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  • 2016/07/20 掲載

対談:IoTは「データをより多く集める」ための戦いだ

GEデジタル 新野 昭夫 氏xアクセンチュア 清水 新 氏

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デジタル化によって、製品の「利用」を起点に価値を生むというのが「インダストリー4.0」や「インダストリアル・インターネット」の本質だ。それは、あらゆる企業にとって、「モノ発想」から「アウトカム(成果)発想」への転換が急務であることを意味する。前編に続き、後編では、GEデジタル インダストリアル・インターネット推進本部長の新野 昭夫 氏と、アクセンチュア 執行役員 戦略コンサルティング本部 統括本部長の清水 新 氏に、インダストリー4.0、インダストリアル・インターネットがもたらす未来や、日本企業がどのように戦っていくべきかについて伺った(聞き手はフロンティアワン 代表取締役 鍋野 敬一郎氏とビジネス+IT 編集部 松尾慎司)。
前編はこちら

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GEデジタル インダストリアル・インターネット推進本部長 新野 昭夫 氏(右)と
アクセンチュア 執行役員 戦略コンサルティング本部 統括本部長 清水 新 氏

現場力、すなわちホワイトとブルーが融合した「水色ワーカー」が日本独自の強み

──「アウトカムプロバイダーへの転身」について詳しく聞かせてください。既存の技術の「積み重ねの発想」ではなかなか難しいと思いますが、このあたりをどう見ますか。

清水氏:これまで、製品の機能や性能、品質を売ってきたGEが、今までの価値観を変えて、アウトカムに事業のポジショニングを変えようとしています。産みの苦しみもありますが、カルチャーも考え方も行動も変えようと実践しているところがGEのすごさだと言えます。取り組みを始めている日本企業もありますが、ここから先は行動の「スピード感」がものを言います。

──マニュファクチャリングの改善では、日本にも独自の強みがあります。日本ならではの強みを生かす方法はないのでしょうか?

清水氏:たとえば、海外ではホワイトカラーとブルーカラーの職能が明確に分かれていますが、日本の「カイゼン」は、データを見ながら、現場がその場で改善しています。これはいわば、ホワイトとブルーの部分が融合した「水色」で勝負してきたと言えます。

 需要から生産までのプロセスがEnd to Endでつながって、製品を利用する側にプロフィットが移っていく中で、「水色ワーカー」が製造業の変革を主導していくことに注目すべきです。そこが日本の勝つチャンスです。

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──海外を追随するのではなく、日本独自の強み、価値を生かす産業革命のアプローチがあるということですか。

清水氏:どこが独自かを見極めることは重要ですが、最終的にはデータを持ち得た者が勝ちます。つまり、インダストリー4.0やインダストリアル・インターネットは、データからインサイトを得て、価値を作るために、「データをより多く集める」ための戦いとも言えるでしょう。データを集めるプラットフォームは、必ずしも自前である必要はなく、オープンなプラットフォームを活用して、スピーディに価値を生み出すことが重要です。

新野氏:GEは、クラウドベースのプラットフォーム「Predix(プレディクス)」を提供していますが、最初から、ハードウェアをネットワーク化するためのプラットフォームという構想があったわけではありません。

 最初は、単純に自社のハードウェアを売るための仕組みと考えていました。そのうちに、自社の製品でなくても使える産業界に特化したクラウドベースのシステムとして提供したほうが価値を生み出せるのではないかと、コンセプトを固めていったのです。

──GEは、オープンの重要さ、オープンであることが競争力を生むことにいつ頃から気づいたのですか。

新野氏:世の中に必要とされるものは、何かが起点となっています。GEも、以前はすべてを自前主義で作る思想がありました。それが20~30年くらい前から、だんだん自前主義の限界を感じ始め、研究所をドイツやインド、中国などの海外に設立し、グローバルの技術を集め、日本企業の技術も継続的にウォッチしながら「オープンイノベーション」にシフトしてきました。

オープンイノベーションにはポジショニングが欠かせない

──さまざまな分野から、独自の強みを持ったプレーヤーが参入してきました。また、トヨタがテスラやUberに出資するなど、競合関係も複雑化しています。こうした構図をどう見ますか。

清水氏:どこに「プロフィット・プール(利益の塊)」があるのかに着目すると理解しやすいでしょう。たとえば、自動車であれば、従来は車を販売して、保守点検するくらいしか、企業とお客さまとの接点がありませんでした。それが、Uberの登場によって、デジタルデバイスを持つユーザーに「移動というアウトカム」が提供されるようになりました。

 アウトカムの時代には、今までと見ている“ものさし”を変える必要があります。競合がだれかという構図は、今後さらに複雑化していきますが、お客さまを獲得していく競争の中で、モノづくりのプレーヤーもいれば、デジタル技術を持った異業種が参入してくることも、自然な成り行きです。

──オープンイノベーションといったときに、技術提携やM&Aなど、さまざまな選択肢があります。マーケットのエリアは広がり、「プロフィット・プール」の範囲、定義も難しくなるのではないでしょうか。

清水氏:お客さまにどんな価値をもたらすか、そこで一番大事なのは、事業にキャッシュを生み続けるためのケイパビリティ(Capability:能力)の確保です。ケイパビリティの獲得には3つの手段しかありません。

(1)Buy(買う)
(2)Build(作る)
(3)Borrow(借りる)

 買収はその1つの手段ですが、一概に買えばいいかと言うとそうではありません。買収したものの、自社のカルチャーにまったく合わなかったというケースもあるからです。「自分たちが何屋を目指しているのか」というポジショニングによって選択肢が変わってくるのではないでしょうか。

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──「お客さまにとって何が価値になるか」というのと「自分たちが何屋になるのか」というのは、似ているようで違います。ポジショニングを規定する難しさはないのですか。

新野氏:GEの取り組みで言えば、採算を上げるためにIoTやICTをどう活用していくかというテーマがあり、そのために我々の独自資源は何で、お客さまの課題はどこにあるのかというのを、お客さまと一緒に考える取り組みを行っています。

 自分たちの課題がわかっているお客さまもいれば、わかっていないお客さまもいます。また、課題と認識していることが本質的な課題ではないかもしれません。強みや課題はお客さまごとに違いますし、同じお客さまでも工場ごと、ラインごとに異なります。

 そこで、サービスデザインのようなワークショップをGEがファシリテーターとなって行っています。具体的には、UXデザイナーを動員して、デザイン思考のような手法でお客さまの本質的な課題を抽出します。

 そして、それを解決するために何ができるかを考えます。「データサイエンティストが、今、取っているデータはこれで、こういうデータが取れればこんなことができる」というのを提案し、その場合の費用対効果を提示します。ワークショップによる課題抽出からプロトタイプ作りまで、3~4カ月くらいかけて実施します。

【次ページ】デジタル時代にビジネスを成功に導く「7つの必要条件」とは

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