• 会員限定
  • 2017/03/27 掲載

オライリー氏が望む「人」と「コンピュータ」の関係 今後“労働”はどうなるか

  • icon-mail
  • icon-print
  • icon-hatena
  • icon-line
  • icon-close-snsbtns
記事をお気に入りリストに登録することができます。
「インターネットは、デジタルとモノを融合させた。21世紀の“労働”とは、これまでの労働とは意味が異なるだろう。その時、ヒトはどのような役割を担うのか」――こう語るのは、オライリーメディアの創立者で、フリーソフトウェアとオープンソース運動の支援者であるティム・オライリー氏だ。オライリー氏は、米国やインターネット先進国が抱える課題を紹介しつつ、インターネットの進化が人々の生活にどのような影響を与えるのか、労働者の働き方をどのように変革していくのか、さらにIoT(Internet of Things)やAI(人工知能)の台頭で「人」と「コンピュータ」の関係はどう変わっていくのかについて力説した。

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト 鈴木 恭子

ITジャーナリスト。明治学院大学国際学部卒業後、週刊誌記者などを経て、2001年よりIT専門出版社に入社。「Windows Server World」「Computerworld」編集部にてエンタープライズITに関する取材/執筆に携わる。2013年6月に独立し、ITジャーナリストとして始動。専門分野はセキュリティとビッグデータ。

photo
オライリーメディアの創立者で、フリーソフトウェアとオープンソース運動の支援者であるティム・オライリー(Tim O'Reilly)氏

自動化で47%の仕事が消滅する?

 オライリー氏は、ベトナムのホーチミン市において開催されたインターネットに関する国際フォーラム「APRICOT 2017」(2017年2月20日~3月2日開催)の基調講演に登壇した。冒頭、オライリー氏は技術やインターネットの進化で、自身の生活がどのように変化したのかを切り出した。

photo
ベトナムのホーチミン市の「シェラトン サイゴン ホテル&タワーズで開催された「APRICOT 2017」。約50か国から600人以上が参加した

「飛行機のスケジュール確認やタクシーの手配を考えてほしい。数年前は電話やパソコンを使っていた。しかし、今はキッチンにある音声認識デバイス(Amazon Echo)に話しかけるだけだ。こんな未来を想像していただろうか」(オライリー氏)。

 IT技術の進化により、人々の暮らしは劇的に変化している。特にインターネットの普及やIoT(Internet of Things)の台頭で、人と人、人とモノのコミュニケーションはこれまでになかった方法で行われるようになった。

「私が初めてインターネットに接した頃、(インターネットは)単なるテキスト・コミュニケーションツールだった。しかし、今では社会基盤を支える重要インフラになっている」(オライリー氏)

 さらに注目されているのは、産業構造の変革を後押しするインターネットの役割だ。洋服の仕立てや作物の種まきなど、20世紀初頭には人が作業していた仕事は、ほぼ自動化された。そして今後は、自動運転技術やドローンの進化など、あらゆるモノがインターネットに接続されることで、運送や物流の領域でも自動化が進むと予想されている。

 ただし、こうした状況に警鐘を鳴らす専門家も少なくない。オライリー氏は、オックスフォード大学教授であるカール フレイ氏とマイケル オズボーン氏が「現在の仕事の47%は、今後20年間で自動化される“リスク”がある」と指摘していることを紹介した。

「IT化による生産性の追求で、人件費は『排除すべきコスト』と見なされるようになった。製造現場での自動化によって、ブルーワーカーの仕事は、ロボットが取って代わった。さらにAIの登場により、ホワイトカラーも仕事を失いつつある。グローバルエコノミーの中でわれわれは、技術が目指すゴールは、生産性を最大化することだと考えていた。しかし、この考えは間違っている。(中略)インターネットなどの技術で、人間の労働が奪われないよう、技術の“使い方”を考える必要がある」(オライリー氏)

