- 2025/06/22 掲載
ウーバーは客を騙している? 満足度操作の心理テクニック(3/3)
世界中に知れわたった、JR子会社による「7分間の奇跡」
東京駅では毎日、300本以上の新幹線が4つのホームに平均して約4分間隔で発着している。駅での停車時間はわずか10分で、そのうち乗客が降りるのに2分、新しい乗客が乗りこむのに3分かかる。この車両の清掃を担当し、毎日40万人以上が利用する新幹線の衛生を保っているのが、JRの子会社であるTESSEI(テッセイ)だ。だが、何しろ折り返し発車までの時間がごく短いため、乗客からはしばしば清掃や衛生状態に対する不満が出ていた。そんな短時間できちんと掃除ができるはずがないと思われていたのだ。
TESSEIの矢部輝夫CEOは、このイメージを変えたかった。実際には新幹線はきわめて清潔だ。だが、一部の乗客には現状が見えていない。そこで、清掃スタッフの数を増やす代わりに、彼らを目立たせることにした。制服を薄いブルーのシャツからよく目立つ真っ赤な作業着に変え、降りる客と乗る客にショーを見せるようにした。それが、今では世界中に知れわたった「7分間の新幹線劇場」である。
新幹線がホームに入ってくると、スタッフは一列に並び、停車すると同時にお辞儀をする。そして口を開けた袋を持ち、降りてくる乗客にあいさつをしながら、ゴミを捨ててくれたことに感謝の意を伝える。それから新幹線に乗りこみ、ゴミを拾ったり、モップをかけたり、テーブルを消毒したりしながら車内をすばやく回る。作業が終わると、ふたたびホームに並んでお辞儀をしながら、新しい乗客を乗せて出発する新幹線を見送る。
おかげで、衛生状態に関する苦情が大幅に減っただけでなく、乗客からの敬意が増したことで、清掃スタッフは仕事に新たなプライドを見いだし、以前よりも徹底的に、楽しく、意欲を持って仕事に取り組むようになったと報告された。後に「7分間の奇跡」として知られるこの清掃作業によって、新幹線は世界一清潔な路線となった。
このように、衛生状態に対する不満も心理的ムーンショットによって改善することが可能だ。このことからも、ほとんどの場合、現実よりも人々の認識に投資するほうが安価で、簡単かつ効果的であるとわかるだろう。
人間を最もやる気にさせるのは「ゴール近く」
1932年、クラーク・ハルという行動科学者がネズミを用いた迷路実験を行った。ネズミにセンサーを取りつけ、餌に向かって走るスピードを測定する。すると、餌が置かれた出口に近づくほどネズミは速く走ることがわかった。ハルはこの原理を「目標勾配効果」と呼んだ。

ウーバーラボの場合は、地図のデザインでこの問題を解決した。車がピックアップ地点や目的地にどれだけ近づいているかを詳しく表示できるようにしたのだ。
こうした心理的工夫によって、ウーバーは世界一有名なタクシー会社となり、業界の世界市場で首位に立った。そして、心理学の専門家による研究が功を奏し、ウーバーによれば、現在では利用者は2.7回乗車するだけで固定客になるという。
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