• 2025/07/27 掲載

好きでもないのになぜほしくなる? 悪用厳禁な商品設計とは(2/2)

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「満たされないのに、やめられない」という感情の“暴走”

 「好きでほしい」という状態は、本人にとって幸福なループを生み出します。

 しかし世の中には、それとはまったく異なる、「好きじゃないのにほしい」という、少し不思議な感情の働きも存在します。

 たとえばSNS。

 誰かの投稿に反応したいわけでもない。見たところで心から楽しいわけでもない。それでも、ふと手がスマホに伸びて、アプリを開いてしまっている。

 そんな経験がある人も多いのではないでしょうか。

 これは、典型的な「好きじゃないのにほしい」状態です。

 つまり、報酬だけが先走ってしまい、「快」や「好意」の感情が伴っていない。

 このような「報酬の単独暴走」は、心理学的に「中毒(アディクション)」と呼ばれる現象に近づいていきます。

 中毒と言えば、ギャンブルやドラッグを思い浮かべるかもしれません。

 しかし現代においては、スマホ、SNS、動画アプリ、ゲームなど、非常に多くのコンテンツが依存可能性を持つようになっています。

 このとき脳で主に働くのは、先ほども登場した「側坐核」を中心とした回路。ここは、衝動的な報酬欲求や「ほしい」という駆動力の中枢です。

 しかし「好き」はあくまで別の報酬回路です。だからこそ「満たされていないのに、やめられない」という感覚が生まれてしまうのです。

 さらに恐ろしいのは、こうした「好きじゃないのにほしい」行動が、繰り返されるほど「習慣化」し、自分の中の自然な欲望のように勘違いしてしまうことです。

 人間の脳は、「好き」がなくても「報酬パターン」が定着すると、それを「やらなきゃ気が済まないこと」にしてしまう。

 この内なる駆り立てこそが、中毒的な繰り返しを生む仕組みなのです。

「ほしい」という感情の正体は…

 ここまでで、人は好きなものだけがほしくなるわけではない、ということがわかってきました。

 では、そもそも「ほしい」という感情の根本には、何があるのでしょうか。

 その正体をひとことで言えば、「快感への期待」だと考えられます。

 たとえば、SNSを開くとき。

 私たちは「いいね」やコメントがついているかもしれない、通知が来ているかもしれないという「結果の快」を、まだ得てもいないのに先回りして想像し、その期待に突き動かされています。

 脳は「今この瞬間に快があるかどうか」ではなく、「快が来そうかどうか」に反応して動く。

 この「予測された快」が、行動の最も強力なエンジンなのです。

 ここで思い出してほしいのが、前節で扱ったホラー映画の構造です。

 あの心拍数の高まり、ゾクゾク感、緊張、そしてラストの解放。ホラー映画は強い刺激を与えてくれます。それを一度快として経験した脳は、「またあの感覚が得られるかもしれない」と思った瞬間、再びホラーに手を伸ばします。

 つまりホラーとは、言ってみれば「快感への期待」だけで成立している消費なのです。

 「怖いのに観てしまう」とき、人は「あの感覚がまた得られる」という予測に動かされています。

 それが、「ほしい」という感情の本質なのです。

 しかも重要なのは、実際に得られる快が小さくても、「得られるかもしれない」という予測があるだけで、人を動かすには十分だということ。これはギャンブル依存の構造にも共通する、予測が報酬を超える現象と言えます。

 この現象は神経科学の研究でも証明されています。

 実はご褒美が得られたときよりも、そのご褒美が来ることを予期しているときのほうが、より強く働く神経細胞も存在することがわかっています。

 これは、期待や予感そのものが、結果に匹敵するほど強力な報酬になる、ということを意味しています。

 商品でも、サービスでも、情報でも、私たちが誰かに何かを「ほしがってもらいたい」と思うとき、設計すべきは「快感そのもの」ではありません。

 「快感が得られそう」という期待のほうなのです。

 どんなに優れた体験を用意しても、「快が得られる予測が立たない」状態では人は動きません。一方で、「何かありそう」「きっと得られる」という予兆があるだけで、人は自ら近づいてくる。「快感への期待」こそが、行動の引き金になるのです。

「感情を動かしたもの勝ち」時代、どう商品設計すれば?

 人に「ほしい」と思ってもらうには、まず期待を生み出す必要があります。

 ではその期待はどう設計すればよいのでしょうか?

 自分の商品やサービスを売りたいとき、私たちはつい「どんな商品か」「何の役に立つサービスか」といったスペックや利便性を言ってしまいがちです。

 しかし、そうした情報だけでは人の期待はなかなか生まれません。

 本当に伝えるべきなのは、「それを使用した後、使用する前と比べて心や身体の状態がどう変化するか」「自分がどうなれるか」。

 それを、言葉や画像、イラスト、映像などを通じてリアルに想像させる必要があります。

 なぜなら、人がモノをほしがるときは、そのモノ自体を欲しているのではないからです。

 本当にほしいのは、そこから得られる快です。

 人はただ、心地よくなりたい。そのために商品やサービスを求めているのです。

 ホラー映画が怖いのについ観たくなるのは、そこから得られる快が特に強烈だからです。

 予告編を観るだけでも、ゾクゾクしたり、緊張したり、感情が大きく揺さぶられたりする。

 その体験が、「この映画を観ればスリルが味わえる」「これを最後まで観切れたら達成感がありそう」という期待を生み、鑑賞へとつながります。

 現代は「情報社会」と言われていますが、私にはむしろ「感情を動かしたもの勝ち」の時代に見えます。

 インターネットやSNSの普及により、私たちは自分と似た価値観を持つ人たちと、簡単につながることができるようになりました。

 結果として、自分の考えに合った情報ばかりが目に入りやすくなり、感情が増幅され、偏っていく現象が起きています(いわゆる「エコーチェンバー」現象です)。

 情報が増えれば、人は判断力が増し、冷静になると思うかもしれません。

 しかし実際には、感情がどんどん増幅していくのです。

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泣ける消費 人はモノではなく「感情」を買っている』をクリックすると購入ページに移動します
 このような傾向から、現代を情報社会ではなく、「情動社会」ととらえる見方も登場しています。

 今、実際に人を動かしているのは、情報の正確さや量ではありません。

 「どんな感情を引き起こすか」こそが、意思決定や行動を左右する最大の要因になっているのです。

 つまり、商品の情報やスペックをどれだけ伝えても、最終的に人が動くかどうかは、「どれだけ感情が動かされたか」によります。

 裏を返せば、マーケティングや商品設計においては、「何を伝えるか」ではなく、「伝えた結果、相手にどんな感情を抱かせたいのか」までを設計することが重要だと言えるでしょう。

※本記事は『泣ける消費 人はモノではなく「感情」を買っている』を再構成したものです。

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