- 2026/08/21 07:10 掲載
現役MicrosoftエンジニアのAI活用術、生産性10倍でも「ゴミ量産」するダメな人の特徴(3/3)
「本体の力」×「エージェント制御」という掛け算
生産性が10倍になるという話を聞くと、「AIに任せれば誰でも同じ結果が出るのでは」と思いたくなる。しかし牛尾氏の見方は異なる。AIを使うかどうかよりも、「どう使うか」がすべてであり、その差を生むのは「本体の力」だと繰り返し強調する。本体の力とは、そのエンジニアが持つ専門知識と実務経験の蓄積だ。エージェントに対して的確な指示を与えられるか、エージェントが出した答えの誤りに気づけるか、システムのアーキテクチャー(構造・設計)を理解した上でエージェントを誘導できるか──これらはすべて、従来のエンジニアリングの知識があって初めて機能する能力だ。
「『本体×コーディングエージェント力』というか、本体が十分強ければエージェントを制御しやすい。エージェントがわけの分からないことをしたときに、間違っているからこういう風な作りにしようという修正ができないといけない」(牛尾氏)
逆に言えば、専門知識のないまま生産性だけが10倍になれば、「10倍のスピードでゴミが生産される」だけだ。世界中のユーザーが使うサービスの開発において、プロンプトを打って結果を受け取るだけのアプローチでは品質を保てない。エージェントに何を任せ、何を人間が判断するかを見極める力こそが、AI活用の真価を決める。
エージェントを迷わせない「コンテキストマネジメント」とドメイン知識
もう1つの重要な概念が「コンテキストマネジメント」だ。LLM(大規模言語モデル)と呼ばれるAIの中核技術は、送り込まれる情報量や内容の整合性によって出力の精度が大きく変わる。システムプロンプト(事前に組み込む指示)、ユーザープロンプト(その場での入力)、過去の会話履歴、ツールの定義情報──これらが一度にLLMに送られるが、情報が多すぎたり矛盾していたりすると、エージェントは混乱した動作をしやすくなる。
必要な情報だけを整理して送ること、情報が増えすぎた際の圧縮(コンパクション)によって重要な記憶が失われないよう設計すること、優先順位を明確にすること──こうした工夫の積み重ねが「エージェントが”アホにゃんにゃん”にならない」環境を作る。
そしてその設計を正しく行うためにも、ドメイン知識(その分野の専門知識)が不可欠だ。
「社内の機密情報はエージェントが知っているはずがない。そういう情報が人の頭に入っていてエージェントが検索しても出てこない情報が重要です。職場や職務のドメイン知識をいかにAIに食わせて、それを整備するかががすごく重要です」(牛尾氏)
AIの専門家であることよりも、その分野を深く知る人間こそがエージェントをうまく動かせる。これはエンジニアに限らず、営業、法務、人事、財務といったあらゆるビジネス領域に当てはまる普遍的な原則だ。業務の専門知識を持つ人間が、その知識をエージェントに正しく与え、結果を評価できる──この役割が、AI時代の新たな「人間の価値」として浮上している。
さらに、コンテキストマネジメントとドメイン知識の両方が揃っただけでは不十分で、実際にエージェントを動かしてパフォーマンスを評価し、問題があれば修正するフィードバックループを地道に回すことが決定的に重要だと牛尾氏は言う。「これさえあればいい」という万能な解はなく、複合的な要素を継続的に改善し続ける営みこそが、AIの出力品質を高めていく。
(後編に続く)
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