- 2026/03/10 掲載
1日の販売「761万→447万本」に激減…中国でヤクルトが大失速した“皮肉すぎる理由”(2/2)
なぜ…健康志向高まる中「健康飲料」が嫌われたワケ
2010年代、SNSが社会に浸透してくると、ヤクルトレディの伝播力が相対的に弱まり、SNSでの拡散力が勝るようになっていった。同時に、健康志向が高まり、皮肉なことに、健康飲料であるヤクルトに疑問の目が向けられるようになる。中国の最近の健康観は「科学的根拠に基づいている」ことが重要視される。しかし、多くの場合は悪玉栄養素をやり玉にあげて、それを避けるという直感的なものがSNSでは拡散しやすい。具体的には、糖分と脂質を悪玉にして、この2つの含有量が低い飲料を選ぶ傾向が強くなっていった。
現在でも、SNSにはさまざまな飲料の糖分量の比較表が出回っている。これによると、ヤクルトは100mlあたり15.7gであり、コーラの10.6gよりも多いことになる。病院の肥満外来や生活習慣病外来などでも、角砂糖の模型を使って説明された比較展示をよく見かける。
これにより、「ヤクルトは健康に悪い」という誤解が広がってしまった。ヤクルト中国は、2016年に糖分4.5gの低糖ヤクルトを投入するが、味が薄めであることから「砂糖水に添加物を入れただけのもの」という批判をする人も現れた。
ヤクルトの飲料としての強みは、生きた乳酸菌が含まれていることで、研究でも腸内環境や免疫機能への効果が示されている。生きた乳酸菌を届けるために、温度管理されたコールドチェーンが必須であり、温度管理が難しいECなどでの販売は簡単ではない。
しかし、国内ライバル企業は温度管理の問題を突いた。伊利(イーリー)、娃哈哈(ワハハ)などの飲料大手は、常温保存可能な乳酸菌飲料を発売していったのだ。発酵後に熱処理殺菌するというもので、未開封であれば半年以上も常温保存が可能になる。
乳酸菌も死滅してしまうため、意味がないようにも思えるが、近年では健康効果を示す研究が蓄積している。死滅はしているものの、乳酸菌体は含まれている。腸内にもとからいる乳酸菌は、この乳酸菌体や乳酸菌が生成した物質を餌として活発に増殖をする。これにより、腸内に善玉菌を増やすことができるのだ。
この「バイオジェニクス」という考え方は、死滅菌体を飲料に入れるため、高濃度にすることができ、高い効果を得ることができる。一方、ヤクルトのプロバイオティクスは大量の活性菌を入れると酸味を感じるようになってしまうために、濃度を上げるのが難しい。
ヤクルトは技術開発を行い、500億活菌型などの高濃度型ヤクルトを発売して対抗した。しかし、中国国内企業は常温保存であることを活かして、物流の弱い地方に浸透したほか、ECでの販売を強化するなどして、ヤクルトの強力なライバルになってきている。
【敗因】逆風の中で決定的だった“失態”
その中で、ヤクルトは2020年に上海市で手痛いミスを犯してしまった。新型コロナの感染が拡大している中、中国国家衛生健康委員会が「新型コロナ感染症肺炎診療ガイドライン」を公開した。この中で、腸内生態調整剤を使用し、腸内細菌生態バランスを維持することで、新型コロナ感染後の2次的な細菌感染を予防するという項目があった。これは免疫力を高めておくことで、新型コロナ感染後の免疫力が落ちている時期であっても、他の細菌感染を予防できるという内容だった。
しかし、上海市浦東新区のあるスーパーで配布されたヤクルトの販促チラシで、プロバイオティクスという考え方が、新型コロナの感染そのものの予防にもなると取られかねない表現を使ってしまった。新型コロナに関する情報には、市民も政府も非常にナーバスになっている時期であり、問題視され、最終的に上海市の市場監督管理局は、ヤクルトに対して45万元(約1,000万円)の罰金を課すことになった。
ただでさえ、ヤクルトにとって逆風が吹いていた中で、この事件は致命的だった。SNSでは、ヤクルトが消費者に不誠実な企業だという批判が投稿されるようになり、ブランドへの信頼が大きく揺らぐことになった。
「日本製品」が中国市場で“総崩れ”の事情
なんとももったいない話だ。ヤクルトが中国で消費者に対して不誠実な行いをしたことはなく、消費者との間で、健康をめぐって齟齬が生じてしまっているのだ。その大きな要因の1つが、ヤクルトレディを中心にした口コミマーケティングがあまりにも成功したために、2010年代以降、情報の拡散がSNSに移ったことへの対応が遅れたことだ。今では、企業がいくらWebで広告を出しても、科学的根拠がある論文を学会誌に掲載しても、SNSでわかりやすく表現されなければ消費者には伝わらなくなっている。また、SNSではしばしば偏った情報が拡散してしまうことがある。そのような場合にも、正しい情報を発信していくことが必要になる。
現在、日本企業の消費者向け製品はその多くが中国での市場を縮小させている。自動車、家電製品、化粧品、外食チェーンなどで縮小、撤退のニュースが相次ぎ、日本製品は中国市場で次第に存在感を失っている。
しかし、製品としてのポテンシャルは高い。製品の良さが消費者にきちんと伝わっていないのだ。SNSマーケティングをうまく活用できず、マスメディア広告用のイメージ映像を投稿するだけになっているところが多い。一方、成長している中国企業は、インフルエンサーを起用したり育成したりして、ショート動画を中心に常に話題を提供している。その中で、製品の良さをうまく伝えている。
ヤクルトのプロバイオティクスという考え方は、体質改善をして予防するという漢方の考え方にも通底するものがあり、中国には広く受け入れられる土壌がある。ヤクルトは江蘇省無錫と天津市に新設された工場に生産を集約して、体制の立て直しを図っている。もう一度、ヤクルトは中国で存在感を放つことができるか。重要な時期を迎えている。
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