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- 2011/06/07 掲載
IT業界の舞台裏、IBMの販売店会「愛徳会」に見るメーカーと販売店共存のSMB戦略
ITの流通経路を押さえる:中堅・中小企業市場の解体新書(28)
変化する販売店会の役割
IT製品をどのように購入すればよいのか?その最適解を知るには、IT製品の流通経路を押さえておく必要があるだろう。ITのハードウェアやソフトウェアは、その多くがメーカーから販売店に卸され、販売店が付加価値を付けてユーザー企業に届けている。こうした販売店はVAR(Value Added Reseller)と呼ばれ、メーカーとは相互補完の関係を保っている。個々の販売店は同じメーカー製品を扱っているものの、販売の現場ではライバル関係にもなる。こうした販売店が一緒になって活動する販売店組織は、呉越同舟的な雰囲気もあり、企業トップによる懇親の度合いが強い傾向にある。
しかし、今回取り上げる日本アイ・ビー・エムの販売店組織「愛徳会」は、そうした販売店会とは一線を画す活動を行っている。IT市場が成熟化し、製品・技術などが多様化している現在では、SMBを対象とする販売店は、1社だけでビジネスを展開することよりも、協業できる企業やメーカーとのパートナシップを取りながら厳しい市場に対峙する方が重要だという考えが、その背景にある。
愛徳会、いかにも日本的な相互扶助の匂いのするベタなネーミングだが、これが日本アイ・ビー・エムの特約店組織の名称だ。オフコンのころからの業界人なら知っているはずだが、オープン以降からIT業界に関わった人は意外に知らない。愛(=日本アイ・ビー・エム)徳(=特約店)会の略語である。
この愛徳会の歴史は長く、1982年に設立されているので、ほぼ30年のキャリアを誇る販売店組織となる。設立当時はIBM小型機を販売する特約店を対象としていた。当時はハードウェアの売れ行きが絶好調であり、愛徳会の活動は親睦の色彩が濃かったようだ。
その後オープンサーバの時代になり、日本アイ・ビー・エムのチャネル政策もオフコンのみからオープン系のPCサーバ、UNIXサーバのチャネル販売も追加となった。その中で、SMB市場へのチャネル販売には試行錯誤の時期が続いた。
大きな転換のきっかけとなったのが、メーカーの日本アイ・ビー・エムが広域事業とSMB市場の戦略を立て直す施策を打ち出したことだ。メーカー直販とチャネル販売の相互のカニバリをなくし、日本アイ・ビー・エムは、SMB市場に対しては、ハードウェア・ソフトウェアなど、商材の提供に徹し、SIビジネスをパートナーに任せ、パートナーとの競合を回避することを決断したことだろう。従業員1000人未満の企業にはチャネル販売にすべて任せるという方針を確定したのである。その時期と愛徳会の組織活動の変革もシンクロしており、ここでの愛徳会の変革をイノベーションと称している。
このイノベーション以前にも、研鑽への取り組みそのものはあり、会員の中には協業に取り組み成果を挙げている事例もあった。だがオフコン時代は、「研鑽と親睦」に取組んでいることで、特約店は収益をあげることのできた市場環境であった。その後マーケット環境も、日本アイ・ビー・エムのビジネス構造もドラスティックに変わった。変化を追うべく、愛徳会も会員相互及びメーカーとの協業(強化)による各社の業績向上を明確に打ち出し組織の再強化および協業を目的とした新たな活動の推進を図った。
現在の愛徳会の活動は大きく次の3つの柱をもって展開されている(注1)。
・ソリューションの相互交流会、勉強会などを全国各地で企画、運営
・分科会活動、ソリューション大会など、各種イベントの充実と活性化
・日本アイ・ビー・エムのコーディネートによるパートナ同士の協業促進
2.愛徳会と日本アイ・ビー・エムの相互関係強化
・経営者層やライン部門ごとに日本アイ・ビー・エムとの意見交換会、情報交流会を開催
・日本アイ・ビー・エムとの共催による愛徳会会員限定イベントの企画・運営
・日本アイ・ビー・エムユーザー研究会とのコラボレーションによる三位一体の関係の確立
3.人材育成
・各種分科会でのセミナ、研修の受講
・ソリューション大会(S-1グランプリ)への参画
・日本アイ・ビー・エムとの共催による次世代経営者セミナーへの参加
・海外研修ツアー、経営者海外研修ツアーの企画、参加
【次ページ】他メーカーからも注目の「S-1グランプリ」とは?
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