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  • 2017/07/26 掲載

電子決済や自転車シェア、中国はなぜ猛スピードで進化できているのか

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巨大な市場と労働力を抱えた中国パワーは、ここ数年、特に目を見張るものがある。中国のスゴさは何といっても改善スピードの速さだ。「中国では最初から完璧なものを作ろうとしていない。サービスを短時間でリリースし、その後に顧客の声を聞いて、改善の方向を決めている。これが中国のやり方だ」と語るのは、クララオンラインの家本賢太郎氏だ。中国のネット事情やコンテンツ市場に明るい家本氏は、現地体験を交えた中国の最新事情について報告した。
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日本インターネットプロバイダー協会クラウド部会 副部会長
兼 クララオンライン 代表取締役社長
家本 賢太郎 氏

日本のくまモンや映画も大人気! 中国コンテンツビジネスの最新情報

 家本氏といえば、1997年に若干15歳という若さでクララオンラインを創業したことで有名になった人物だ。創業して十数年は、サーバ・ホスティングサービスを中心に事業を展開していた。

 2004年から台湾を皮切りに海外進出に挑戦するも、最初はうまくいかずに、一度撤退することになった。「中国の大地に汗と涙と血を流しました」(家本氏)と語るほどの憂き目にあったそうだ。

 現在は、これまでのノウハウをベースに、海外進出を狙う日系企業や、逆に日本進出を目指す海外企業へのコンサルティング、およびエージェントなどの業務に注力している。特にゲームやデジタルコンテンツを扱う企業サポートに的を絞った事業を展開中だ。現在は、年に30回ほど北京オフィスを往来しており、中国市場にも非常に明るい。

 先ごろ開催された「JAIPA Cloud Conference 2017」に登壇した家本氏は「いま中国市場はすごい速さで変化しています。クラウドやデータセンター上で展開されるサービスのスピードや、その投資への意識には目を見張るものがあります。2012年に尖閣問題が起きて、数年間、中国と日本の経済活動には断絶がありましたが、その間に中国のインターネットやコンテンツ市場は急激に伸びました」と説明する。

 家本氏は、インターネットやコンテンツに関するこの半年間の中国最新事情について紹介した。たとえば、コンテンツ関連の明るい話題としては、熊本県のゆるキャラ「くまモン」の人気ぶりを紹介した。上海や広州などの南部で大流行し、くまモンをモチーフにしたオシャレなカフェスペースは常に満員状態だという。

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上海の中心地、新天地エリアにオープンしたオシャレなカフェスペース。
「くまモン」をモチーフにして大人気という

 その一方で、少しキナ臭い話もある。アップルが昨年末に突然、ニューヨークタイムズの中国語版アプリを削除したのだ。

「App Storeは中国内のサービスでなく、ネットを通じて配信される海外サービスという建付けです。そのため同社は中国内にプラットフォームビジネスのライセンスを持たないため、中国当局の要請を受けてサイトから初めて削除したのです。また、今年に入って中国向けの配信ポリシーが変更され、ゲーム配信で国内レギュレーションを守るように通達が出されました」(家本氏)

 中国の映画市場の伸びも著しい。2016年の輸入映画の興行収入は190億元(約3040億円)の規模に成長しており、もうすぐ米国市場を抜く勢いだ。中国では全体の約4割が輸入映画だが、じつは国別の枠があり、日本映画は年間で数本程度に抑えられていた。ところが昨年は「ドラえもん」や「君の名は」など、日本映画が10本も上映された。

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伸びる中国の映画市場。2016年の輸入映画の興行収入は190億元(約3040億円)規模で、国産と輸入映画の比率はあまり変わらないという

「これは日本にとって大きなビジネスチャンスです。ただし、まだ中国は版権については違法地帯で、理解していない人も多いのが実態です。しかし、違法者をたたくより、正規ライセンスを取る企業を決め、彼らが違法者を駆逐してくれる方向に持っていくほうがよいという見方もあります。最近では“深夜食堂”など、日本原作のリメイク作品も増えています。輸入手続きも簡便なため、これからはリメイク版もかなり増えてくるでしょう」(家本氏)。

最先端スーパーや自転車シェアリングサービスも隆盛

 中国ネットビジネスの動向で注目したいのは、アリババが小売スーパーを買収したことだろう。スマホなどのアプリケーションから生鮮食品のオーダーが入ると、その商品が店舗上部にあるレールに流れて荷捌き場に送られる。そこには配送バイクが待機していて、適切な配送順を考えながら商品が配達される仕組みだ。

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アリババが買収したスーパー。オーダーが入ると、商品が店舗上部のレールに流れて荷捌き場に送られ、すぐに配送される

「もちろんスーパー内でモノも買えますが、すでに中国は日本よりはるかに進んだ電子経済圏になっており、現金決済にはほとんど対応していません。現金で支払おうとすると、特別な処理をしなければならなず、店員によっては嫌な顔をされます」(家本氏)

 ネットビジネスのもう1つのトピックは、中国に自転車文化が再来していることだ。しかし、これらは昔ながらの自転車ではない。最新スマホ決済を導入し、乗り捨て自由なシェアリングサービスの台頭である。このサービスは昨年夏以降に急速に普及し始め、中国全土に広がっている。各都市で1000万単位での利用があるそうだ。料金も30分/1時間単位で0.5元/1元(16円)とリーズナブルだ。

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スマホ決済を活用した乗り捨て自由な自転車シェアリングサービスも台頭

「自転車シェアリングサービスとしては、最大手の“Mobike”と2番手の“ofo”が有名です。Mobikeでは、自転車とシステムが通信を行い、開錠も自動化されています。面白いのは、すべての走行データがトラッキングされていることです。最終的には、これらのデータも活用されるでしょう」(家本氏)。

 たとえば、トラッキングのデータを使って、時間帯ごとに自転車を再配置することが可能だ。朝は駅に自転車を乗り捨てるが、夕方は需要がありそうな別の場所に置くといった仕組みも実現できるわけだ。

 中国パワーのすごさは、何といっても改善のスピードが速いことだろう。自転車本体をとっても、タイヤがパンクすればチューブレスにしたり、ダイヤル式のカギをプッシュ式に変更したり、カゴをすべての自転車に追加したりと、矢継ぎ早に改善が行われる。

「中国では最初から完璧なものを作ろうとは考えません。あとから改善すればよいという考え方です。質は定量化できません。定量化できるのは顧客数と売上のみです。したがって、質は気にしていません。むしろサービスは短時間でリリースすべきものと考え、その後で顧客の声を聞き、改善の方向を決めています。これが中国のやり方です」(家本氏)。

 ちなみに、つい最近になって1番手のMobikeはテンセントなどから6億ドル(約667億円)、また2番手のofoはアリババから7億ドル(約778億円)の出資を受けている。

 家本氏は「中国ではスタートアップに対し数百億円という単位で資金が集まります。一方、日本はスタートアップが数億円を集めるのにも苦しんでいる状況です。隣国で大きな資金がスタートアップに回っていることを、ぜひ皆さんにも一度考えてもらいたいと思います」と訴えた。

【次ページ】中国の新サービスを支える巨大IT基盤とは?

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