• 2012/02/22 掲載

【武田知弘氏インタビュー】大日本帝国の経済成長の裏には何があったのか?(2/2)

『教科書には載っていない大日本帝国の真実』著者 武田知弘氏インタビュー

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現代日本と大日本帝国の政治システム

――武田さんは本書で大日本帝国の凄まじい経済成長率についても触れておられます。鎖国していた江戸時代から急激な成長ができた理由について教えてください。

 武田氏■大日本帝国の急激な経済成長は、単に政府が「富国強兵政策」を実施したから成し遂げられたということではありません。あまり知られていませんが、日本は江戸時代からすでに世界レベルに達している産業をいくつか持っていました。その1つが生糸です。

 生糸の生産技術は、ヨーロッパなどと比較しても高度なものを持っていました。江戸時代以前、日本は生糸の輸入国でしたが、江戸時代に鎖国をしたことで、生糸があまり輸入できなくなり、自国で生糸を生産する技術が非常に発達したのです。日本の生糸の技術がどれくらい高かったか、興味深いエピソードがあります。それは、江戸時代の日本の生糸の技術書が、欧米で翻訳されていたのです。そのため幕末の日本は、開国すると同時に生糸の大量輸出を始めたのです。それが、日本の近代化の原資となり、さらなる経済成長の誘い水となったわけです。

 また、教育を素早く充実させたことも、大日本帝国の素早い経済成長の大きな要因となっていますが、教育も実は江戸時代の段階でかなり整備されていました。武士のみならず、町民や農民たちも、寺子屋という私塾で教育を受けていました。明治初期の小学校の多くは、元寺子屋だった寺社などの施設が代用されていました。日本人が勤勉で教育熱心だったのは、江戸時代以前からのことであり、その国民性が大日本帝国の経済成長を支えていたと考えられます。

――また、大日本帝国の政治については、悪い点が多いことを指摘され、かなり厳しく評価されています。改めて政治の失敗が起きた背景などをお話しいただけますか。

 武田氏■大日本帝国というと、現代の我々は天皇中心の上意下達型の専制政治を想像しがちですが、実像はそのまったく逆です。大日本帝国では、最終的には普通選挙も実施されており、形の上では、民主主義国家の体を持っていたのです。そして権力があちこちに分散されていて、責任の所在がまったくわからない状態だったのです。

 内閣総理大臣の権限も今よりもはるかに小さく、かといって帝国議会が強いかと言えばそうでもありません。枢密院、元老院などの機関が乱立していて、それぞれが好き勝手に主張し合っている状態だったのです。明治維新の元勲が生きている間は、それぞれの意見をうまく調整して、国家を動かしていくということが可能でした。が、元勲たちが死んでしまった後は、国の機構はまったく統一感を失ってしまいました。

 現在の日本も首相がころころ変わるので、政治が安定しないと言われていますが、戦前はもっと首相が頻繁に変わっていたのです。関東大震災や世界大恐慌などでも、政府はなかなか有効な政策を打ち出せない、そこに国民の不満が溜まって軍部が台頭していったのです。

 大日本帝国の政治システムは、明治維新当時、国を素早くまとめるために付け焼刃で作られたものです。しかし、その後の指導者たちは、不完全な政治システムをきちんと整えるという作業をしないまま来てしまった。その付けが、昭和に入って大きな災いを引き起こしたといえるのではないでしょうか。

――いま、大日本帝国の歴史を振り返ることで、現代においてどのような知見が得られるとお考えですか? また本書のほかに関連書籍としてお薦めできる本などもあればお教えください。

 武田氏■大日本帝国は、短い期間に非常に大きな規模での「興廃」をしています。その歴史には、現代の我々に対する教訓が詰まっていると思われます。大日本帝国は、客観的に見れば、稀に見るほどの急成長を遂げた国です。その背景を丹念に追求することで、「国家を成長させる」ということについて、たくさん得られるものがあると思われます。

 また、現在の日本は、太平洋戦争前の大日本帝国と似ている部分が非常に多いと思われます。巨大地震で国が大きなダメージを受け、世界的な経済不安も起きています。これは関東大震災から世界大恐慌までの状況と非常に似ていると言えます。大日本帝国は、当時の国の危機にどう対処したのか? その結果どうなったのか? そのことを知ることで、今、我々がしなければならないことが、見えてくるのではないでしょうか?

 大日本帝国の実情を知ろうとするとき、壁になるのがイデオロギーの問題です。大日本帝国を論じた書物の多くは、天皇制や全体主義を批判するものであったり、逆に擁護するものであったり、とかくイデオロギー論に傾きがちです。そして、イデオロギーが主体の本では、実際の国民の生活や社会の様子が、具体的、客観的に語られることがあまりありません。私は大日本帝国の実情を知るためには、イデオロギーよりも、実際に国民はどういう生活をし、社会はどういうふうに動いていたのか、ということの方が重要な情報だと思います。

 が、残念ながら、大日本帝国の実情を客観的、具体的に書いた書物は、専門書以外では非常に少ないのです。そんな中でお勧めできるのは、伊藤隆監修・百瀬孝著『事典 昭和戦前期の日本』(吉川弘文館)という本です。戦前期の日本の社会制度全般を具体的に知ることのできる数少ない本だといえます。


●武田知弘(たけだ・ともひろ)
1967年福岡県出身。西南学院大学経済学部中退。1991年大蔵省入省。バブル崩壊前後の日本経済の現場をつぶさに見て回る。1998年から執筆活動を開始。1999年大蔵省退官、出版社勤務を経てライターとなる。
主な著書に『ヒトラーの経済政策』(祥伝社新書)、『戦前の日本』(彩図社)、『ワケありな日本経済』(ビジネス社)、『織田信長のマネー革命』(ソフトバンク新書)などがある。
ブログ:武田知弘ブログ


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