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- 2026/02/16 掲載
阪大はなぜ「DXの難所」を回避できたのか、カギとなる「すり合わせ」とは
学習院大学法学部卒業。早稲田大学商学研究科修了(MBA)。NHK(日本放送協会)、放送作家、WOWOWでのプロデューサー、愛知淑徳大学 准教授、京都精華大学 准教授を経て現職。専門は、ビジネスモデル、イノベーション・プロセス、コンテンツビジネス、マーケティング。放送番組の受賞歴として『Blueman Group Connect to Japan』(WOWOW)での第40回国際エミー賞アート番組部門ファイナリスト、第2回衛星放送協会オリジナル番組アワード中継番組部門最優秀番組、映文連アワード2013「ソーシャルコミュニケーション部門」部門優秀賞、ほか。著書に『この一冊で全部わかる ビジネスモデル』(2020年、SBクリエイティブ)『やわらかロジカルな話し方』(2017年、クロスメディア・パブリッシング)。
DXの「2025の崖」はやっぱり存在した?
DXは、すでにあらゆる業界で十分すぎるほどに必要性が叫ばれており、正直、この記事を読んでいる読者の中には食傷気味に思う方も多いだろう。経済産業省は日本のDXの遅れに警鐘を鳴らし、レガシーシステムの継続やIT人材不足により深刻な経済損失が目に見えてくることを「2025年の崖」と表現した。
その2025年を超えた現時点で、DX推進の現状は、依然として順調とは言いがたいのが事実だ。
国際経営開発研究所(IMD)が2025年に公表した、「世界競争力年鑑」では、日本の競争力が67カ国・地域中、38位に順位を落としている。
ここで評価されている4大指標は「経済状況」「政府効率性」「ビジネス効率性」「インフラ」なのだが、日本の順位が特に低いのが「ビジネス効率性」だ(51位)。さらに「ビジネス効率性」の中でも極めて順位が低いのが「生産性・効率性」(58位)という結果となっている。
たしかにDX推進は、「明確なゴール」や「定型的な道筋」が決まっているプロジェクトではなく、それ故に大組織ほど難しい。また、現場では、何から手をつけていいのかわからない、システムを作ったけど利用率が伸びない、といった難しさを認識することもあるだろう。
そうした中で、1つのヒントとなりそうなのが、筆者が所属する大阪大学のDXだ。
大阪大学は、関係人口3万人の大組織のため、決してDXを推進しやすい土壌があったわけではない。それにも関わらず、なぜDX推進を滑らかに進めることができているのか。
大阪大学D3センター DX研究部門が参画するDXの「成功の秘訣」について、大学内で効果が挙がった具体的な取り組み内容とともに紹介したい。
【阪大DX事例】最初にデジタル化をした「意外な部分」とは
大阪大学では、学生、教員、職員、地域のステークホルダーといった、大学に関わる全ての人財データを資源として活用し組織成長を目指す「OU人財データプラットフォーム」を構築している。その実現を目指して、2025年に学内で実現したDX施策は、意外なものだった。中でも国内の大学から注目されているのは、「デジタル学生証・教職員証」(2025年1月に提供開始)である。
大学の学生証だけではなく、多くの企業でも社員証はプラスチックのカードで発行されていることが多い。ビジネスパーソンならば、業務中はストラップで身につけているが、もしも紛失をした場合には、個人情報流出や、なりすましのリスクは大きい。
大阪大学には、学部・大学院を合わせておよそ2万3千人の学生が在籍している。そのうち、年間千枚単位の紛失・再発行が発生している。
学生証の再発行には当然、原価コストと再発行を行う業務コストが発生する。千枚単位となると、かなりのコストであることは想像に難くない。
大阪大学でDXの企画・推進を担うOUDX推進室副室長で、D3センター DX研究部門長も務める鎗水徹教授は、まず学生証のデジタル化に着手した背景を以下のように語る。
「学内には無数の課題がありましたが、DXを進めるにはまず、一番関係人口の多い課題を改善して『便利になった』と実感してもらうことが重要なんです。今の学生はスマートフォンを必ず持っているし、スマートフォンはカードの学生証と比較したら、紛失する確率は絶対に低いですよね。ですからアプリに学生証を実装しようと決めました」(鎗水氏)
大阪大学には「マイハンダイアプリ」という、大学ニュースや時間割、バスの時刻表が確認できるアプリがすでに存在していた。そのアプリの中に、学生や教職員のデジタル身分証を実装したのである。これにより、身分証の紛失リスクが低減されたと言える。また、大学業務に目をうつすと、身分証再発行の原価コスト・業務コスト削減にも効果的だった。 【次ページ】「運用コスト」の高さをどう乗り越えたのか?
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