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- 2017/03/27 掲載
オライリー氏が望む「人」と「コンピュータ」の関係 今後“労働”はどうなるか
自動化で47%の仕事が消滅する?
オライリー氏は、ベトナムのホーチミン市において開催されたインターネットに関する国際フォーラム「APRICOT 2017」(2017年2月20日~3月2日開催)の基調講演に登壇した。冒頭、オライリー氏は技術やインターネットの進化で、自身の生活がどのように変化したのかを切り出した。「飛行機のスケジュール確認やタクシーの手配を考えてほしい。数年前は電話やパソコンを使っていた。しかし、今はキッチンにある音声認識デバイス(Amazon Echo)に話しかけるだけだ。こんな未来を想像していただろうか」(オライリー氏)。
IT技術の進化により、人々の暮らしは劇的に変化している。特にインターネットの普及やIoT(Internet of Things)の台頭で、人と人、人とモノのコミュニケーションはこれまでになかった方法で行われるようになった。
「私が初めてインターネットに接した頃、(インターネットは)単なるテキスト・コミュニケーションツールだった。しかし、今では社会基盤を支える重要インフラになっている」(オライリー氏)
さらに注目されているのは、産業構造の変革を後押しするインターネットの役割だ。洋服の仕立てや作物の種まきなど、20世紀初頭には人が作業していた仕事は、ほぼ自動化された。そして今後は、自動運転技術やドローンの進化など、あらゆるモノがインターネットに接続されることで、運送や物流の領域でも自動化が進むと予想されている。
ただし、こうした状況に警鐘を鳴らす専門家も少なくない。オライリー氏は、オックスフォード大学教授であるカール フレイ氏とマイケル オズボーン氏が「現在の仕事の47%は、今後20年間で自動化される“リスク”がある」と指摘していることを紹介した。
「IT化による生産性の追求で、人件費は『排除すべきコスト』と見なされるようになった。製造現場での自動化によって、ブルーワーカーの仕事は、ロボットが取って代わった。さらにAIの登場により、ホワイトカラーも仕事を失いつつある。グローバルエコノミーの中でわれわれは、技術が目指すゴールは、生産性を最大化することだと考えていた。しかし、この考えは間違っている。(中略)インターネットなどの技術で、人間の労働が奪われないよう、技術の“使い方”を考える必要がある」(オライリー氏)
デジタルワーカーは「労働者」というよりコンピュータの「監督者」
デジタルワーカーの仕事は、ビッグデータ分析やWebサービスの開発、新たなデジタル・プラットフォームの構築など、ソフトウェアのプログラミングやアルゴリズムの開発が中心だ。そして、それらを駆使することで、これまで存在しなかったサービスを提供している。
特徴的なのは、提供する側(企業の従業員)とサービスを享受する側(ユーザー)の規模が従来とは大きく異なる点だ。米国マクドナルドの従業員は44万人で、月間利用者数は6800万人。一方、写真共有アプリのSnapchat(スナップチャット)は、わずか300人の従業員で月間1億人にサービスを提供している。こうした状況ついてオライリー氏は、「デジタルワーカーは労働者というよりも、コンピュータのプログラムを効果的に管理する『監督』だ」と指摘する。
たとえば、配車サービスプラットフォームのUber(ウーバー)やLyft(リフト)のようなサービスは、人間の「監督」によって管理されているが、「どの自動車を、どこに配車するか」といった決定は、ソフトウェアのプログラムやアルゴリズムが行う。そしてアルゴリズムは、蓄積されたデータですべてを判断する。極端に言えば、生産性が低い労働者を可視化し、『監督』に対して切り捨てるよう提示することも可能だ。
ただし、オライリー氏はこうした状況が加速することに警鐘を鳴らす。「デジタルワーカーはビジネスを正しく判断できる『正しいアルゴリズム』を設計する必要がある。技術は人間が抱える問題を解決するもの。(中略)ウーバーは労働者(ドライバー)を使い捨てにするなど、課題も多い。企業は労働者のニーズも考慮に入れる必要がある。その判断を人間が誤ってはならない」(オライリー氏)
【次ページ】人間と技術が共存するために重要となるものは? 好例はアマゾン
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