• 会員限定
  • 2020/01/14 掲載

まさにインターネット・オブ・アニマル、「豚にも顔認証」の時代がやってきた

連載:中国イノベーション事情

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
中国は世界最大の豚肉生産国だ。しかし養豚業は近代化が追いついておらず、生産性は悪いうえに、感染症にも弱い。特にアフリカ豚コレラの流行で、中国の養豚業は危機に陥っている。この現状を変えようとしているのが、アリクラウド、京東農牧、網易などのテック企業のトッププレーヤーたちだ。「豚の顔認識技術」の開発を手始めに、豚舎にセンサー類を設置し、バイタル、行動などのデータを取り、これを機械学習させて健康や肉質を管理する試みを進めている。まさに、IoA(Internet of Animals)やAI養豚とも言うべき仕組みの構築を始めているのだ。

執筆:ITジャーナリスト 牧野武文

執筆:ITジャーナリスト 牧野武文

消費者ビジネスの視点でIT技術を論じる記事を各種メディアに発表。近年は中国のIT技術に注目をしている。著書に『Googleの正体』(マイコミ新書)、『任天堂ノスタルジー』(角川新書)など。

画像
豚の顔認証とは?
(Photo/Getty Images)

中国は豚の飼育頭数が世界一

 中国は豚王国だ。国連食糧農業機関(FAO)の2017年国際比較統計によると、中国での豚の飼育頭数は約4.3億頭で世界一。2位の米国は約7300万頭なので、6倍近い差がある。日本の飼育頭数は約930万頭で、中国は日本の50倍弱になる。いくら人口が多いとはいえ、豚王国といって良いだろう。

画像
中国人は豚肉が大好きだ。4億頭以上もの豚が飼育されている。しかし、零細農家による養豚が多く、近代化は立ち遅れている
(出典:国連食糧農業機関(FAO)、2017年国際比較統計)

 その中国の養豚業が、アフリカ豚コレラのアウトブレイクにより、危機にひんしている。中国の報道によると、飼育頭数が4割も減少したという。

 中国の養豚業が感染症などに脆(もろ)いのは、養豚業そのものが立ち遅れて、昔のままの養豚が今でも行われているからだ。養豚業者は約4600万戸もあるので、単純計算をすると、1戸あたりの飼育頭数は10頭未満ということになる。中国農業部の統計でも、年間出荷頭数が50頭未満の生産者が、全体の94.6%にもなる。

 つまり、養豚業者というよりも、ごく普通の農家が廃棄食品などを利用して豚を飼育、自家消費をし、余った分を市場に出荷しているというのが実情だ。

 ある程度の頭数を飼育し養豚業をなりわいにしている場合でも、豚舎の近代化が遅れており、作業は「きつい、汚い、危険」の3K労働となるため、跡を継ぎたい若者がいない。養豚業の将来に希望が持てないため、将来への投資にも積極的になれないという悪循環に陥っている。アフリカ豚コレラの影響で、廃業してしまう養豚業者が増えるのではないかと懸念されている。


豚の顔認証技術、まさにインターネット・オブ・アニマル?

 あらゆる面で急速に成長、発展した中国で、養豚業はエアポケットに入ったままになっていた。一方で、この養豚業の現状をテクノロジーで変えようとする動きが始まっている。

 1つは、豚の顔認証による個体識別だ。この技術開発には、アリクラウド(アリババ系)、京東農牧(第2位のECサイト「京東」系)、網易(エンターテインメント総合企業)などIT業界のトッププレーヤーが参入し、開発競争になっている。

 さらに、豚の顔認証技術などをきっかけに、飼育管理に機械学習を中心としたクラウド型人工知能を応用し、一気に養豚業を効率化させようという動きもある。まさに、IoA(Internet of Animals)とでも言うべきテクノロジーが生まれつつある。

 中国国務院は、2020年から、死亡した豚の完全無害化処理を義務付ける方針を打ち出した。感染症に脆(もろ)い養豚業を変えるためだ。ところが、無害化処理には資金が必要で、小規模農家ではその負担が大きすぎる。そのままでは無害化処理がおざなりになるか、登録をしない“隠れ養豚”が横行する懸念もある。

 そこで、養豚保険制度が整備された。農家はわずかな掛け金を支払うだけで、無害化処理の費用を保険で補償され、補償金の8割は政府が補助をするというものだ。ところがこの保険制度がうまく機能していない。すでに養豚保険を扱う保険会社全体で、16億元(約250億円)の赤字が累積している。このままでは、義務化が始まるまでに、保険制度そのものが破綻をしかねない状況になっている。

【次ページ】「豚の顔認証技術」で養豚保険会社の赤字が解決する? “顔”の次は“お尻”?

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます