた革新が、ドミノ・ピザのビジネスを変えた。苦情の電話は大幅に減り、顧客満足度と顧客維持率は急上昇。何億ドルものコストカットと売上増加を同時に実現した。

 『ネイチャー』誌に掲載された研究によると、好ましくない現象(ピザの配達が30分遅れる)を目の前にするほうが、不確実な状態に置かれる(遅れたピザがどうなっているのかわからない)よりも心理的ストレスが少ないことが判明した。それは、不確実な状況に直面すると、結果を予想する脳の領域の働きがきわめて活発になり、緊張状態になるからだ。ローリー・サザーランドが著書『欲望の錬金術』(東洋経済新報社)で説明するように、予定していたフライトの「遅延(DELAYED)」情報には、「50分遅延(DELAYED 50 MINUTES)」よりもはるかにイライラさせられる。 【次ページ】世界中に知れわたった、JR子会社による「7分間の奇跡」
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