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中国は世界最大の豚肉生産国だ。しかし養豚業は近代化が追いついておらず、生産性は悪いうえに、感染症にも弱い。特にアフリカ豚コレラの流行で、中国の養豚業は危機に陥っている。この現状を変えようとしているのが、アリクラウド、京東農牧、網易などのテック企業のトッププレーヤーたちだ。「豚の顔認識技術」の開発を手始めに、豚舎にセンサー類を設置し、バイタル、行動などのデータを取り、これを機械学習させて健康や肉質を管理する試みを進めている。まさに、IoA(Internet of Animals)やAI養豚とも言うべき仕組みの構築を始めているのだ。
中国は豚の飼育頭数が世界一
中国は豚王国だ。国連食糧農業機関(FAO)の2017年国際比較統計によると、中国での豚の飼育頭数は約4.3億頭で世界一。2位の米国は約7300万頭なので、6倍近い差がある。日本の飼育頭数は約930万頭で、中国は日本の50倍弱になる。いくら人口が多いとはいえ、豚王国といって良いだろう。
その中国の養豚業が、アフリカ豚コレラのアウトブレイクにより、危機にひんしている。中国の報道によると、飼育頭数が4割も減少したという。
中国の養豚業が感染症などに脆(もろ)いのは、養豚業そのものが立ち遅れて、昔のままの養豚が今でも行われているからだ。養豚業者は約4600万戸もあるので、単純計算をすると、1戸あたりの飼育頭数は10頭未満ということになる。中国農業部の統計でも、年間出荷頭数が50頭未満の生産者が、全体の94.6%にもなる。
つまり、養豚業者というよりも、ごく普通の農家が廃棄食品などを利用して豚を飼育、自家消費をし、余った分を市場に出荷しているというのが実情だ。
ある程度の頭数を飼育し養豚業をなりわいにしている場合でも、豚舎の近代化が遅れており、作業は「きつい、汚い、危険」の3K労働となるため、跡を継ぎたい若者がいない。養豚業の将来に希望が持てないため、将来への投資にも積極的になれないという悪循環に陥っている。アフリカ豚コレラの影響で、廃業してしまう養豚業者が増えるのではないかと懸念されている。
豚の顔認証技術、まさにインターネット・オブ・アニマル?
あらゆる面で急速に成長、発展した中国で、養豚業はエアポケットに入ったままになっていた。一方で、この養豚業の現状をテクノロジーで変えようとする動きが始まっている。
1つは、豚の顔認証による個体識別だ。この技術開発には、アリクラウド(アリババ系)、京東農牧(第2位のECサイト「京東」系)、網易(エンターテインメント総合企業)などIT業界のトッププレーヤーが参入し、開発競争になっている。
さらに、豚の顔認証技術などをきっかけに、飼育管理に機械学習を中心としたクラウド型人工知能を応用し、一気に養豚業を効率化させようという動きもある。まさに、IoA(Internet of Animals)とでも言うべきテクノロジーが生まれつつある。
中国国務院は、2020年から、死亡した豚の完全無害化処理を義務付ける方針を打ち出した。感染症に脆(もろ)い養豚業を変えるためだ。ところが、無害化処理には資金が必要で、小規模農家ではその負担が大きすぎる。そのままでは無害化処理がおざなりになるか、登録をしない“隠れ養豚”が横行する懸念もある。
そこで、養豚保険制度が整備された。農家はわずかな掛け金を支払うだけで、無害化処理の費用を保険で補償され、補償金の8割は政府が補助をするというものだ。ところがこの保険制度がうまく機能していない。すでに養豚保険を扱う保険会社全体で、16億元(約250億円)の赤字が累積している。このままでは、義務化が始まるまでに、保険制度そのものが破綻をしかねない状況になっている。
【次ページ】「豚の顔認証技術」で養豚保険会社の赤字が解決する? “顔”の次は“お尻”?
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