注文の多いレストランと聞いて思い出されるのは児童文学者として有名な宮沢賢治が著した「注文の多い料理店」だ。
話のあらすじを紹介したい。森に狩猟にやってきたイギリスのブルジョア青年2人は獲物を捕まえられない上、山が嵐の様相を呈してきた。やがて、山の案内人は姿を消し、連れていた猟犬は2匹とも泡を吹いて死んでしまったのだという。しかし、彼らは自分の置かれている危機的な立場を忘れ「2千4百円の損害だ」などと、金持ちの割にセコイ会話を繰り返す。山の雰囲気は益々、異様になっていき、急いで宿へ戻ろうとするものの案内人がいないので帰路が分からない。途方に暮れたときに青年たちは西洋風の一軒家「西洋料理店 山猫軒」を見つける。
2人はいそいそと店内へと入り、ある注意書きに気が付く。「当軒は注文の多い料理店ですからご承知ください」とあったが、お坊ちゃま育ちの2人は「流行っているから注文が多く手間取るのだ」と好意的に捉える。扉を開けると、そこには「髪をとかして、履物の泥を落とすこと」とあり、以後は扉を開けるごとに注意書きが現れる。「金属製のものを全て外すこと」や「衣服を脱ぐように」、やがて酢の匂いがする香水をかけさせられたり、と不思議な注文ばかり。最後には「壷の中の塩をもみ込んでください」とあり、2人はようやく自分たちが料理を食べる方ではなく、料理の素材として食べられる存在であることに気付く。
しかし、時すでに遅し。後戻りをしようと後ろの扉に向かうが、頑として開かない。恐る恐る前の扉のカギ穴を覗くとギラリと光る目玉が二つ。成す術のない2人は顔をくしゃくしゃにして泣くしかなかった。そのときだった。彼らの背後から扉を蹴破って、すでに死んだはずの2匹の犬が現れ、前の扉に向かって突進していくではないか。どうやら飼い犬たちは扉の向こうにいる“ばけ猫”と格闘しているようだ。しばらくするとレストランは建物ごと姿を消し、そこへ山の案内人が現れ、2人は無事都会へと帰っていった。しかし、くしゃくしゃになった顔だけは戻らなかったのだと言う。
さて、このお話、宮沢賢治は何を言いたかったのだろうか?
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