• 2025/12/10 掲載

2050年「がん超え死因」阻止へ…サントリーが本気で進める「基礎科学」支援の舞台裏

連載:基礎科学者に聞く、研究の本質とイノベーション

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「静かなパンデミック」と呼ばれる、多くの抗生物質に耐性を持つ多剤耐性菌問題が世界で大きな懸念事項となっている。この解決に向けて、実は日本の企業連合が基礎科学の支援に注力しているのだ。彼らは、目先の利益だけにとらわれず、長期的な視点で基礎科学への支援に取り組む。今回はその中から代表して、サントリーの基盤研究を担うサントリーグローバルイノベーションセンター 代表取締役社長の安東 範之氏に話を聞いた。
協力:公益財団法人 大隅基礎科学創成財団

公益財団法人 大隅基礎科学創成財団

公益財団法人 大隅基礎科学創成財団 は、ノーベル生理学・医学賞を受賞した大隅良典(理事長)が2017年、科学賞の賞金1億円を拠出し、日本の基礎科学振興を目的に設立した。
<財団の活動>
・現在の研究費のシステムでは支援がなされにくい独創的な研究や、すぐに役に立つことを謳えない地道な研究を進める基礎科学者の助成
・企業経営者・研究者、大学等研究者との勉強会・交流会の開催
・市民及び学生を対象とした基礎科学の普及啓発活動

本シリーズの特設ページ:https://www.ofsf.or.jp/SBC/2310.html

photo
静かなパンデミックと呼ばれる多剤耐性菌問題の解決に向けた、サントリーによる基礎科学への支援の舞台裏とは
(出典元: T. Schneider / Shutterstock.com)

目先の利益だけにとらわれない「サントリーの精神」

画像
サントリーグローバルイノベーションセンター
代表取締役社長
安東 範之(あんどう のりゆき)氏

1994年4月サントリー入社。エンジニアとしてウイスキーの原酒開発や新製造プロセス導入を担う。酒類、飲料の原料加工・プロセス技術開発に従事した後、食品部門の中長期技術開発戦略の立案に携わる。
2013年にサントリーグループの基盤技術研究を担うサントリーグローバルイノベーションセンター取締役に就任。2021年より現職、サントリーホールディングス執行役員。グループイノベーション本部副本部長、未来事業開発部担当、サントリーウエルネス取締役。
 サントリーグループの基盤技術研究を担う会社として2013年に設立したサントリーグローバルイノベーションセンター(以下、SIC)は、「おいしさ」や「健康」を軸に、5年後、10年後を見据えた研究開発に取り組んでいる。

 その背景には、サントリーの創業以来受け継がれてきた「やってみなはれ」の精神がある。目先の利益だけにとらわれず、未知の可能性に挑む姿勢が、基礎研究を重視する同社の方針にも表れている。

 一般的に企業の研究開発は、商品化を前提とした応用研究が中心である。しかしSICでは、その土台となる基礎研究の必要性を強く認識している。安東氏は、次のように語る。

「応用研究は基礎研究の土台があって成立されるものです。特に食品や飲料などの分野は、大学などで研究対象になりにくく、企業自らが基礎から研究していく必要があります。また複雑な現象を理解し、制御することは企業のノウハウにもつながります」(安東氏)

 一方、基礎研究を主導する大学や公的研究機関では、運営費交付金の削減が続き、長期的な研究の継続や若手研究者の育成が困難になっている。そのため近年では、企業が主体となって社会課題の解決につながる基礎研究を支援する動きが広がりつつある。

 サントリーが支援に踏み切った、「静かなパンデミック」として世界的な懸念が高まっている「多剤耐性菌」に関する取り組みも、そうした動きの一環である。 【次ページ】死者127万人「多剤耐性菌」問題への対処支援
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