- 2025/11/18 掲載
なぜPoCで断念…?「たった1カ月」で生成AI導入、パナソニックが教える「3つの秘訣」(2/2)
RAGを組み込んだ「PX-AI Plus」を展開中
──生成AIにおける課題として、社内で保有するデータの管理が挙げられます。パナソニックグループではどのようにデータ基盤の整備などに取り組んでいますか。橋川氏:データの統一・標準化には2種類あります。1つ目は、業務システムなどアプリケーションにおける統一・標準化です。たとえばERPにおけるデータの統一が挙げられます。2つ目は、データを保管するインフラにおける統一・標準化です。こちらはデータベースやファイルサーバなどをクラウドに統一する動きがあります。
我々としては、現場からの要望が多い過去のデータを活用できる仕組みを構築したいと考えています。現状、各部門で蓄積したデータから不具合の原因やノウハウを調べようとしても、簡単にはできません。誰かに聞かないとわからないといった不便を解消したいです。
たとえばファイルサーバに保管されるデータはさまざまな種類があります。具体的にはPDFファイルにおいてもその中身はテキストや画像が混在していたり、紙の書類をOCRで読み込んだPDFもありますし、それ以外にもWord、Excel、PowerPointなどのファイルもあります。これらのデータを整備し、事前にデータを蓄積し、RAG(検索拡張生成)を実装した生成AI「PX-AI Plus」を構築し、提供しています。こうした取り組みを進められる背景には、グループのCIOとして玉置が就任し、データ基盤の整備を推進する組織風土に変化してきたことがあると感じています。
──自社が保有するデータを活用したいという要望は多いですが、注意点などございますか。
橋川氏:企業がイメージする生成AIに対して、期待感が高すぎるとは思います。「データベースにある情報を、生成AIにそのまま学習させれば良い感じに答えてくれる」というイメージもあるでしょう。もちろん我々は簡単に実現できないことを認識しています。そのため、現場と事前に意見交換させてもらいながら、一緒に検証や精度向上を繰り返し、業務で使えるかを現場で判断してもらっています。生成AIだけでなく、データの重要性も認識してほしいですね。
AIエージェントの活用は?
──AIエージェントも業務の自動化などで期待が高まっていますが、AIエージェントについてはどのようにお考えでしょうか。橋川氏:そもそもAIエージェントの定義が難しいですし、あらゆる作業を自動的に行ってくれる理想的な段階ではありません。まずは「AIエージェントで何ができるか」「現場は何を求めているのか」を検証しなければいけません。そこで調査作業を行うAIエージェントをMVP(Minimum Viable Product:要求を満たす最小の製品)で試作しながら、実現できることを現場と一緒に探っている状況です。
2025年内に、現場からフィードバックをもらいながら、戦略や企画を練っていく予定です。もっとも、あらゆる業務を生成AIやAIエージェントに置き換えるのではなく、まずは一部の業務プロセスが生成AIやAIエージェントに置き換わると考えています。そこでさまざまな業務に対してパズルのピースを埋めたり、AIエージェント同士が連携するような形を目指したいです。
また、前提として「今の業務をそのまま生成AIやAIエージェントに置き換えるのはやめましょう」と伝えており、まずはBPR(ビジネスプロセス・リエンジニアリング:目的に沿って組織や制度を見直すこと)が先であると話しています。やはり人間が行っている業務をそのまま生成AIやAIエージェントに置き換えても、10%や20%の効率化にすぎません。将来において10倍、20倍の効率化を目指すなら、根本から業務を変えていく必要があるでしょう。
生成AI導入で失敗しない「3つの秘訣」
──生成AI導入推進の担当者は成果を出すのに苦労したり、評価につながらないという悩みを抱えています。こうした担当者や組織へのアドバイスはございますか?橋川氏:他社さまの状況を聞くと、PoC(概念実証)に取り組むものの、途中で失敗することも多いそうです。まずは小さなことで良いので、業務で使える形にもっていくのが良いと思います。あるいは数字を示しながら「生成AIで成果が出ています」というアピールも重要なので、まずは実績を作ることが重要ですね。
また、現場からのボトムアップだけでは難しい部分もあります。生成AIの導入推進担当者が、経営幹部と現場によって上と下から板挟みになるのはつらいでしょう。そこで経営幹部が率先して生成AIを使うように大々的に社内外に向けて伝えることは、非常に重要です。パナソニックグループではグループCEOの楠見とグループCIO、グループCTROの玉置が、この点を実践してくれました。やはり組織はトップダウンによる発信によって人が動きますし、これは生成AI導入推進においても同様です。
井上氏:補足すると、生成AIは従来存在しなかったツールと使い方であり、定量指標がわかりづらいです。そのため最初から費用対効果の数字を求められても、ボトムアップでは限界があるでしょう。そこで経営幹部や現場の上司による支持や意思表示は、会社全体の雰囲気を作る上で非常に大事だと感じました。
同時にコミュニティ運営も非常に大事だと考えています。困ったときにすぐ相談できるよう、情報交換の場を提供することは必須条件です。それらを踏まえてもパナソニックグループは、経営幹部の意思表示、生成AIツールの提供、コミュニティの構築・運営という3点がちょうど良いバランスで実行できたことで、生成AIの導入を推進できていると思います。この3点のうちどれか1つではなく、すべてが重要であることが生成AIの導入推進には必要です。
──最後にパナソニックグループの生成AI活用について、今後の展望はどのようにお考えでしょうか。
井上氏:業務において当たり前にWordやExcelを使っているように、生成AIを使うことも当たり前になるでしょう。今後数年で生成AIの機能や性能がさらに向上すれば、より自然な形で業務の中で生成AIを使うことになると思います。生成AIは、社員の生産性、能力を向上するために活用するアシスタントと考えており、社員に置き変わるものとはとらえていません。生成AIにより価値創出のための仕事に集中でき、労働市場縮小への対応も可能となり、既存人員で対処できるオペレーション体制を構築できると考えています。
橋川氏:生成AIが人間の仕事にすべて取って代わるのではなく、人間にしかできない仕事もあります。過去の蒸気機関車や自動車、インターネットが登場したころを振り返ると、当時の人たちには「人間の仕事が奪われるのでは?」という恐怖があったと思います。同時に社会や働き方も変わっており、生成AIも1つの節目だと思います。あくまで我々が目指しているのは人間と生成AIが共存しながら今まで不可能だったことを実現することであり、そのために貢献できる方法を組織全体へ提供していくことが当面の目標です。
──今後の仕事において生成AIの活用は必至です。パナソニックグループの成功事例をはじめあらゆる情報を参考にしながら、今のうちに使いこなすことが重要なのだと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。
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