• 2026/01/21 掲載

健康も経済も「逆に悪化」? たばこ規制で見落としがちな「ある盲点」の回避策とは

連載:小倉健一の最新ビジネストレンド

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2025年の冬から、タバコ規制強化の是非をめぐる議論が厚生労働省で始まった。喫煙に関する規制は、健康政策として妥当に思えるが、実は、データに基づいて見てみると、規制により社会に与える経済的損失がむしろ拡大したり、健康に必ずしも寄与しないなどの「意外な盲点」が浮かび上がってくる。健康と経済活動を両立させる規制の在り方に必要な視点とは何か。元プレジデント編集長の小倉健一氏が解説する。
執筆:ITOMOS研究所所長 小倉 健一

ITOMOS研究所所長 小倉 健一

1979年生まれ。京都大学経済学部卒業。国会議員秘書を経てプレジデント社へ入社、プレジデント編集部配属。経済誌としては当時最年少でプレジデント編集長。現在、イトモス研究所所長。著書に『週刊誌がなくなる日』など。

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たばこ規制で考えるべき「経済的な視点」とは
(Photo:Ned Snowman / Shutterstock.com)

受動喫煙の対策に見る「ある懸念」

 2025年の11月から12月にかけて、厚生労働省である会議が開かれた。「厚生科学審議会地域保健健康増進栄養部会 受動喫煙対策専門委員会」の第1回と第2回だ。

 その名の通り、日本における受動喫煙対策を議論するこの会議体は、これからの日本社会における「規制」の在り方を考える上で重要な会議と言える。

 大前提として、健康を守るという大義名分は、誰も否定できない正義である。なお、本稿は、経済的観点から喫煙について考察するため、タバコ、アルコール、ドラッグはそれぞれ身体にとって有害であるという常識的な前提以外に、医療面への言及はしない。

 ビジネスやテクノロジーの最前線に身を置く筆者の視点から見ると、厚労省のこの会議体の在り方には違和感が残る。それは、会議体での議論が「部分的」になってしまうのではないかという懸念があるためだ。

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【画像付き記事全文はこちら】
受動喫煙対策の専門委員会による会議体が2025年冬から開催されている
(Photo/Shutterstock.com)

 現代は、あらゆる事象がデータとして計測され、比較可能になる時代である。かつては「体に悪いもの」として漠然と語られていた事象も、今では明確な数値に置き換えることができる。

 タバコだけではない。アルコールも、違法な薬物も、あるいは工場から出る排気ガスも、すべては「社会に負荷をかける因子」として、同じテーブルの上で比較できる時代になった。

 ビッグデータを用いれば、私たちは感情や慣習に流されることなく、冷徹な事実に基づいて、どの分野にどれだけのリソースを割き、どのような規制をかけるべきかを判断できる。

 たとえば、社会に対する経済的なダメージを減らす、あるいは国民全体の厚生を最大化することが規制の目的だとしよう。ならば、タバコだけを狙い撃ちにするのではなく、他の要因がどれだけの損失を生んでいるかを並列に並べ、バランスよく対策を打つのが筋である。ここに、規制の「落とし穴」を警告する興味深い研究データが以下だ。
Cigarettes and Alcohol: Substitutes or Complements?, Decker & Schwartz, NBER Working Paper, 2000
 この論文には、喫煙とアルコールに関して、次のような分析がされている。
「結果は有意なクロス価格効果を示唆している。具体的には、アルコール価格の上昇はアルコール消費と喫煙参加の両方を減少させる(消費における補完関係を示唆)が、タバコ価格の上昇は喫煙参加を減少させる一方で飲酒を増加させる傾向がある」(筆者訳)
 この研究に示されているのは、いわゆる「代替関係」だ。人間がストレス解消や嗜好品に求める総量が一定だとすれば、1つの出口(タバコ)を税金や規制で塞いだとしても、その圧力は消滅しない。別の出口(アルコール)へと流れ込むだけなのだ。

 特にこの研究では、タバコが高くなると、人々はその分をお酒で埋め合わせようとする行動が確認されている。タバコを厳しく取り締まった結果、皮肉にも、より酩酊性が高く、他者への加害リスク(暴力や事故)が高いアルコール消費が増えてしまう。これこそが、部分最適の規制が陥りかねない結果である。 【次ページ】タバコよりも“経済的損失”がヒドい「あの嗜好品」
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