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  • 2016/02/24 掲載

「孫子の兵法」の重要フレームワーク 「五事七計」は「平時」と「戦時」で使い分けろ!

ビジネス書には載っていない「孫子の兵法」の真実(中編)

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ビジネスで使えるフレームワークには、通常モレやダブリはあってはならない。にもかかわらず、孫子の兵法における重要フレームワーク「五事」と「七計」は、それぞれに重複した内容が含まれているように見える。今回は「五事=平時も含めた自国の統治の要諦」、「七計=戦地において、勝敗を決する要因分析」という区別をつけて考えることで、この疑問は解消されるのである。
前編はこちら
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ビジネス書には載っていない「孫子の兵法」の真実とは

「戦争の大筋を把握するための五大要素」である「五事」

 孫武は、「これを経(はか)るに五事をもってし、これを校(くら)ぶるに計をもってして」と書いた時、どんなつもりで、何が言いたかったのだろうか?

 まず、「経」の意味はどうとらえたらよいのだろうか。現在出版されている訳書によってもこの部分の読みには様々なパターンがあり、「はかる」と読んでいたり、「けいする」と読んでいたり、見解は一致していないようである。それもそのはず、「経する」では、現代感覚ではどうにもピンと来ない。

 辞書を紐解くと、「経」の字は織物をつくるときの縦糸の意味で、転じて「経緯」すなわち南北の方向を意味し、さらに転化した結果「経営」、「経国」といった、「ものごとの大筋をたてて処理する」といった意味を有するようになったそうである。

 それを踏まえると、「戦争というものを考えるにあたって、その大筋を把握するためには道、天、地、将、法の五つの要素でもって考えよ」ということになり、ようやく腑に落ちる。

 ここで、前編で挙げた最初の謎に関して、一歩を進めたい。

 すなわち、なぜここに、「主」、「兵衆」、「士卒」は含まれないのだろうか?ということだ。「戦争というものを考えるにあたって、その大筋を把握するため」である。これらも負けず劣らず、極めて重要な要素ではないか。

 これまでの情報では、それに対する回答は得られそうもない。とすると、「経」するときにはそれは不要で、「校」するときでは必要なのだ、と考える以外にない。というわけで、次節で、「これを校ぶるに計をもってして」の検討に入る。

 ゆえにこれを校ぶるに計をもってして、その情を索む。曰く、主いずれか有道なる、将いずれか有能なる、天地いずれか得たる、法令いずれか行なわる、兵衆いずれか強き、士卒いずれか練いたる、賞罰いずれか明らかなると。われこれをもって勝負を知る。

(計篇)

 「校」とはなにかというと、つくりの「交=まじわる」に着目するとわかりやすく、読んで字のごとしで、二つの棒が交わった様を意味している。ここから転じて、「校閲」「校正」といった熟語にあるように、「比較する」ということを意味するようになったそうである。これと対になる「計」とは、「多くの物事や数を一本に集めて、その多少や出入りを調べ、考える」という意味である。

 以上を踏まえると、「これを校(くら)ぶるに計をもってして」は、「戦争というものを考えるにあたって、多くの物事や数を一本に集めて考え、比較をせよ」ということを意味している、ということになる。では何を比較するのか? もちろんそれは自軍と敵軍の比較であろう。改めて整理すると次のようになる。

・戦争の大筋を把握する際は、「道、天、地、将、法」の「五事」で考える

・自軍と敵軍を比較する際は、「主、将、天地、法令、兵衆、士卒、賞罰」の「七計」で考える

 こうして考えてくると、前者と後者では、登場する文字は共通しているが、指し示すことの内実が、実は、大きく違うということに気付かされる。「自軍と敵軍を比較する際は、主、将、天地、法令、兵衆、士卒、賞罰で考える」と発するときに意識しているのは、「具体的な戦場」という感じがしないだろうか?

 それと比べて、「戦争の大筋を把握する際は、道、天、地、将、法の五つの要素で考える」とする対象は、戦時とは限らない。むしろ平時のときから自国の統治をするなかで意識すべき要点、という感じがする。そう考えると、この「五事七計」が一見雑に思われる部分が、次々と氷解していくのである。

【次ページ】「五事」と「七計」はどのように使い分けるべきか?
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