デジタルワーカーは「労働者」というよりコンピュータの「監督者」

 オライリー氏は現在の産業構造の変化を、「第一次産業や製造業などの労働者が中心の経済から、デジタルワーカーが中心の経済となっている。そしてそこで生み出されるモノも、大きく変化している」と語る。たとえば、グーグルやフェイスブック、アマゾンといった企業は何万人もの雇用を創出しているが、彼らが生産しているのは、物理的な“製品”ではなく、ソフトウェアやサービスだ。

 デジタルワーカーの仕事は、ビッグデータ分析やWebサービスの開発、新たなデジタル・プラットフォームの構築など、ソフトウェアのプログラミングやアルゴリズムの開発が中心だ。そして、それらを駆使することで、これまで存在しなかったサービスを提供している。

 特徴的なのは、提供する側(企業の従業員)とサービスを享受する側(ユーザー)の規模が従来とは大きく異なる点だ。米国マクドナルドの従業員は44万人で、月間利用者数は6800万人。一方、写真共有アプリのSnapchat(スナップチャット)は、わずか300人の従業員で月間1億人にサービスを提供している。こうした状況ついてオライリー氏は、「デジタルワーカーは労働者というよりも、コンピュータのプログラムを効果的に管理する『監督』だ」と指摘する。

 たとえば、配車サービスプラットフォームのUber(ウーバー)やLyft(リフト)のようなサービスは、人間の「監督」によって管理されているが、「どの自動車を、どこに配車するか」といった決定は、ソフトウェアのプログラムやアルゴリズムが行う。そしてアルゴリズムは、蓄積されたデータですべてを判断する。極端に言えば、生産性が低い労働者を可視化し、『監督』に対して切り捨てるよう提示することも可能だ。

画像
オライリー氏はUberやLyftのような企業はソフトウエア(アルゴリズム)が人間に指示を与えていると指摘する
(スライド/オライリー氏のセッションより)

 ただし、オライリー氏はこうした状況が加速することに警鐘を鳴らす。「デジタルワーカーはビジネスを正しく判断できる『正しいアルゴリズム』を設計する必要がある。技術は人間が抱える問題を解決するもの。(中略)ウーバーは労働者(ドライバー)を使い捨てにするなど、課題も多い。企業は労働者のニーズも考慮に入れる必要がある。その判断を人間が誤ってはならない」(オライリー氏)

【次ページ】人間と技術が共存するために重要となるものは? 好例はアマゾン

関連タグ

関連コンテンツ

あなたの投稿

    PR

    PR

    PR

処理に失敗しました

人気のタグ

投稿したコメントを
削除しますか?

あなたの投稿コメント編集

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

通報

このコメントについて、
問題の詳細をお知らせください。

ビジネス+ITルール違反についてはこちらをご覧ください。

通報

報告が完了しました

コメントを投稿することにより自身の基本情報
本メディアサイトに公開されます

必要な会員情報が不足しています。

必要な会員情報をすべてご登録いただくまでは、以下のサービスがご利用いただけません。

  • 記事閲覧数の制限なし

  • [お気に入り]ボタンでの記事取り置き

  • タグフォロー

  • おすすめコンテンツの表示

詳細情報を入力して
会員限定機能を使いこなしましょう!

詳細はこちら 詳細情報の入力へ進む
報告が完了しました

」さんのブロックを解除しますか?

ブロックを解除するとお互いにフォローすることができるようになります。

ブロック

さんはあなたをフォローしたりあなたのコメントにいいねできなくなります。また、さんからの通知は表示されなくなります。

さんをブロックしますか?

ブロック

ブロックが完了しました

ブロック解除

ブロック解除が完了しました

機能制限のお知らせ

現在、コメントの違反報告があったため一部機能が利用できなくなっています。

そのため、この機能はご利用いただけません。
詳しくはこちらにお問い合わせください。

ユーザーをフォローすることにより自身の基本情報
お相手に公開されます