- 2026/07/24 09:30 掲載
「SaaSは死んだ」に怯えるな──Pendo CEOが語るAI時代の生存戦略
「SaaSは死んだ」は本当か? 騒動の裏にあるもの
「SaaSは死んだ」は本当か。同氏はこの問いに対し、きわめて冷静な見解を示す。「SaaSは死んだ」というフレーズはメディアがAIネイティブ企業に注目を集めるために作り出したナラティブ(語り口)だ、と。しかし同氏は、その言葉を全否定するのではなく、むしろ建設的な問いかけとして受け取るべきだとも指摘する。「SaaS is deadというのはメディアがAIネイティブの会社への注目のために使っている言葉だ。しかし私にとっては、それはコール・トゥ・アクション(行動を促す呼びかけ)だ。今日の顧客やユーザーが求める形にソリューションを変えていく、そのための呼びかけとして捉えている」(オルソン氏)
この発言が示すのは、危機感を煽るフレーズの裏側にある、より本質的な問題だ。SaaSが死んだのではなく、SaaSが顧客の期待に十分に応えられていない状況が生まれている──そこにこそ、問題の核心がある。顧客が何を求めているかを直視することが重要だというのが、同氏の基本的なスタンスだ。
既存SaaSの限界? ユーザーが求める「エージェント体験」
「SaaSは死んだ」という言葉の背景にあるのは、ユーザーの満足度不足だ。従来のSaaSアプリケーションが提供してきた価値では、もはやユーザーの期待に応えられていない。では、ユーザーは今、何を求めているのか。同氏が示す答えは明快だ。「ユーザーは今、本当に使えるエージェントを体験したいと思っている」(オルソン氏)。
ここで言う「エージェント」とは、AIが自律的に判断・行動しながらユーザーの目的を達成するシステムのことを指す。単にデータを表示したり、設定を変更したりするだけのツールではなく、ユーザーの意図を理解し、能動的に動くAIの存在を、ユーザーはすでに求め始めている。
この変化は、SaaS企業にとって脅威ではなく、むしろ変革の機会だとオルソン氏は強調する。既存のSaaSを利用するユーザーはいまも数多く存在する。既存顧客を切り捨てるという発想ではなく、変化した期待に合わせて提供価値を更新できるかどうかが問われている。
では、SaaS企業は具体的に何をすべきなのか。同氏が掲げる原則はシンプルだ。「ユーザーが何を望んでいるかにフォーカスすること」(オルソン氏)。その具体的な答えが、エージェント体験の提供だ。
AIの品質を劇的に変える「コンテクスト」の正体
AIモデルの性能向上が進む中で、差別化の焦点はモデルそのものではなく、「何をAIに理解させるか」へ移りつつある。マイクロソフト(Microsoft)やセールスフォース(Salesforce)なども業務データをAIへ連携する取り組みを強化する中、オルソン氏はその鍵が「コンテクスト(文脈・状況情報)」だと語る。「コンテクストなきエージェントのアクションは、品質が高くない。コンテクストをつかむことがエージェントの質を左右する」(オルソン氏)
エージェントがユーザーにとって本当に役立つ行動を取るためには、その時々の状況、つまり「ユーザーが何をしているのか」「どこで詰まっているのか」「何を達成しようとしているのか」をリアルタイムで把握していなければならない。
もっとも、エージェントに必要なコンテクストは、1つのシステムだけで完結するものではない。旅行予約サイトを例に取れば、フライトのスケジュールや料金情報は別のシステムが供給し、会話の履歴は別のレイヤーが担う。複数のコンテクストが組み合わさることで、はじめて精度の高いエージェント体験が実現する。
その中で同社が強みと位置付けるのが、ユーザーがアプリケーション内でどのような行動を取っているのかというデータだ。
「さまざまなレイヤーがある中で、私たちがユニークなのは、ユーザーが実際にエージェントに対してどういうアクションを取っているのかというデータを直接持っている点だ」(オルソン氏)
こうしたユーザーの行動データを継続的に計測し、改善点を把握することが、品質向上には欠かせない。
画面操作はもう古い? SaaS企業が“今すぐ”やるべき事
理念や方向性が明確になったとしても、SaaS企業が実際に何をすべきかは、それだけでは見えにくい。オルソン氏は、より具体的な施策として複数のアプローチを示している。まず挙げられるのがMCP(Model Context Protocol:モデル・コンテクスト・プロトコル)の活用だ。MCPとは、Anthropicが提唱し、OpenAI、Google、Microsoftなども対応を表明・拡大している、AIと外部システムをつなぐ共通プロトコルだ。PendoもMCPに対応し、AIエージェントがUIを介さずに機能を呼び出せるようにした。
「UIがなくてもPendoとやり取りできるという新たな選択肢ができた。これはユーザーが今まさに求めている形だ」(オルソン氏)
従来のSaaSは、ダッシュボードやメニューをユーザーが直接操作することを前提としてきた。だがAIエージェント時代には、人が画面を操作せず、エージェントが複数のソフトウェアを呼び出す場面が増える。MCPへの対応は、こうした利用形態への転換を意味する。
また、エージェントの利用状況を計測し、改善につなげる仕組み(エージェントアナリティクス)も欠かせない。品質を継続的に計測し、データに基づいて改善を重ねることが、SaaS企業にとって重要になる。
「エージェントアナリティクスはメジャメント(計測)をお手伝いするものだ。計測することで、このエージェントをこういうふうに改善しましょうという示唆が得られる」(オルソン氏)
サブスクの終焉? AI時代は「従量課金」が現実解か
AIエージェント時代において、ビジネスモデルそのものも変わりつつある。AI推論コストの増大を背景に、従来の定額サブスクリプションから、AIの利用量に応じた「従量課金(コンサンプション型)」モデルへの移行がSaaS業界全体のトレンドとなっている。Pendoも従量課金型の料金体系を検討しており、「より消費量ベースのビジネスモデルを探求している」(オルソン氏)という。
すでにエージェントアナリティクスでは、会話数に応じたライセンス体系を導入している。さらに新製品についても、クレジットやトークンを基準とする料金体系を検討しているという。
「SaaS is dead」という言葉は、SaaSへの死亡宣告ではない。AI時代を迎えた今、既存のSaaS企業に対し、自らが提供するソフトウェアの価値やユーザー体験そのものを問い直し、それを時代に合わせて再設計できるかを問うメッセージなのかもしれない。
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