- 2025/09/07 掲載
「組織を揺さぶり続ける」ユニクロ柳井会長の「大企業病」阻止の執念がスゴすぎる
株式会社UNLOCK POTENTIAL/リード・ザ・ジブン合同会社CEO
ISL(Institute for Strategic Leadership)プログラムディレクター/大学院大学至善館教授。東京大学経済学部卒業。ハーバード大学ケネディ大学院修了(政策学修士)。アーサー・D・リトル経営大学院修了(経営学修士、首席)。
1985年に東京海上に入社。米国留学を経て、戦略コンサルティング業界へ。ボストン コンサルティング グループ(BCG)ではパートナー、組織プラクティスの日本の責任者を務め、Organization Practice Awardを受賞。その後、シグマクシスを経て、2012年から2016年の間、ファーストリテイリングの経営者育成機関FRMIC担当役員を務めた。
その後アクセンチュアの人材組織変革プラクティスのジャパン全体の責任者を経て、リード・ザ・ジブンを起点にした人材組織変革を手掛けるUNLOCK POTENTIAL(「人と組織の可能性を解き放つ」の意味)を設立。デジタルトランスフォーメーションにともなう人材組織変革、経営者人材育成、経営チーム変革、組織風土変革、新規事業創出等のコンサルティングおよび研修・講演を行なっている。
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典型的な「大企業病」──コダックの“悲劇的”末路
柳井さんは、企業を経営する上で「大企業病」を最も恐れています。大企業病とは、企業が成長し大きくなるにつれて、組織が硬直化し、過去の成功体験に縛られて、イノベーションが起きなくなる現象を指します。「今のオペレーションをいかに効率良くするか」という現状維持に重きが置かれ、変革が行われなくなるのです。これは「服を変え、常識を変え、世界を変えていく」というパーパスと真逆の状態です。パーパスが示す「変革」という方向性と、大企業病がもたらす「現状維持」や「わずかな改善」という方向性は相容れません。
そのため、ユニクロでは組織を常に「揺さぶり続ける」ことで、大企業病を避けようとしています。組織や人事の固定化を避け、常に変化し続けることを重視しているのです。
大企業病を避けるためには、常に変革を続けることが必要です。同じことをずっと続けていては、企業は成長を続けることができません。過去にうまくいったからと同じことをやり続けていても、環境が変わってしまったら通用しなくなり、誰にも見向きもされなくなることは珍しくありません。
この「大企業病」の典型的な例として、写真フィルム業界の盟主だったコダック(イーストマン・コダック社)の凋落が挙げられます。1880年代に設立されたコダックは、長らく写真フィルム市場で80%以上のシェアを持ち、「コダック・モーメント」という言葉が生まれるほど、写真文化そのものを象徴する企業でした。
しかし、1990年代後半から2000年代にかけてのデジタルカメラの普及、さらに2010年代のスマートフォンのカメラ機能の向上により、フィルム写真の需要は急激に縮小しました。「もう誰もフィルムなんて使いません」という状況に陥り、コダックは2012年に経営破綻するという悲劇的な結末を迎えました。
最も皮肉なのは、デジタルカメラの基本技術を1975年に世界で初めて開発したのはコダックだったという事実です。しかし、当時の経営陣は「デジタルカメラはフィルム事業を脅かす」という懸念から、この革新的技術を積極的に展開することを躊躇しました。「我々はフィルム会社である」という自己認識が強すぎたのです。
その後もデジタル技術への投資は続けましたが、常に「フィルム事業を守る」という前提があり、思い切った事業転換ができませんでした。過去の成功体験から抜け出せず、フィルム事業に代わる新たな収益の柱を確立できないまま、時代の波に飲み込まれてしまったのです。 【次ページ】かたや大胆に変貌した富士フイルム、明暗を分けたのは
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