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  • 2017/04/13 掲載

農協の自主改革案が「アリバイ作り」といわれるワケ 今後コメの流通はどう変わるのか

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長年の懸案事項であった農協改革がいよいよい動き出した。農作物の販売合理化策を中心とした改革プランが提示され、場合によってはコメを中心に既存の流通システムが大きく変化する可能性が出てきた。一方で、今回提示された改革プランは、農協が持つ利権を維持するためのアリバイ作りに過ぎないという手厳しい意見もある。農協改革に伴うコメのサプライ・チェーンへの影響について探った。

執筆:経済評論家 加谷珪一

執筆:経済評論家 加谷珪一

加谷珪一(かや・けいいち) 経済評論家 1969年宮城県仙台市生まれ。東北大学工学部原子核工学科卒業後、日経BP社に記者として入社。 野村證券グループの投資ファンド運用会社に転じ、企業評価や投資業務を担当。独立後は、中央省庁や政府系金融機関など対するコンサルティング業務に従事。現在は、経済、金融、ビジネス、ITなど多方面の分野で執筆活動を行っている。著書に『貧乏国ニッポン』(幻冬舎新書)、『億万長者への道は経済学に書いてある』(クロスメディア・パブリッシング)、『感じる経済学』(SBクリエイティブ)、『ポスト新産業革命』(CCCメディアハウス)、『新富裕層の研究-日本経済を変える新たな仕組み』(祥伝社新書)、『教養として身につけておきたい 戦争と経済の本質』(総合法令出版)などがある。

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農協改革は、将来の日本の食卓に大きな影響をおよぼす
(© kazoka303030 – Fotolia)


JA全農とはいかなる存在なのか

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 全国農業協同組合連合会(JA全農)は3月28日、コメの直販比率引き上げや中古農業機械の販売促進などを盛り込んだ改革案を発表した。

 JA全農は約650ある地域農協の全国組織で、農作物の集荷や販売を一手に担う実務組織となる。農家への農薬や農業機械などの販売も手がけ、その年間売上高は5兆円にものぼる。これまでJA全農は、農家から預かったコメを、多数の中間事業者を通じて委託販売していたが、これが非効率な流通システムの元凶といわれてきた。

 農協改革のあり方については、2015年に農林部会長に就任した小泉進次郎氏を中心に、政府与党内で何度も議論が行われ、改革の柱の一つとして流通システムの合理化が掲げられた。今回のプランは、これを受けてJA全農が自主的に打ち出したものである。

 コメの流通システム改革について解説する前に、農協の全体像についてざっと説明しておきたい。農協は戦後の日本社会において、政治的にはもちろん経済的にも極めて大きな影響力を行使してきたが、その実態はあまり知られていない。

 農業協同組合(農協:JA)は農業従事者や農業を営む法人によって組織された協同組合である。農協は、農業協同組合法に基づいて運営されており、農作物の集荷や販売といった事業支援に始まり、農家を対象とした預金や貸し付け、各種保険の提供など金融事業も手がけている(農作物の販売などを経済事業、預金・貸し付けなどは信用事業、保険は共済事業と称している)。

 農協組織の中核となるのは、各地域ごとに設立された地域農協であり、各地域農協を取りまとめる中央組織として全国農業協同組合中央会(JA全中)が存在している。

 また農産物の集荷や販売を一手に担うJA全農、生命保険や損害保険のサービスを提供する全国共済農業協同組合連合会(JA共済連)などの組織がある。JA全中は政治団体、JA全農は農業商社、JA共済連は主に農家を対象とした保険会社と考えればよいだろう。また農協の資金を運用する金融機関として農林中金がある。

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JAグループ組織図
(出典:JAグループホームページ、農林水産省【統合農協統計表】(2012年度)※統計JA数は、JA全中調べ)


 農協改革はあらゆる分野が議論の対象となっているが、今回、改革プランを発表したのは、農作物の流通を担うJA全農であり、主にコメの流通や農業機械の販売に関する分野が対象となっている。

なぜ農協改革が必要と言われるのか

 元来、農協は立場が弱い農家を保護する目的で設立されており、農協が農作物の集荷や販売を一手に担ってきたのも、大資本から農家を守るためであった。農協に農作物を収めていれば確実に代金が回収でき、企業から買い叩かれることもないので農家は安心して農作物を作ることができたのである。

 また1年に1回しか現金収入がない農家は、キャッシュ・フロー的に厳しい経営を強いられることも多い。このため農協を通じて農業機械を購入したり、そのためのローンについても農協が対応するなど、農家の経営について丸ごと面倒を見る存在だったといってよい。

 ところが農協の組織が肥大化するにつれて、徐々に農家と農協の立場が逆転するようになってきた。一部の農家は、農協はコメを安く買い叩き、一方で農機具などを高く売りつけるという印象を持つようになり、農協に対する反発を強めている。農作物の流通システムという点においても、農協が事実上の独占企業として存在している弊害が目立つようになってきた。

 一連の農協改革は、こうした状況にメスを入れ、流通システムを合理化するとともに、農家のために存在するという農協本来の姿に回帰することを意図したものである。

 現在、農家の自家消費を差し引いた米の年間生産量(2014年)は約680万トンとなっているが、このうち、約400万トンはJAグループを通じて出荷されており、それ以外の流通事業者分が70万トン、農家による直接販売が約210万トンとなっている。

 地域農協が全農を通さずに販売するものもあるが、JAが集めたコメのうち300万トンが全農系列で販売されている。このうち約220万トンは民間の卸事業者を通じて販売され、残りの80万トンは全農が直接、外食や小売に提供している。

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コメの流通システム

 1995年に食糧管理法(いわゆる食管法)が廃止されるまでコメは政府による全量管理が基本であり、卸業者と小売業者も許可制だった。現在の食糧法では流通規制はすべて撤廃され、新規参入が可能となっているが、従来型の商慣行が色濃く残っている。このため多数の卸業者が混在する複雑な流通システムとなっている。

【次ページ】改革によりもっとも大きな影響を受けるのはどこか?

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