• 2025/11/17 掲載

パナソニック・明治も希望退職…「辞めやすい」日本と「辞められない」米国の大逆転劇(2/2)

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日本では「辞めるのが普通」の意識が浸透

 では、「終身雇用」が一般的と言われてきた日本の労働市場はどうだろうか。

 実は米国とは対照的な現象が起きている。パーソルキャリアが運営する調査メディア「JobQ Town」が2025年3月に実施した調査によると、実に7割の社会人が、早期退職を望んでいることが判明した。

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転職が普通になった日本の労働市場
(Photo/Shutterstock)

 この調査は社会人585人を対象に行われたもので、退職へのハードルや入社後3年在籍への賛否、そして早期退職を望む理由などを探った内容だ。結果を見ると、全体の9割が「退職に対する心理的ハードルは下がっている」と回答。特に20代と40代で、ともに96%を超える顕著な結果となった。また転職が「一般的な選択肢となっている」という回答も8割近くに達していることも判明した。

 転職する同僚に対する意識も大きく変わりつつある。同僚の退職による転職意欲への影響を聞いたところ、「転職意欲が上がる派」が68.1%と過半数を占めた。

 同僚の退職でネガティブな印象を持つ年数に関しては、平均が1.2年以内、中央値が1.0年以内、最頻値が1.0年以内。一方、同僚の退職でポジティブな印象を持つ年数に関しては、平均が4.2年以上、中央値が3.0年以上、最頻値が3.0年以内となった。

 3年ほどで転職とするというのが、多くの労働者にとって好ましいイメージになっていることが浮き彫りとなった。

 この変化は複合的な要因によるもの。その1つとして挙げられるのが副業のハードルが下がったこと。副業で一定の収入を確保できることが、本業を辞める心理的ハードルを下げている可能性が考えられる。

 実際、副業人材マッチングサービス「lotsful」が2025年5月に実施した副業に関する定点調査では、副業経験者の平均月収は「20万円以上30万円未満」であることが分かった。

 また、ライフステージの変化に応じた柔軟な働き方を望む声が強まっていることもこの変化の背景にある。副業経験者のうち30.5%が「リモートワークなど本業での柔軟な働き方」を希望し、25.4%が「仕事より育児・介護を優先し、一時的に仕事を停止・縮小したい」と回答している。

 こうした個人の意識の変化は、実は企業側の構造的な動きとも無関係ではない。

 近年、日本では業績が好調な黒字企業でさえも、早期・希望退職制度を積極的に活用する動きが加速している。2025年にはパナソニックホールディングス、明治ホールディングス、オリンパス、三菱電機といった大手企業が相次いで募集を発表。これは将来の事業構造の変化を見据え、先んじて人材の最適化を図る戦略的な動きとみられる。

 この傾向は一部の企業にとどまらない。東京商工リサーチの調査によれば、2025年に早期・希望退職を募集した上場企業のうち、実に6割以上が直近の決算で黒字を確保していた。

 個人の「辞めやすさ」と、企業の「辞めてもらいやすさ」が、奇しくも日本の労働市場の流動性を高めている状況だ。

なぜ真逆の現象が?──日米の雇用環境が決定的に違う理由

 米国では「しがみつく」、日本では「辞めるのが普通」。この正反対のトレンドは、単なる国民性の違いから発生しているわけではない。両国の労働市場を取り巻く経済環境の決定的な違いにも目を向ける必要がある。

 米国では2025年、労働市場が急速に冷え込んだ。8月の雇用統計によると、非農業部門の雇用者数は前月比わずか2万2000人増にとどまり、失業率は4.3%まで上昇した。これは約4年ぶりの高水準だ。さらに深刻なのは、6月には4年半ぶりに雇用者数が減少に転じていたことだ。

 この雇用悪化の要因として、トランプ政権による関税政策やAI導入に伴う大量解雇が重なり、企業が採用を極端に絞り込んでいる状況が指摘されている。アマゾンが1万4000人、UPSが前年比4万8000人の人員削減を発表するなど、大手企業による大規模なリストラが相次ぐ。2025年1月から9月までの間に、米国企業は約95万人の雇用を削減した。

 一方、日本は対照的な状況にある。2025年5月時点での失業率は2.5%と低位で推移し、2025年と2026年も安定的に推移すると予測されている。また日本銀行の短観調査によると、2025年第2四半期の雇用人員判断指数(人員過剰を示す指数)がマイナス35と、過去30年で最低水準に達した。これは企業が深刻な人手不足に直面していることを意味する。

 ロイターが2025年1月に実施した調査でも、日本企業の66%が労働力不足により「深刻」または「かなり深刻」な事業への影響を受けていると回答。2024年には労働力不足による倒産件数が前年比32%増の342件と過去最多を記録するなど、人手不足の深刻さが浮き彫りとなっている。

 こうした売り手市場の環境が、日本の働き手に転職や早期退職という選択肢を現実的なものにしているのだ。

現職に留まるのと転職、どちらが正解か?メリット・デメリット

 では、日本の労働市場において、現職に留まるべきか、それとも新天地を求めるべきか。どちらが正解というわけではない。重要なのは、自分の状況に合わせた戦略を立てることだろう。

 まず「残る派」のメリットを見てみよう。同じ職場に長く留まることで、その仕事への習熟度が高まり、専門性を深められる点は大きな強みとなる。

 日本企業では依然として長期勤続者を評価する傾向があり、社内での昇進や賃上げの機会も得やすい。特に人員不足状況が続く企業においては、その可能性はさらに高まる。実際、ロイター調査では日本企業の63%が「賃上げなど人材関連投資」を2025年の優先事項に挙げている。

 また職場へのロイヤリティが高い従業員は、仕事に多くの時間と労力を投資する傾向があり、それが高いパフォーマンスにつながり、結果として昇進や昇給の可能性が高まるシナリオもあり得る。

 ただし、デメリットも存在する。同じ環境に長くいると、変化への対応力が鈍る可能性がある。特にAIなどのテクノロジーにより変化速度が加速する現代において、対応力の低減は避けたいところだ。また7年以上になると「野心の欠如」のシグナルとみなされるリスクも忘れてはならない。

 一方、「動く派」には異なるメリットがある。転職によって新しい環境や人脈を得られ、市場価値を測りやすくなる。転職時の平均給与増加率は14.8%であるのに対し、同じ職場に留まった場合の賃金上昇率は5.8%という数字もある。日本では副業が一般化しつつあり、本業以外の収入源を確保しながらキャリアの可能性を広げられるのは大きなアドバンテージだ。

 しかし、転職のデメリットも無視できない。特に1年以内の早期退職は次の転職時にネガティブに捉えられる可能性があり注意が必要だ。また、新しい職場での人間関係構築や業務の習得には相応の時間とエネルギーが必要となることも留意すべきだろう。

 結局のところ、「残る」「動く」の二者択一ではなく、現在の環境で成長できているか、市場価値を高められているかが本質的な問いとなる。年齢に関係なく、継続的な学習とスキルアップ、そして基礎的な適応力を磨くことが、日本の労働市場で生き残る鍵となるはずだ。

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