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  • スペシャル
  • 2015/06/22

「人間らしくしすぎない」Pepper開発者が打ち明ける、ロボット作りを成功させた逆転発想

感情認識ヒト型ロボット「Pepper」。2月に発売された開発者向け初回生産分は、申し込み開始から1分間で完売するほどの人気ぶりだった。そして6月20日、いよいよ一般販売が始まった。ロボットというだけならばすでにさほど珍しくもなくなった時代に、Pepperは熱い注目を浴び続けている。Pepperは他のロボットとどう違うのか? どんな発想によって成功させたのか? このプロジェクトで開発を率いる、Pepperの父親とも言うべき人物、ソフトバンク ロボティクスの 林 要 氏に話をうかがった。

(聞き手は編集部)

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ソフトバンク ロボティクス
林 要 氏

トヨタから、かつてフラれたソフトバンクへ

――まずは、ご経歴を教えて下さい。

林氏:実は私は、新卒採用でソフトバンクを受けて落ちました。1995年の当時、まだソフトバンクがどう化けるか分からない時代でしたが、孫会長の「凄み」に魅かれて入社を希望しました。とはいえ私の専攻は機械系で、当時は情報系の学部以外ではPCを持っている学生が圧倒的に少数派の時代。私もPCを持っておらず、ソフトのインストール経験を問われて、最終面接で落ちてしまいました。当時はソフトバンク以外の就職先を考えていなかったので結局、大学院に進み、空気の流れのコンピュータシミュレーションを研究し、卒業後にその研究が活かせるトヨタに入社しました。

 あるときトヨタで、4000万円クラスの超高級スポーツカーを作るプロジェクトが始まって、その担当が私に回って来ました。この仕事に、どっぷりハマりましたね。まだ社内で誰もやったことのない領域の研究と開発をすることが、私の性に合っていたようです。これが契機になり、空気力学(エアロダイナミクス)のエンジニアとしてF1チームに参加しました。そこではフロントウイング開発から始め、車両全体の開発に関わり成果を挙げることができました。

――F1チームで苦労されたことは何でしょう?

林氏:当初、英語がまるでダメだったんです。入社当時はTOEICが250点以下という能力で、コミュニケーション面で辛い思いをしました。明らかに相手が技術的に間違ったことを言っているのに説得できないんです。自分の不甲斐なさに悔しさが募って思わず人前で涙がポロッとこぼれ、自分でも驚きました。そんな思いを繰り返して徐々に、英語は身に着いて行きました。

――ソフトバンク入社のきっかけについて教えて下さい。

林氏:2011年に「ソフトバンクアカデミア」が開校されたことが大きな転機でした。F1で勝てなかったことをきっかけに、プロジェクトを率いるリーダーシップの方法論に興味が湧いて、愛知県から東京に通い始めました。これがキャラクターの濃い人たちが集まる場でして、それまで自分はそれなりに「尖った経歴」を歩んできたと自負していたのですが、むしろ保守的なほうだと思い知らされました。そんな人々と切磋琢磨しているうちに、ロボット事業に進出するから、ソフトバンクにプロジェクトのリーダーとして来ないか、とお誘いを受けたんです。2012年4月から、Pepperプロジェクトを率いることになりました。

――社風を、トヨタと比べてみるといかがですか?

林氏:ソフトバンクもトヨタも、何かやると決まれば、すごい推進力があります。私はトヨタで幸運にも、風変わりでチャレンジングな部分を担当させてもらいましたが、ソフトバンクは、全方位でチャレンジングな企業だと思います(笑)。違いと言えば、トヨタは、日本人の特徴的な才能をめいっぱい引き出しますね。すごく真面目で、重箱の隅をつつくような開発を最後までやりきれるのが特徴です。対してソフトバンクは、日本の規格外。平均的な日本人が苦手とするような部分を突破して、モノにしていく点が優れていると思います。その意味では全く違うポジションに立ちながらも、共に成果を出し続けられる企業だと感じます。

ソフトバンクがロボットを作る理由

――昨今のロボット業界の動向について教えて下さい。

林氏:過去に何度かロボットブームは来ましたが、今回は、少し事情が違うと思っています。技術者と一緒に投資家も盛り上がっていて、本格的に発展しそうな予感があります。大きな鍵は、AI(人工知能)です。過去のAI技術は、ロジックを作る人間の限界がそのままAIの限界でした。しかしコンピュータの進化に伴って、脳を模したニューラルネットワークなども実用的になってきた結果、AIに柔軟性が与えられ、さまざまな拡張が行えるようになってきています。

 人型ロボットには2つの強みがあり、人の身体機能を真似することで人の生活環境に適合できることと、人に対するAIの入出力インターフェイスとして適していること、に分けることができます。これらは互いに全く異なる目的と言えます。今までは「人のように階段が上れる」など前者の研究が脚光を浴びることが多かったように思います。それに対して後者は、AIを活用する際に重要となった領域で、いかに「人とのコミュニケーションを通じて情報を集め、処理し、出力するべきか」という新たな分野です。これがまさにPepperが属する所であり、孫会長にはたいへんな先見の明があったと言えます。

――それにしてもなぜ、ソフトバンクがロボット開発なのでしょう。

林氏:かつて孫会長は、CPUの拡大写真に感銘を受け、次世代はITの時代になると見通し、ソフトバンクを創業されました。Pepperも「ITで人を幸せにする」というビジョンの元に開発されています。ITで人を幸せにする方法と言えば、従来は作業効率化やコミュニケーションツールの提供でした。それがITの得意なことだったからです。しかし、人工知能などの新技術が登場し、人を幸せにするための次世代のIT機器として、孫会長はロボットに着目されたようです。2010年に発表した「ソフトバンク 新30年ビジョン」では社員からの提案もあり、AIとロボットへの言及が既になされています。

――Pepperプロジェクトの狙いを、より詳しく教えて下さい。

林氏:Pepperで、人の生活を少しでも明るくしたい。それがロボット事業の第一ステップとしての、Pepperの狙いです。ドラム式全自動洗濯機は、生活を豊かにしてくれますが、「愛でる」ものとは違いますよね。Pepperは今までのITによる効率化とは異なる方法で、人を幸せにすることにチャレンジしています。

 Pepperの開発においても、仕事の効率化という面での要望は出ました。しかしそれは、過去に諸先輩方が人型ロボットで挑戦し、なかなかモノにならなかったことです。実際にPepperでもなかなか難しい分野でした。ならば現時点ではあれもこれもと追わずに原点に立ち返り、どれだけ人を幸せにできるのかという視点で、従来の人型ロボット開発とは少し作り方を変え、ロボット開発未経験の人々のアイデアも取り入れて開発をしてきました。

【次ページ】 ロボット開発の閃きは演劇学校で

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