- 2025/12/12 掲載
日本企業には「試練の始まり」?高市首相の台湾発言が生む“経済損失”がヤバすぎた
連載:小倉健一の最新ビジネストレンド
1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長。現在、イトモス研究所所長。著書に『週刊誌がなくなる日』など。
高市氏の発言で消えた『鬼滅の刃』中国大ヒット
北京のショッピングモールにある巨大なスクリーンから、日本の誇るアニメーションの光が消えようとしている。今月11月14日、中国で公開された映画『劇場版「鬼滅の刃」無限城編』は、初日だけで約22億円という驚異的な興行収入を記録した。しかし、その熱狂は週末を境に凍りついたように冷え込み、客足は途絶えた。配給会社は「観客の感情」を理由に、公開予定だった『クレヨンしんちゃん』などの他作品も公開見合わせを発表した。この突然の「冬」をもたらしたのは、季節風ではない。東京・永田町で発せられた、たった1つの答弁である。高市早苗首相は衆議院予算委員会において、台湾海峡の封鎖は「どう考えても『存立危機事態』になり得る」と断言し、自衛隊による武力行使の可能性を具体的に語ってみせた。
この言葉は、瞬く間に海を越え、50万件もの日本行き航空券キャンセルという数字となって跳ね返ってきた。北海道の漁業者が待ち望んでいたホタテの輸出再開も、再び閉ざされた扉の向こうへと消え去った。
日本企業にとって「悪夢の始まり」と言えるワケ
政治家の言葉は、時に株価を動かし、時にコンテナ船の航路を変える。ビジネスの現場にいる人間ならば、政治と経済が不可分であることを肌で感じているはずだ。しかし、「政治が多少ギクシャクしても、良い製品を作っていれば経済は回る」という楽観論を抱く人も少なくない。残念ながら、その希望的観測は学術的なエビデンスによって否定されている。その一例が、2020年に発表された、経済学者グレゴリー・ウィッテンらによる中国と貿易相手国の関係性に関する研究論文だ。『Do political relations affect international trade? Evidence from China’s twelve trading partners(政治関係は国際貿易に影響を与えるか?中国の12の貿易相手国からの証拠)』 著者名:Gregory Whitten, Xiaoyi Dai, Simon Fan, Yu Pang 発表年:2020年)という題名のこの論文は、政治的な対立が貿易に与えるダメージが決して一過性のものではないことを、冷徹なデータで証明している。
論文では、以下のような分析がされている。
この研究が示唆する事実は重い。一度火がついた「集団的感情」やナショナリズムは、政治的な対立が収まった後も長く燻り続け、貿易関係に長期的な傷跡を残すという点だ。つまり、高市首相が放った言葉は、一時的な摩擦を生んだだけではない。中国市場における日本企業のビジネス基盤を、数年、あるいは十年単位で毀損する「構造的な破壊」を引き起こしたと言えるのだ。 【次ページ】日本企業に求められる経営戦略「練り直し」とは
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