- 2008/06/18 掲載
【連載】戦略フレームワークを理解する「ブルーオーシャン戦略」(3/3)
ブルー・オーシャン創出のための分析ツールとフレームワーク
「戦略キャンパス」と「4つのアクション・フレームワーク」
魅力あふれるブルー・オーシャンを創造する為の「分析ツールと、行動の為のフレームワーク」に「戦略キャンパス」と「4つのアクション・フレームワーク」がある。この戦略キャンパスを作成することによって、既存の市場空間についての現状を把握し、競合他社が何に投資しているのか、顧客はどのようなメリットを享受しているのかを知ることが出来る。図1の横軸は、業界において各社が力を入れている主な競争要因、そして縦軸は横軸の各要因に対して、買い手がどの程度のレベルを享受しているのかを示している。要因ごとにスコアを結べば、その業界や競合の価値曲線を描くことができる。図1は、オーストラリアのカセラ・ワインズが「イエロー・テイル」というブランドのワインを開発して新たな市場を開発した際の、戦略キャンパスである。
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図1. 戦略キャンパス(strategy canvas) |
カセラ・ワインズが「イエロー・テイル」というブランドのワインで新たな市場創出に成功した理由は、以下の「4つのアクション・フレームワーク」を見直したことによる。「4つのアクション・フレームワーク」とは、買い手に提供する価値を見直して、新しい価値曲線を描く為のツールとしての4つのアクションの枠組みである。
差別化とコストのトレードオフを解消して、価値曲線を刷新するためには、次のような4つの問いを行うことで、業界のこれまでの戦略ロジックやビジネスモデルに挑むことが望まれる。それらの4つの問いとは、
Q1)業界常識として、製品やサービスに備わっている要素のうち、取り除くべきものは何か?
Q2)業界標準と比べて思いきり減らすべき要素は何か?
Q3)業界標準と比べて大胆に増やすべき要素は何か?
Q4)業界でこれまで提供されていない、今後付け加えるべき要素は何か?
まず、図2に示されているように、(Q1)・(Q2)を通して取り除くべき要素、減らす要素を考えると、競合他社よりもコスト面で優位に立つためのアイデアが浮かんでくるはずである。次に、(Q3)・(Q4)は、買い手にとっての価値を高め、新たな需要を生み出すための知恵を引き出してくれる。これらの問いを用いることで、買い手に提供する価値内容を改め、これまでにない経験をもたらすと同時に、コストを押し下げることが出来る。とりわけ重要なのは、「取り除く」・「付け加える」という二つのアクションで、これらを通して、既存の競争要因の枠組みにとらわれたまま価値を最大化しようとする発想から逃れられる。つまり、競争要因そのものを刷新して、従来の競争ルールを無効にすることが出来るのである。「イエロー・テイル」の場合は、図1に示されているように、3つの要因を取り除き、逆に飲みやすさ・選びやすさ・楽しさと冒険の3つの要因を新たに付け加えることによって新たな市場の創出に成功している。
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図2.4つのアクション・フレームワーク(the four actions framework) |
ブルー・オーシャン戦略の限界と課題
2人の著者は、一度「青い海」を作り出すと、スケールメリット、ネットワークの外部性によるスウィッチングコストの増大、新たなブランド効果、さらには新たに参入するためには社風や組織ルーティンの大幅見直しが必要、等々によって、平均10~15年間、その海で泳ぐことができると指摘している。しかしながら、事例で紹介されているかつてのT型フォードの時代とは明らかに異なり、競争がグローバルな規模で展開する21世紀の競争環境下においては、ビジネスモデルの模倣のみならず、市場参入速度が飛躍的に高まり、その結果、仮に「青い海」を創出しても、すぐに競合他社であふれる「赤い海」に変化してしまう可能性を否定できない。とりわけ、その「青い海」が魅力的であればあるほど、それら潜在的競合企業群も「戦略キャンバス」と「4つのアクション・フレームワーク」をベースに、業界と自社資源の再構成を通して、なんとしてでも参入を図ってくることになる。換言すれば、この「ブルー・オーシャン戦略」が発表され、脚光を浴びた分だけ、「ブルー・オーシャン戦略」の実行はその分、有効性を失ってきたことを意味する。
この観点からすると、次々と新たな「青い海」を作り出していく新たな「ブルー・オーシャン戦略」論の開発が求められているということでもある。いずれにしても、「ブルー・オーシャン戦略」に不可欠な要素は、ダイナミックな組織能力の向上と組織的進化のDNAである。
W.Chan Kim and Renee Mauborgne(2005), BLUE OCEAN STRATEGY, Harvard Business School Press, Boston. 有賀裕子訳『ブルー・オーシャン戦略』ランダムハウス講談社、2005年。
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