- 2025/09/18 掲載
買収劇「ついに終幕」のセブン、猛追のローソン・ファミマに「勝つの激ムズ」なワケ
連載:大関暁夫のビジネス甘辛時評
株式会社スタジオ02代表取締役。東北大学経済学部卒。 1984年横浜銀行に入り企画部門、営業部門の他、新聞記者経験もある異色の銀行マンとして活躍。全銀協出向時にはいわゆるMOF担を兼務し、現メガバンクトップなどと行動を共にして政官界との調整役を務めた。2006年支店長職をひと区切りとして独立し、経営アドバイザー業務に従事。上場ベンチャー企業役員を務めるなど、多くの企業で支援実績を積み上げた。現在は金融機関、上場企業、ベンチャー企業などのアドバイザリーをする傍ら、出身の有名進学校、大学、銀行時代の官民有力人脈を駆使した情報通企業アナリストとして、メディア執筆やコメンテーターを務めている。
ついに「終息」セブン&アイ買収劇
アリマンタシォン・クシュタール(以下、ACT)の失望は、セブン&アイホールディングス(以下、セブン)サイドがACT提案に対して、米国での独禁法クリアが可能なのか、という点を盾にした「牛歩戦略」にあったと言えます。実際に両社がNDA(秘密保持契約)の締結に至ったのは、ACTの買収提案を受けてから実に約8カ月後のことでした。セブンは今春の経営陣の交代を機に、新経営陣が新たな価値創造に向けた道筋とACTとの買収協議を同時進行で検討することを投資家に示してはいました。しかしACTサイドは、「非常に限定的な情報しか届かない」「創業家の伊藤家にも会えない」と、その非協力的姿勢について痛烈な批判を繰り返したと報道されています。
最終的には、両社による2度目の幹部協議が「セブンが用意した台本を読み上げただけ」とACTに受け止められ、わずか30分で終わったことで、堪忍袋の緒が切れてACTが匙を投げた、と第三者である筆者の目にはそう映りました。
買収提案に対して提案された側に求められる姿勢として、株主の利益を優先して提案の諾否を考えることが重要ポイントであるのは言うまでもありません。今回の件では、ACTが株価約2,600円での買収を提案したことから、セブンがこれを上回るような戦略が描けるか否かが、提案の諾否判断における1つの基準となるべきでした。
買収劇に見る「M&A後進国」日本の課題
セブンサイドは、経産省による「企業買収における行動指針(2023年)」に従い、社外取締役による特別委員会を設けて買収案と単独経営継続路線のどちらが検討を進める姿勢を示してはいました。しかしNDA締結遅延など「牛歩」の姿勢を見る限りにおいては、特別委員会が公平感をもって機能していたのか、疑問が残る部分ではあります。セブン経営陣の姿勢が、買収防衛ありきで株主利益優先を損なうことになってはいなかったか。あるいは、買収提案と単独経営路線の戦略を公平に比較検討すべき立場の特別委員会を構成した社外取締役が、果たして公正な第三者としての対応ができていたのか。セブンの経営寄りの考え方で対応してはいなかったか。これは同社だけの問題ではなく、国際ビジネスの場においては日本を代表するほかの大企業でも、同意なき買収のターゲットになり得ることを示した案件として、「M&A後進国」である日本企業に大きな課題を残したと感じています。改めて専門家による入念な検証が求められるところです。 【次ページ】「宿題山積み」と言えるワケ
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