- 2025/12/12 掲載
日本企業には「試練の始まり」?高市首相の台湾発言が生む“経済損失”がヤバすぎた(2/2)
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
高市首相が「不用意発言」をした“ある根本理由”
なぜ、このような事態を招いてしまったのか。筆者は、その背景には高市首相が「戦略的曖昧さ」という外交の知恵を、単なる優柔不断な姿勢と捉えてしまい、手放してしまった点にあると考える。これまで日米両政府が、台湾有事への介入を明言せず、あえて曖昧にしてきたのには、極めて合理的な理由があった。1つは、米軍が助けに来るのか来ないのかを伏せておくこと自体が中国への抑止力につながるためだ。米国内の世論、日本の憲法の制約なども踏まえて、隠しておくことが大事なのである。この「あいまい戦略」という安全装置のもと、「中国に刺激を与えずに、軍事的、経済的実力を蓄える」、それが日台に現在課せられていたものだ。
高市首相は、この安全装置を自らの手で破壊した。首相の描くシナリオは、「米軍が必ず助けに来る」という希望的観測に基づいている。しかし周知の通り、次期トランプ政権が掲げるのは徹底した「アメリカ・ファースト」である。自国の利益にならない、あるいはコストに見合わないと判断すれば、米国は動かない。米国はこれまで、介入するかどうかを曖昧にすることで、中国への抑止力としてきた。日本の首相が勝手に「米国は来る」と断言することは、米国の選択権(フリーハンド)を縛る行為であり、同盟国としての信頼を損なう可能性のある行為である。駐日米国大使の反応(直接的な反応をせず、皮肉と冗談で返す)は、その現実を如実に物語っていると言えるだろう。
なぜ「論理的にもマズい」のか
さらに致命的なのは、法的な論理の破綻である。「存立危機事態」と認定し、集団的自衛権を行使するには、「密接な関係にある他国」への攻撃が発生していなければならない。この「他国」とは、現状では米国を指す。もし、トランプ政権が介入を拒否し、米軍が攻撃されていない状況で台湾有事が発生したらどうなるか。その場合、日本が自衛隊を出すには、台湾そのものを「国」と認定する必要に迫られる。だが、日本政府は公式に台湾を国家として承認していない。自衛隊派遣のために台湾を国家承認すれば、それは「一つの中国」政策の破棄を意味し、中国との国交断絶、ひいては全面戦争への引き金を日本から引くことになる。
「米軍が来ないかもしれない」という変数と、「台湾を国と呼べない」という定数。この2つの冷厳な事実を組み合わせれば、高市首相の発言は、法的にも外交的にも逃げ場のない「詰み(デッドロック)」の状態にあることがわかる。
日本企業に求められる経営戦略「練り直し」とは
先述の論文が示す通り、政治的なショックは持続性が高い。一度「敵」と認識された相手とのビジネスは、目に見えない「非関税障壁」によって阻害され続ける。日本企業は今後、中国市場という巨大なエンジンが不調に陥ることを前提に、経営戦略を練り直さなければならない。高市首相には、国を愛する情熱があるのかもしれない。しかし、現代の国際社会を生き抜くために必要なのは、熱狂的なスローガンではなく、冷徹な計算と緻密な論理である。総理大臣の言葉が、数千億円の経済損失を生み、数十万人の移動を止め、国家の安全保障を危険に晒すという「因果関係」を忘れてはならない。この点がないがしろにされてしまうこと、それこそが今、日本が直面している最大の「存立危機事態」なのかもしれない。
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