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  • 2017/08/10 掲載

「業務の5割が奪われる」まで20年、雇用がすぐに変わらない4つの理由 篠崎彰彦教授のインフォメーション・エコノミー(89)

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前回は「マッキンゼー報告」をもとに労働市場の現状をグローバルな視点で概観した。これを受けて今回は、自動化による雇用への影響について、どのような時間軸でどの程度の影響が出ると予想されているか、世界46カ国を対象に2,000以上の職業を分析した同報告をさらに読み解いていこう。

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

執筆:九州大学大学院 経済学研究院 教授 篠崎彰彦

九州大学大学院 経済学研究院 教授
九州大学経済学部卒業。九州大学博士(経済学)
1984年日本開発銀行入行。ニューヨーク駐在員、国際部調査役等を経て、1999年九州大学助教授、2004年教授就任。この間、経済企画庁調査局、ハーバード大学イェンチン研究所にて情報経済や企業投資分析に従事。情報化に関する審議会などの委員も数多く務めている。
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インフォメーション・エコノミー: 情報化する経済社会の全体像
・著者:篠崎 彰彦
・定価:2,600円 (税抜)
・ページ数: 285ページ
・出版社: エヌティティ出版
・ISBN:978-4757123335
・発売日:2014年3月25日

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「自動化」は雇用にどのような影響を及ぼすのか
(© Monet – Fotolia)


完全自動化が可能な職務は5%以下

 技術体系の転換期には、それまで当たり前だった仕事が不要になるのは避けようがない。産業革命以来、技術革新は絶え間なく雇用のあり方(=働き方)を変えてきた。現在の問題は、そのスピードが比類なく加速していることだ。しかも、多目的技術のITは影響が広範囲に及ぶため、さまざまな領域で「技術との競争」が生まれ、雇用が奪われるとの懸念が根強いのだ。

 だが、過剰な悲観的は必要ないのかもしれない。マッキンゼーが、2,000以上の職業について、世界46カ国を対象に「自動化」の可能性を調査した結果によると(McKinsey Global Institute [2017])、現在示されている技術で「完全自動化」が可能な職業は、わずか5%未満に過ぎないという(Manyika [2017])。

 もちろん、完全ではないにしろ、部分的には自動化が進むという意味では、ほぼすべての職種に影響が生まれると指摘されている。だが、一部の議論でみられるように、「全てが一気に置き換わってしまう」とやみくもに不安がるのは、極端な反応といえそうだ。

業務の5割が自動化されるまでに20年

 重要なのは、完全ではないにしろ、部分的に自動化が迫られるのはほぼすべての領域であり、これまで技術との競争には無縁と思われていた職業にも及ぶ点だ。

 同報告によると、その影響は、工場労働者や事務職員のみならず、庭師、歯科技師、ファッション・デザイナー、保険営業員からCEOにまで至る。Manyika (2017)では、少なくとも業務の3割が自動化される職業は、全体の6割の達すると結論付けられている。仕事の大半が、何らかの形で「技術との協業」を迫られるわけだ。

 高い技能をもつ人材は「技術との協業」で利益を得ることができよう。他方で、低い技能しかない人材は厳しい状況に直面すると考えられる。なぜなら、自動化が進んで誰もが対応できるようになる結果、その手の仕事は労働需給が緩んで賃金の低下圧力が高まるからだ。

 これをグローバルに分析すると、世界全体で12億人の労働者が稼ぎ出す14.6兆ドルの総賃金に相当する職業で影響が出ると試算されている。ただし、業務の5割が自動化されるまでには、少なくとも20年はかかるというのが、その背景にあるシナリオだ。決して、「すべて」が「一気に」という話ではない。

 20年という時間軸は、今年生まれた子供が成人になる頃だ。その意味では、次世代を見据えた教育の重要性が改めて問われそうだ。同時に、これは、雇用の「大部分が高い確率で消滅する」という他の衝撃的な試算に比べるとはるかに穏やかな見通しともいえるだろう。

【次ページ】直ちに「自動化」が実現しない4つの理由

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